台湾で本格イタリアンの先駆けに

台湾の百貨店に出店している「リストランテ サバティーニ青山」の直営店であるイタリアンの「TRASTEVERE」。本場の味や安全な食材が売りとなり、接待や記念日で利用されている。

URLコピー

近年、和食への注目度が世界的に高まるなか、海外に進出する日本の外食企業も増加傾向にある。アジア各国で、“日本の食”を売りにしている繁盛店を取材し、そこから、海外出店を成功させるためのヒントを探る。

ニーズを踏まえた料理を提供し、台湾で本格イタリアンの先駆けに

【台湾・台北】TRASTEVERE
11F, SOGO in Fuxing, No. 300, Section 3, Zhongxiao East Road, Taipei
http://www.trastevere.com.tw/
東京の老舗イタリアン「リストランテ サバティーニ青山」の直営店舗。天井が高い開放的な空間に全122席を備え、台湾での本格イタリアンの先駆けとして高い人気を誇る。

食材の産地を料理名に入れ“安全な食材”をアピール

台北有数の繁華街で、流行の発信地でもある忠孝復興(ヂョンシャオフーシン)エリア。2006年12月、11階建ての百貨店「SOGO復興館」(現・遠東SOGO復興館)の開業に合わせて、最上階にオープンしたのが、東京の老舗イタリアン「リストランテ サバティーニ青山」の直営店「TRASTEVERE(トラステヴェレ)」だ。高級感ある開放的な空間に、テーブル席や個室などを用意。平日はビジネス層、週末はファミリーを中心に集客している。

「百貨店からオファーを受け、初の海外出店に踏み切りました。海外でのノウハウはありませんでしたが、『SOGO』は台湾に複数あり、高い知名度があるので、集客力を含めてメリットがあると考えました」と、当初からディレクター兼料理長を務める山下好彦氏は振り返る。

オープンに向けて山下氏は、競合店調査のために台北のイタリア料理店をいくつも食べ歩いた。すると、どの店もパスタは茹ですぎで、アルデンテとは言えないものばかり。「これなら、本物のイタリアンを提供すれば勝てる」と自信を深めたが、その目論見はオープン直後に崩れることに。「パスタをアルデンテで出したところ、『硬い』と。さらに『こんなのはイタリアンじゃない』と言われました。リゾットも柔らかいものが好まれるなど、“台湾流のイタリアン”が浸透していたのです」と山下氏。また、当初はルッコラやバジルなど食べ慣れない食材を残す人も多く、中国料理の“シェアする習慣”から、2人で1人分を注文し、「少ない」とクレームを受けることもあった。

見たことのない素材は好まれず、慣れ親しんだ調理や味が求められる。そんな台湾の食文化の保守的な一面に戸惑いつつも、山下氏は本格イタリアンの提供をあきらめなかった。テーブルにアルデンテの説明を記したポップを置き、オーダー時に「柔らかめにしますか」と確認するなど、店側から急な変化を求めるのではなく、現地のニーズに寄り添いながら、徐々に「本物」を伝えていくことにした。

また、日本の店にはないオリジナルメニュー「大有頭海老(根島明蝦 ガンドウミンシャー)と北海道産帆立貝、エビの風味豊かな特製トマトソースで和えたフェットチーネ」(650ドル=約2340円)を開発。海鮮料理を好む台湾人向けに、ソースにも海老のミンチを入れたことで大好評。料理名に食材の産地を入れたのは、素材のよさを伝えるとともに、近年、食品の不正表示が問題になっている台湾で安全性をアピールする狙いもある。こうした取り組みによって、“本場の味”や“安全な食材”が他店にはない売りとなり、接待や記念日で利用されるようになった。

スタッフは、キッチン、ホールそれぞれ10名前後と、ほかにレセプション担当者がおり、全員現地で採用。台湾は日本以上に長時間労働などの労務管理に厳しいため、余裕のある人員配置やシフトの組み方を心がけている。

オープンから10年以上が経ち、台湾で本格イタリアンのパイオニアとして、多くのファンを獲得している同店。「台湾の人は、普段は80ドル(288円)の弁当で済ませる一方で、高級和牛に一食2000ドル(7200円)を出すことも惜しみません。ただ、料理にお金はかけても、お酒を料理と一緒に楽しむ習慣がまだ浸透していないと感じます。やっと本場のイタリアンが根付いてきたので、次は料理とワインのマリアージュの楽しさを伝えていきたい」と、山下氏は今後の展開を考えている。

「TRASTEVERE」の成功のポイント

1. パートナー

老舗百貨店として台湾でも有名な「SOGO」の依頼を受けて出店。一等地での出店と高い集客力が大きなメリットに。

2. メニュー

当初、台湾ではなじみの薄かった本格イタリアンを提供。メニュー名に食材の産地を明記することで安全性をアピール。

現地で主流ではない本格イタリアンを提供して差別化に成功
一番人気の「ピッツァ・マルゲリータ」(320ドル=約1,152円)。ピザは、それまで台湾で主流だった縁が厚めのナポリ式ではなく、薄くクリスピーなローマ式で提供。他店との差別化のポイントになった

「宮崎牛 A5すね肉の赤ワイン煮込み イタリア米リゾット添え」(780ドル=約2,800円)。グラナパダーノチーズとライスを、客前で混ぜて提供するスタイルが好評
「大有頭海老と北海道産ホタテ貝、エビの風味豊かな特製トマトソースで和えたフェットチーネ」。海鮮、特にエビを好む台湾人向けに開発したオリジナルメニュー

3. 人材

日本以上に労務管理への意識が高い台湾。長時間労働を避けるため、余裕ある人員配置とシフト管理を意識している。

長時間労働にならないよう余裕のある人員配置を意識
「台湾は日本より労務管理に厳しく、飲食店も例外ではない」と山下氏。長時間労働にならないよう、余裕のある人員配置に気を配っている

4. 販促・演出

常連には、特典が付くVIP会員カードを発行。また、客席からピザの調理が見えるようにして、期待感を高めている。

薪釜で焼き上げるピザの調理風景を客席から見えるようにして期待度UP
客席から見えるピザの調理が期待度をアップ。写真を撮影する人も多く、SNSなどでの情報拡散にもつながっている

「TRASTEVERE」の主なメニュー、コース

●アラカルト

  • 宮崎牛A5 うちもも肉のロースト(1,120ドル=約4,032円)
  • スペイン産生ハムとメロン6カット(230ドル=約828円)
  • イタリア米のチーズリゾット スペイン産イベリコ豚フィレ肉のロースト添え(650ドル=約2,340円)
  • スパゲティ・ボンゴレ・ビアンコ(320ドル=約1,152円)
  • ミートソースのラザニア(390ドル=約1,404円)
  • スペイン産生ハムと茸のピッツァ・ビアンカ(430ドル=約1,548円)
  • 本日の魚の香草焼き(490ドル=約1,764円)
  • ティラミス(180ドル=約655円)
  • マスカルポーネチーズのミルフィーユ(230ドル=約828円)

●コース

  • シェフおすすめランチコース(1,080ドル=約3,888円)
  • シェフおすすめディナーコース(1,500ドル=約5,400円)
  • ウィークデーランチ(290ドル=約1,044円)

●ドリンク

  • キールロワイヤル(300ドル=約1,080円)
  • イタリアビール(150ドル=約540円)
  • イタリアワイン白、赤 グラス(160ドル=約576円~)/ボトル(800ドル=約2,880円~)
メニューブックは中国語、イタリア語、日本語で表記。ベジタリアン向けの料理には印を付けている
テーブル席のほか半個室(写真)や完全個室も備える。接待や記念日など幅広いシーンで利用されている

店舗データ

業態   イタリア料理
オープン 2006年12月
席    122席
客単価  昼/600ドル(約2,160円)夜/1,000ドル(約3,600円)
客層   昼はアッパー層やビジネス層、夜はカップルが客層の中心。週末になるとファミリーが増える。

※1台湾ドル(文中では「ドル」で表記)……約3.6円
別途サービス料10%

ディレクター・料理長 山下 好彦 氏
東京のイタリア料理店に勤務後、「TRASTEVERE」のオープンに合わせて、ディレクター兼料理長に就任。中国語を一から学び、今ではスタッフへの指示もスムーズに出せるように。

台湾の基本情報

面積     36,191km2(九州は42,000km2
人口     2,350万人
言語     中国語、台湾語、客家語、その他原住民の言語
通貨     台湾ドル(文中では「ドル」で表記)
飲食店数   約18万9,000店舗(2010年)(日本料理店 約6,457店)(2015年)
世帯平均年収 約217万円

「TRASTEVERE」周辺エリアの特徴

2路線が乗り入れる忠孝復興駅前は、百貨店「遠東SOGO復興館」(写真右)があり、若い層や国内外の観光客が集まる食やファッションの流行発信地。昔ながらの老舗や落ち着いた住宅街も共存している。

出典:日本貿易振興機構