豊かな食文化を育むことが地域経済活性化のカギになる
食で高崎を元気にすることを目指して、地場の食材にこだわった飲食店を展開するティープロダクト。代表取締役の平児玉博樹氏は、レストランウエディングをはじめ、高崎の食文化を豊かにする活動に精力的に取り組んでいる。そのダイナミックな挑戦とバイタリティあふれる行動の背景には、確固とした理念と熱い想いが横たわっている。
――ウエディングプランナーとして起業されたということですが、その経緯を教えてください。
2001年に独立して、30歳でティープロダクトを設立しました。直前まで勤めていたのは、「ザ・ジョージアンハウス1997」という結婚式場で、当時は稼働率日本一と言われ、最盛期には年商数十億円をはじき出す、群馬では伝説の結婚式場でした。そこで、私は年間100組以上のウエディングをプロデュースし、入社3年目のときには、すでに支配人になっていました。
そんなある日、転機が訪れました。予算の関係で、レストランで式を挙げたいというカップルから、プランニングのみ依頼されたのです。それまで、「お客様にとってもっともふさわしい結婚式」を提案することを信念としてきた私は、この依頼を断れませんでした。しかし、結婚式場の支配人が、他の会場で行なう結婚式をプランニングするわけにもいきません。悩んだ末に退職を決意しました。
何の準備もなく、ウエディング事業を立ち上げたため、最初の年の成約は3件だけで、600万円の赤字。社員の給料はアルバイトで稼ぎながらなんとか踏ん張り、翌年は20件をプロデュースし、3年目には年間1億円以上を売り上げるまでになりました。目指したのは、「小さくても、あったかい結婚式」。式場ありきではなく、それぞれの予算や状況に合った結婚式やレストランウエディングを提案しました。
――その後、飲食業へも進出されましたが、きっかけは何だったのでしょうか。
ウエディング事業が軌道に乗った頃、ふと、「地元(群馬)にはずいぶんお世話になったなあ」と思ったのです。高校を卒業後、イギリスに約4年間留学し、帰国して最初に就職したのが前橋の「群馬ロイヤルホテル」でした。特にホテルマンを目指していたわけでもなかったので、落ちこぼれそうになっていた私に、社長が「君には期待しているよ」と声をかけてくれたのがうれしくて、フロントマンとして猛勉強を始めたのです。人から期待されるって、とても大事なことなんですよね。その後、高崎でウエディングプランナーとして経験を積みました。起業後も、多くの人たちが力を貸してくれ、そうした人たちとの出会いが自分をここまで育ててくれたのだと思い、そんな地元に何か恩返しをしたいとひらめいたのが、レストラン事業でした。
当時、高崎には「きちんとした食事」を提供できるレストランがあるとは言えませんでした。ここでいう「きちんとした食事」とは、地元の旬の食材を、おいしく調理すること。日本には四季がありますが、食べることで季節を感じさせ、心も体も元気にすることが、食本来の力だと思います。それを具現化したレストランを高崎に作りたいと考えたのが出発点でした。そんな店が増え、高崎の食文化が全体としてレベルアップすれば、地域の活性化につながると思い至ったのです。
そんな考えのもとにオープンしたのが、1号店である「美食材ロハス」です。この店が、健康や環境に配慮したロハスというライフスタイルを、おそらく高崎で初めて提唱したと思います。
――食文化を通じて地域を活性化するために、飲食店はどうあるべきだとお考えですか?
キーワードは「生産者を育てるのは消費者」ということです。生産者が丹精込めて作った良質な食材と、それを生かした料理に対して、消費者が適正な価格を支払って享受するという消費行動が、これからの地域経済には不可欠だと思います。そのためには、豊かな食文化が育まれなければなりません。ジャンクフードばかりでなく、旬の地場の食材をきちんと食べる。その価値を理解する地域の文化が必要になるのです。
そうした食文化を育てる要となるのが、飲食店だと私は思います。飲食店が生産者から食材を安く買い叩いて、他店より安く売ることばかりを追求し、そのために安全性や味を犠牲にするようでは、最終的に自分で自分の首を絞めるだけです。
地場食材の良さを消費者に伝え、その価値をわかってもらうために、飲食店は努力を欠いてはいけないのです。お客様に価値が伝われば、それに見合う対価も支払っていただけます。そうすれば、生産者も飲食店も消費者も元気になり、地域経済も活性化することは間違いありません。 そんなに難しいことではないと思いますよ。「いいものをいいと認識する」という当たり前の価値観を再確認し、広めていくだけですからね。
――御社が手がけられている様々な企画やイベントも、飲食店の役割の一環なのですね。
店では、群馬の食材を使ったおいしくてヘルシーな料理を提供することが大切ですが、それ以外にもいろいろな企画を実施しています。そのひとつが料理教室です。消費者が自分で料理を作ることは、豊かな食文化の礎になると思いますし、店を身近に感じてもらえるよい機会です。
また、食の専門家による講演会や講習会も開いています。先日は有名なワインソムリエや、日本で最初のオリーブオイルソムリエの方を招きました。こうした食文化に触れることで、飲食業界も消費者も食に対する思考をブラッシュアップでき、その結果、高崎の飲食業界全体のレベルアップにつながると考えています。
ほかにも、高崎の飲食店のオーナーと対談するラジオ番組を1年半前から続けています。さらに、高崎の街を食べ飲み歩きして、飲食店の魅力を発見してもらうイベント「高崎バル」もプロデューサーのひとりとして発案しました。自分の店だけが繁盛すればいいのではありません。地域全体が活性化してこそ、事業を展開する意味があるのです。
――そうした取り組みのバックボーンには、どんな理念があるのでしょうか?
私は、ビジネスの基本は「相手に有利な提案をすること」に尽きると思っています。それは結婚式場に勤めていたときから変わりません。相手に実体以上のよいイメージを抱かせて契約にもっていったり、自分に有利なビジネスをしようとすると、結局どこかに無理が出て、相手にも自分にもいいことはありません。ビジネスは自分だけが潤おうとしては絶対にいけない。飲食店は、生産者と消費者が共に幸せになるような提案をすることで、店自体の発展につなげることが必要なのです。それでお店が立ち行かないなら、努力が足りなかったというだけのことです。
――最後に、御社の今後の目標や計画などについて、お聞かせください。
これからも、やりたいことはたくさんあります。例えば、お客様が自分で野菜を作るというのはどうでしょうか。店にプランターを置いて、そこにお客様が好きな野菜を植える。日々のお世話はスタッフが行ない、お客様は成長の様子を見に来店されます。そして、来店を重ねるうちに収穫できる時期が来て、採りたての旬の野菜を食べて喜んでいただけたら、どんなに素敵だろうと思うのです。お子様も一緒に来ていただければ、よい経験になると思いますしね。
そのほか、和食の店も展開していきたいですし、それと、もうひとつ。昨年、日本と同じく自然災害に遭ったタイで、海外ウエディングを企画したいですね。タイを訪れる人を少しでも増やすことで、災害からの復興に役立ちたいと思っています。
Profile
ひらこだま ひろき
1970年
群馬県前橋市生まれ
1990年
高校卒業後、英国へ留学
1994年
帰国後、群馬ロイヤルホテルに就職
1997年
ザ・ジョージアンハウス1997に転職
2001年
ティープロダクトを設立
2006年
レストラン事業を開始。現在、ブライダル・レストラン事業、コンサルティング、講演会・料理教室・イベントのプロデュースなどを手がける。また、高崎飲食業活性化協議会委員も務める
Company Data
会 社 名
ティープロダクト
所 在 地
群馬県高崎市江木町298-1
店 舗 名
「Ray of path Church」
「美食材ロハス」
「安心食材 グラツィエ」
「Kirari cafe」
「Art marche team Al. che-cciano」