2018/08/29 挑戦者たち

株式会社クラマ計画 代表取締役 佐竹 伸彦 氏

佐竹伸彦氏が代表を務めるクラマ計画は、立ち飲みの繁盛店など大阪市内で9店舗を展開し、9月には10店舗目をオープン。全員が経営者視点を持つ「非中央集権型」という独自組織も大きな注目を集めている。

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飲食業界をよくするための仕組みを発信していきたい

佐竹伸彦氏が代表を務める株式会社クラマ計画は、立ち飲みの繁盛店「ジャックとマチルダ」や「和酒吟蔵」など、大阪市内で9店舗を展開し、今年9月には節目となる10店舗目をオープン予定。今、大阪で勢いのある飲食企業として話題だ。全員が経営者視点を持つ「非中央集権型」。そんな独自の組織作りも大きな注目を集めている。

――大手電機メーカーのエンジニアを経て、飲食業に転身されたそうですね。

将来は自分で商売をしたいと、中学生ぐらいから考えていました。実家は大阪・天神橋筋商店街で洋服店を営み、祖父も呉服屋。代々商売人の家系で、商いが身近な環境で育ったことが影響しているのだと思います。大学院を出て電機メーカーに就職したのも、いずれ起業するときのために、大手企業の経営や組織のあり方を見ておこうという気持ちでした。

入った会社は典型的なピラミッド型組織で、やりたいことがあってもその機会を得られず、そもそも話が上まで届かないことがほとんどでした。そんななか、自分で商売をしたいという思いが強まり、2年弱で退職。好きな料理を仕事にしようと考え、最初に東京の居酒屋で2年働き、その後、アメリカに渡って現地の寿司店で2年経験を積み、30歳のときに天満駅の近くに、夫婦で営む居酒屋を構えました。

この物件は、帰国した当日に実家の近所を歩いていて、たまたま見つけたものです。今でこそ賑わいがあるエリアですが、当時は人通りも少なく、条件的には不利。それでも、「若い夫婦が頑張っているから助けてやろう」と足繁く通ってくれる常連さんたちに支えられて、予想以上に売上は伸びていきました。その一方で、当時は夫婦2人が食べていければいい、という程度の考えで、店を増やすつもりはまったくありませんでした。

――実際には、約1年後に2店舗目を出店。きっかけは何だったのですか。

店をオープンしてから数カ月後に、ものすごく忙しい週末があり、過去最高の売上を達成したんです。そのとき妻は産休中で、閉店後の店内には自分1人。喜びを分かち合う相手が誰もいない寂しさを感じ、それが店舗展開に踏み出すきっかけになりました。

その頃、日本酒ブームが来そうな気配を感じていたこともあり、2店舗目は日本酒を軸にした業態に決めました。ただ、私自身はあまりお酒を飲めず、日本酒にも詳しくないため、社員の1人に日本酒の仕入れを思い切って全部任せてみることにしました。結果的にこの選択が大正解で、その社員がとても勉強熱心だったこともあり、日本酒の知識をどんどん増やしながら全国各地の酒蔵と関係を構築。仕入れルートを作ってくれた結果、日本酒を専門的に売れる体制が徐々に整っていきました。以降、ほぼ毎年のペースで日本酒が充実した店を出店しています。

出店は基本的に物件ありきで、繁華街の大通りからやや外れた路地が中心。これは2店舗目のとき、資金的な都合でやむなく裏通りに出店したところ、予想以上に売上が好調で、店自体に魅力があれば2等立地でも勝負できると確信したからです。無理して高い家賃を払ってまで立地にこだわる必要はないと考えるようになりました。運営する店舗はそれぞれ、業態やコンセプト、売りのメニューが異なります。

1978年、大阪府出身。大学院で物理学を専攻し、卒業後、電機メーカーのエンジニアを経て、飲食の道へ。2009年、実家から近い天満駅前の裏路地に夫婦2人で構えた居酒屋が1号店。その後、順調に出店を重ね、9月に10店舗目のオープンを控える。

――成功した業態を展開するのではなく、あえて業態を変えて挑む理由は?

第一の理由は、新しいことへの挑戦に価値があると感じているから。第二に、効率的に店舗を増やすことに必要性を感じないから。第三に、当社はマニュアルがなく現場に依存するので、同業態でも決して同じ店にはならず、最初の店が繁盛したからといって、次の店も繁盛するという保証がないからです。

出店の際は、まず業態開発メンバーが大まかなコンセプトを考え、そのコンセプトや立地などを社員全員に提示。「やりたい」という希望者数名を含めて業態を練り上げていきます。早い段階で店作りに参加してもらうのは、店への愛着、オーナーシップを醸成するためです。

店作りをする中で、業態開発には特別なセンスが必要だと感じています。そのセンスの源は、「どれだけ飲食が好きか」ということ。その熱意がある人はほかの人が思いつかないアイデアを提案でき、仕事自体を楽しめるはずです。

毎回、一から考えるのは容易ではなく、結果的に当たりはずれも当然あります。でもそこは、効率を追うべきところではなく、みんなで考えて作り上げる楽しさが大事だと思っています。

――活気と勢いがある企業と評判です。成長の秘訣はどこにあるのでしょう。

もっとも大切にしているのは、社員がモチベーションを高く保ち、仕事を楽しめる環境作りです。そのためには、考えたことを自由に発言し、実行できる社内風土を作ることが重要。私が会社員時代に経験したのとはまったく逆のカルチャーです。現場に決定権を委ねつつ、それがきちんと機能する仕組みを整えていく必要があると考え、現在、制度を整えているところです。

具体的には、当社は「非中央集権型組織」を掲げており、店長もエリアマネージャーもいません。例えば、新メニューや新店の出店など議題や提案がある場合、社員全員に開示されますが、それに関して詳しい人や経験のある人がアドバイスや指摘をします。それらを踏まえ、発案者は責任を持って決断します。こうしたやりとりはスマートフォンのメッセージアプリ上で行うので、全員が一堂に集まる必要はありません。また、経験値の高い社員が“コーチ”として話し合いに加わることで、会社全体で経験やノウハウが蓄積されていくことを目指しています。

モチベーションが上がる以外に、この仕組みにはもう1つメリットがあります。すべての従業員が店に対してオーナーシップを感じることで、主体的にアイデアを出す人が増え、個々の店の個性や魅力が増して競争力につながる点です。会社が大きくなっても、店自体や人の魅力でお客様を集める「個人店の集合体」でありたいというのが大きなコンセプト。今後も出店を続けていきますが、何年後に何店舗といった目標は掲げていません。現場で考え、現場で決める組織をさらに確立させていくことがこの先の目標です。それには、判断材料となる情報は全部開示することが大事だと考え、売上や経費といった数値は、全社員が全店舗分を毎日スマホで見られるようにしています。最終的には、あらゆる経営判断を現場に委ねていくつもりです。

「非中央集権型組織」を支える従業員と。「彼らが楽しんで働いている姿を見るのがモチベーションです」(佐竹氏)

――今までにない組織のあり方を模索し、挑戦し続けるうえでの原動力は?

世の中には料理が好きな人も、食べるのが好きな人も大勢いるのに、新卒で飲食企業に入る人は少ない。それだけ飲食業界のイメージがよくないということ。この現状を根本から変えたいという思いが強くあります。

飲食業界に入ってくる人は、みんな高いポテンシャルを持っています。なぜなら、厳しいといわれる業界に、自ら選んで入った人たちであり、それだけ「飲食業が好き」という気持ちが強いはず。その情熱を持ち続けられる環境を整えるためにも、既成の理論にとらわれない組織作りを進め、成功事例を作って発信したい。「どうすれば組織がもっとよくなるか」を追求することが、経営者としてのモチベーションになっています。ほかの人がやっていないことに挑むからこそ価値があるのだと信じて、挑戦を続けていきます。

日本酒と手作り料理の店 和酒吟蔵(大阪・福島)
https://r.gnavi.co.jp/kbd7800/
日本各地から仕入れる常時40種以上の日本酒が目玉。九州・玄界灘から直送される鮮魚や、手作りのおばんざいが楽しめる。
robata 279(大阪・天神橋)
https://r.gnavi.co.jp/b06sn96h0000/
厳選食材を備長炭でじっくり焼き上げる炉端焼の店。店名の279(つなぐ)には生産者と食べる人をつなぐ意味が込められている。

Company Data

会社名
株式会社クラマ計画

所在地
大阪府大阪市北区天神橋3-1-11

Company History

2009年 1号店「ちゃぶ」オープン(2017年に「あずき色のマーカス」にリニューアル)
2011年 日本酒を軸にした「和酒吟蔵」オープン
2012年 「土佐堀 吟蔵」オープン
2013年 「炭や吟蔵 本店」オープン
2015年 「SAKAZUKI淀屋橋店」オープン
2016年 「ジャックとマチルダ」「継」オープン
2017年 「robata 279」「焼鳥 ハナカモメ」オープン
2018年 「継」を「路地裏アバンギャルド」にリニューアル 10店舗目の立ち飲み業態をオープン

※本記事の情報は記事作成時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報はご自身でご確認ください。

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