シンガポールでマグロ卸店直営の寿司店が躍進!

シンガポールにある「MaguroDonya Miuramisakikou Sushi&Dining」は、本マグロをリーズナブルに提供する寿司店。おいしさを伝えつつSNS映えする料理もそろえ、ファンが増加中。

URLコピー

近年、和食への注目度が世界的に高まるなか、海外に進出する日本の外食企業も増加傾向にある。アジア各国で、“日本の食”を売りにしている繁盛店を取材し、そこから、海外出店を成功させるためのヒントを探る。

サーモンが人気のシンガポールでマグロ卸店直営の寿司店が躍進!

【シンガポール】
MaguroDonya Miuramisakikou Sushi&Dining

3 Temasek Boulevard #03-310 Suntec City Mall Singapore 038983
http://magurodonya.com/

寿司といえば高級なイメージが強かったシンガポールで、マグロ卸店直営の強みを活かし、上質な本マグロを手頃な価格で食べられると好評を博している。

現地スタッフの育成ではインセンティブを活用

シンガポール中心部にある複合商業施設「サンテック・シティ・モール」。この3階に、日本食に特化した7つの飲食店が集まる「イート・アット・セブン」が2015年7月オープンした。そのなかの1店舗「MaguroDonya Miuramisakikou Sushi&Dining」は、本マグロなどをリーズナブルに提供する寿司店だ。主な客層は現地の住民で、日本人は約1割。平日はビジネス層、週末はファミリーを中心に集客している。

経営母体はマグロの卸売りや加工を手がける三崎恵(みさきめぐみ)水産のグループ会社の株式会社ネオ・エモーション。シンガポールでマグロの卸の仕事をするなかで、「イート・アット・セブン」の立ち上げに携わっていた全日空商事株式会社から誘われたのがきっかけだった。「現地で直営の飲食店を持てば、卸店としてアピールできると考え、出店を決めました」と、株式会社三崎恵水産 常務取締役の石橋匡光氏は振り返る。

寿司ネタの売りは、鮮度の高い本マグロ。同社は、各地から年間100トンの契約で冷凍の上質な本マグロを買い付けており、これを神奈川県の三崎港にある工場で加工している。その一部を、三崎港に水揚げされたメバチマグロや築地(現・豊洲)と横浜の市場で仕入れた魚介とともに、週3回シンガポールに空輸。「1回の輸送量が100キロ以上になると、キロ単位の輸送費が割安になるので、シンガポールにあるほかの飲食店に卸す魚も含めて、できるだけまとめて空輸しています。また、余計なマージンが発生しないのも卸店直営のメリット。大トロなら、仕入れ値は他店の約半額です」と、現地法人のディレクター・渡邊将基氏は語る。

こうして、ほほ肉やカマトロ、中落ちといった希少部位も含め、鮮度の高い本マグロをリーズナブルに提供できる強みを売りに営業を開始。しかし、当初は苦戦を強いられた。理由は、寿司=高級のイメージが強く、現地の人には入店のハードルが高かったこと。さらに、「シンガポールでは寿司といえばサーモンが大人気で、マグロのニーズは低かった」(渡邊氏)ことも足かせとなった。それでも、生食用に鮮度管理を行っているという自負から、火を入れて食す物流マグロをイメージさせる「TUNA」ではなく、「MAGURO」とメニューに表記してブランド構築に努めた。

さらに、マグロの部位をメニューブックのイラストで示すほか、大トロや中トロ、赤身などを食べ比べできる「鮪5点刺身」(61.20ドル=約4957円)を提供することに。こうした取り組みに加え、本マグロのおいしさと普段使いできる価格設定が徐々に浸透し、ファンを増やしていった。

一方、スタッフはほぼ全員を現地で採用。育成を進めるなかで、「国民性として時間にルーズな部分がある」と感じた渡邊氏は、「1カ月無遅刻・無欠勤のスタッフに50ドル支給」「営業後、決められた時間で業務を終わらせれば、1日7.5ドルを支給」などのインセンティブを導入。これにより、週2~3回はあった遅刻が大幅に減少し、片付けや清掃をだらだら行うスタッフもいなくなった。また、「スマイルプロジェクト」と銘打って、スタッフ全員が勤務前に自分で撮影した笑顔の写真を、店のLINEグループに投稿する取り組みも実施。「自然と笑顔で接客できるスタッフが増えました」と、渡邊氏は効果を感じている。

現在、売上はオープン当初の1.5倍以上となり、右肩上がりを継続中。今後は、培ったノウハウと人材を活かし、アジア各国で丼ものなどを提供する低価格業態で店舗展開を進めたいと考えている。

「MaguroDonya Miuramisakikou Sushi&Dining」成功のポイント

1. パートナー

大手航空会社系列の商社と連携して出店。機内誌に記事広告を掲載するなど、様々なプロモーションを展開している。

2. メニュー

サーモンが人気のシンガポールで、本マグロを売りに勝負。SNS映えを意識したメニューもそろえ、人気を博している。

撮られることを意識したインパクトある盛り付けが店の認知度アップに貢献!
(上)「マグロウニいくら三崎巻」(75.30ドル=約6,099円)。シンガポール人が好む食材「ウニ」「トロ」「イクラ」を“こぼれスタイル”で提供
(下)高いオーダー率を誇る「鮪5点刺身」は立体感のある盛り付けが特徴。頭身(とうみ)など、シンガポールの寿司店では珍しい希少部位も入る

3. 人材

無遅刻・無欠勤者へのインセンティブを設定。スタッフ全員が毎日笑顔の写真をグループLINEに投稿する取り組みも。

インセンティブを活用して、遅刻や欠勤の問題を解決!
インセンティブの設定で遅刻などが減少。「明確に基準と報酬を提示すれば、外国人スタッフには特に効果的だと感じます」(渡邊氏)インセンティブの設定で遅刻などが減少。「明確に基準と報酬を提示すれば、外国人スタッフには特に効果的だと感じます」(渡邊氏)

4. 販促・演出

オープン当初、売りのマグロをアピールするために解体ショーを実施。インパクトが話題になり、集客力がアップ。

「マグロ解体ショー」が、店を知るきっかけに
オープン当初、マグロ卸店直営である強みをアピールするため、定期的に約45名の貸切イベント「マグロの解体ショー」(176ドル=約1万4256円)を実施。SNSなどで話題となり、集客力もアップ。現在は、40名以上で予約が入れば開催する。

「MaguroDonya Miuramisakikou Sushi&Dining」の主なメニュー、コース

●セットメニュー

  • MEGUMIスペシャル定食(57.65ドル=約4,670円)
  • 大トロ丼セット(46.95ドル=約3,800円)
  • トロひっかき炙り丼セット(43.40ドル=約3,515円)
  • スペシャル鮪丼セット(52.80ドル=約4,277円)
  • サーモンマヨネーズ炙り丼セット(29.30ドル=約2,373円)
  • 北海丼セット(52.80ドル=約4,277円)
  • 松寿司セット(52.80ドル=約4,277円)
  • 黒鮪セット(35.15ドル=約2,847円)
  • 彩寿司弁当(45.75ドル=約3,706円)
  • カマ焼き定食(45.75ドル=約3,706円)
  • サーモンハラス 焼き定食(29.30ドル=約2,373円)
  • 鯖塩焼き定食(20.95ドル=約1,697円)

●アラカルト

  • 大トロ刺身(68.25ドル=約5,528円)
  • 鮪3点握り(32.95ドル=約2,669円)
  • めぐみ軍艦(29.40ドル=約2,381円)
  • 鮪美肌鍋(30.60ドル=約2,479円)
キッズセットも3種類用意。1番人気は、全8品で17.50ドル(約1,418円)のBセット(写真)
マグロの部位を知らない人もいるため、メニュー表ではイラスト付きで部位などを紹介
日本酒は、ショーケース(写真)から選んでもらうスタイル。シンガポールでは、やや甘口の銘柄が好評

店舗データ

業態   寿司・和食店
オープン 2015年7月
席    68席
客単価  昼/43ドル(3,483円)夜/59ドル(4,779円)
客層   昼は30~40代、夜は40~50代。平日はビジネスマンの利用が多く、男女比は半々。日本人の来店は全体の1割程度。

※1シンガポールドル(文中では「ドル」で表記)=約81円(2018年10月)価格は税・サービス料込

Megumi F&S Singapore Pte. Ltd. ディレクター 渡邊 将基 氏
フランス料理店などに勤務後、株式会社三崎恵水産のグループ企業で、飲食事業を担う株式会社ネオ・エモーションを経て現職。マグロの解体ショーでも腕を振るう。

シンガポールの基本情報

面積     719.2平方km(東京23区と同程度)
人口     約561万人(2016年6月)
言語     マレー語、英語、中国語、タミル語
通貨     シンガポールドル(文中では「ドル」で表記)
飲食店数   約26,600店(日本料理店/1,400店)(2016年)
世帯平均月収 約73万8,600円(2017年)

店舗周辺エリアの特徴

シンガポールの中心的市街地にある大型複合施設「サンテック・シティ・モール」。施設内には国際会議場やショッピングモール、映画館などがあり、ビジネス層や観光客、ファミリーなど幅広い層が行き来する。

出典:日本貿易振興機構、シンガポール統計局