2018/12/25 特集

2019 新年特別企画 経営者として――。それぞれの現在地

店舗展開が進み、組織が大きくなっていく過程で、経営者はさらなる成長を求められる。店を繁盛させ、より会社を強固にしていくためには何を学び、取り組むべきなのか。5人の飲食店経営者の現在地から探る。

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株式会社一家ダイニングプロジェクト 代表取締役社長 武長 太郎氏《飲食店経営者歴21年》

1977年、千葉県生まれ。大学中退後、20歳で起業し、千葉・市川市に居酒屋「くいどころバー一家(現こだわりもん一家)本八幡店」をオープン。その後、「こだわりもん一家」「屋台屋 博多劇場」ブランドを主軸に展開し、2012年にはブライダル事業に参入。経営者としてスタッフとのコミュニケーションを重視している

然るべきときが来たら、仕事を手放し、任せる。そうすることで人財が育つ

上場は新たなスタート。人財育成に力を入れる

 私が代表取締役社長を務める株式会社一家ダイニングプロジェクトは、「あらゆる人の幸せに関わる日本一のおもてなし集団」を、ミッションとして掲げています。設立したのは1997年12月、20歳のとき。そして、ちょうど20年目にあたる2017年12月に、東証マザーズに上場しました。上場セレモニーで鐘を鳴らしたときに感じたのは、「ようやくここまできた」ではなく、「ここから始まるんだ!」ということ。同時に、初めて自分の店をオープンしたときの想いがよみがえりました。

 実は、60歳になったら経営から退こうと考えているのですが、そういう意味では20歳で起業し、40歳を過ぎた今は、経営者としてちょうど折り返し地点を回ったところと感じています。上場しても自分は何も変わっていませんが、日本のおもてなし文化を、世界に発信するリーディングカンパニーになるという意気込みを新たにしました。

 そのために、経営者としてもっとも力を注いでいるのが“人財”育成です。社内の教育プログラム「一家ユニバーサルカレッジ」では、入社年数やレベルに合わせて、マインドや、スキル、知識、コミュニケーションなどを包括的に学びます。また、私が講師を務め、会社の理念やスタンスをレクチャーする「一家塾」も開催。同時に、スタッフ教育につながる社内イベントの企画にも、積極的に取り組んでいます。

 経営者の仕事というのは、会社の規模やステージに合わせて変わっていくべきだと思います。私も1号店を立ち上げ、そこから3店舗、10店舗、30店舗と展開していくなかで、役割や立場は変化していきました。然るべきときが来たら、仕事を手放し、部下たちに任せていくことが大切。新しい役割を課し、経験する場を与えることで、会社の未来を支える貴重な人財が育っていくのだと思います。

 これまでの人生を振り返ってみても、いろいろな経験が成長を後押しし、そのたびに多くのことを学びました。大きな転機となったのは、20代半ば。5店舗目を出す頃に現場を離れ、それを機に経営スタイルをトップダウンにしました。各店舗の売上が落ちていることに不安を感じていましたが、ちょうどサッカー日韓ワールドカップが開催されており、客足が伸びないのはそのせいだろうと楽観視していました。しかし、大会が終わっても売上は一向に上がらず、資金繰りも苦しくなり、追い込まれた私は、会社を作ったことを後悔するように。そんなある日、「こだわりもん一家 柏店」を訪れました。そこで見たのは新卒社員の2人が、不器用ながらも笑顔を絶やさず、一生懸命働く姿。その姿に創業した頃の自分を重ねた私は、「こんなに頑張ってくれている仲間がいる。原点に立ち返って会社を立て直そう」と決意。その後、経営に関する本を読みあさり、成功者に共通する要素や考え方を参考にできあがったのが、「笑顔であれ」「思いやる人となれ」「目標を定め、実行せよ」といった7つの行動指針からなる社訓です。これを会議などの際に唱和することで浸透させ、また、経営スタイルもトップダウンから従業員参加型にチェンジすると、会社は活気を取り戻し、業績も好転していきました。

 同じ頃、居酒屋ナンバーワンを決めるイベント「居酒屋甲子園」を通して、同年代の経営者たちに出会えたことも、大きかったですね。ライバルとして刺激を受け、ともに成長するなかで、「彼らの会社に負けないよう、一家ダイニングをもっといい会社にしたい!」という想いが、さらに強くなりました。

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