2019/01/31 繁盛の黄金律

浮気は禁物。自分の「得意」を極めよう

「多店舗化」「チェーン化」成功への唯一の道は、得意なことをとことん追求すること。「来店客数の変化」といった注意点も含めて、その大原則を6つに分けて解説します。

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Vol.89

得意な商品、得意な価格帯をまず決める

 ひとつのビジネスを極めればいいのに、どうして別のことをやりたがるのでしょう。せっかく繁盛店をひとつつくったのですから、2号店も同じ業種・業態でやればよいものなのに、違うものに手を出します。

 中国料理店を軌道に乗せたので、次にラーメンと餃子の専門店を出す。これはわかります。メニューを絞り込んだのですから、問題ないです。フルメニューの洋食屋がうまくいったので、2号店はハンバーグ専門店を出す。あるいは、スパゲティ専門店をやる。これもいい。絞り込んでいるのですから。でも、まったく違うことをやるんですね。次に居酒屋をやってみたり、洋風パブをやってみたり、高級イタリアンをやってみたり、1号店と2号店の間には、何の連続性もない。そういう手の広げ方をする経営者があまりにも多いのには、驚かされます。

 今回は、多店舗化、そしてチェーン化を進めるにあたっての大原則の話しをします。成功への唯一の道は、得意なことをとことん追求すること。これに尽きます。具体的に6項目を次に記します。

  1. 得意なビジネスに絞ること。
    そして、そのビジネスに全エネルギーを集中すること。
  2. 得意な商品を際立たせること。
    その商品をとことん磨き上げ、価値を高め、競争力を上げること。
  3. 得意な価格帯で戦うこと。
    大衆価格が得意なのか。ちょっと贅沢な市場を取るのが得意なのか。超高級が得意なのか。狙う市場を明確にしなければなりません。1号店がリーズナブルな店なのに、2号店を高級化、高単価化する経営者がいますが、自分の得意とする価格帯がわかっていないのです。ヘリコプターはジェット機の高度では飛べません。逆もまた同じです。
  4. 得意な立地、得意な店舗規模をはっきりさせること。
    大きな繁華街か、住宅地と隣接した駅前なのか、郊外のロードサイドか、商業ビル内か。立地によって客層(正確には来店動機)はまったく違います。また、店舗の規模によって、商売の中身、マネジメント力の必要性も、まったく変わってきます。たくさんの人を使う大型船を操るのと、少人数の小型船を操るのでは、求められる資質は異なります。ここにおいても、自分の「得意」を見定めなければなりません。
  5. エリアを限定すること。
    その限定されたエリアで、商圏をだぶらせないようにして多店舗化を進めること。これをドミナント化といいます。そのエリアでは、圧倒的な人気店にならなければいけません。同じエリアに、かなわない同業のライバルがいるとしたら、まだ本当の実力が付いていない証拠です。価格で負けているのか、品質で負けているのか、本格的な多店舗化に入る前に、自分の弱さを徹底的に検証しなければなりません。得意なビジネスに絞ること。
    そして、そのビジネスに全エネルギーを集中すること。

既存店の客数を絶対に減らしてはいけない

 多店舗化を進めるにあたって、もうひとつ注意しなければならないのは、既存店の客数です。2号店を出したとたんに、1号店の客数がダウンすることは、よくあることです。「2店目を出したのだから、お客がある程度流失しても仕方ないかな」などと考えている経営者がいるとしたら、その人に輝かしい将来はありません。客数減になったとしたら、本質的な弱点が吹き出した、と考えなければなりません。多くは、店長のマネジメント力、そして厨房の調理能力に、その原因が求められます。店を増やしたことで弱体化して、人気が下がっているということです。


 この原因を見極め、とことん克服しない限り、多店舗化は地獄への道以外の何ものでもありません。店数が増えるということは、知名度が上がるということでもありますから、本当ならば客数が伸びなければいけないはずです。それが逆になっているのは、悪い評判が広がっているということにほかなりません。

 最後にもうひとつ。
6 得意な時間で戦うこと。
例えば、ランチで大繁盛した店があったとします。すると、夜も強くしたい、と考えるのが人情というもので、その気持ちはわからないでもありませんが、無駄な努力に終わることがほとんどです。その力を、得意なランチに集中させるべきです。ランチをもっともっと強くするべきです。

 「ランチは目いっぱい売っている」と本人は思っていても、まだチャンスロスがあるはずです。売り切っていないのです。提供時間を早めて客席稼働率を上げることで、さらに客数が伸びます。そして、ピークのランチタイムの時間帯そのものが広がっていきます。売れない時間に何とか売ろうとせず、売れる時間にもっと売ることに、エネルギーを注ぐべきです。

ちなみに、アルコールを売るには特別な能力が必要です。アルコール商売が特に得意な経営者っているのですね。そのかわり、そういう人は、回転勝負のランチ商売はからっきし苦手なものです。得意ワザは、人それぞれで違うのです。素人はアルコールには手を出さない。このことも、肝に銘じておかなければなりません。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。