2019/02/06 繁盛の法則

クラシックなホットケーキの味わいで魅了する専門店とは

東京・経堂にある「ホットケーキつるばみ舎」は、昔ながらのホットケーキを提供。トッピングを豊富に用意するが、生地を味わってほしいとシンプルな材料で作る。子ども連れから年配まで幅広い客層を獲得する。

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ホットケーキつるばみ舎

Key Point

  1. 名店直伝のホットケーキを提供
  2. 生地そのものを味わう提供法を徹底
  3. トッピングなどで独自性をプラス

今はなき名店「万惣」で修業。昔ながらの製法を守る

 「つるばみ」とは、クヌギの木、またはその実であるどんぐりの古称。以前、どんぐりから芽を出させて苗木にし、各地に植樹するボランティア活動に参加していた冬木透氏、麻依子さん夫妻が、森や自然を大切に思う気持ちを「ホットケーキつるばみ舎」という店名に込めている。こんがり、ふっくらと焼き上げたホットケーキの中央に押す焼き印は、どんぐりの形に似せた「舎」の字になっている。

 近年、ハワイアンパンケーキやスフレパンケーキなどが大ブームを巻き起こすなか、同店は昔懐かしい、クラシックなホットケーキに徹している。材料は、小麦粉、牛乳、卵、砂糖、ベーキングパウダーのみ。生地そのものを味わってほしいという考えから、トッピング類は別皿に盛り、ホットケーキの上には何も載せずに提供する。ホイップクリームやフルーツを山のように盛り付けるハワイアンパンケーキの人気店とは一線を画する独自の商品、スタイルを守りながら、地元のファンを増やしている。

 同店のホットケーキのルーツは、東京・神田須田町に本店を置いていた「万惣(まんそう)フルーツパーラー」にある。果物の販売とともに、喫茶室を経営し、厚い銅板で焼き上げるホットケーキが人気商品のひとつだった。冬木氏は、以前はサラリーマンだったが、食堂、もしくはカフェでの起業を志し、自身の好きな作家であり、食に関するエッセイも多数残した池波正太郎の作品の中に登場していた「万惣」を修業先に選んだ。2008年から働き始めたが、2011年3月に東日本大震災が起こり、神田本店が面する中央通りと靖国通りが「東京における緊急輸送道路沿道建築物の耐震化を推進する条例」の指定道路に。そこで、本店ビルの耐震診断を実施したところ、建て替えが必要と判明した。しかし、すぐに建て替える資金的な余裕がなかったことから、本店は2012年3月に休業し、その後ビルは解体された。「万惣」の休業が告知されると、別れを惜しむお客が連日行列をつくるようになり、冬木氏は涙ながらにホットケーキを食べる長年の馴染み客の姿を目の当たりにした。「このホットケーキを途絶えさせずに、継承していかなくてはいけない」と決意した冬木氏は、独立時にはホットケーキ専門店を開業する意志を固めた。

表面はこんがり、中はふっくらと焼き上げたホットケーキ2枚と、「とちおとめのクリーミージュース」(単品500円)のドリンクセット(1,070円)。別皿に盛ったトッピングの「フルーツ生クリーム」(350円)は、旬の果物を使用。卵は茨城の奥久慈卵、牛乳は岩手産の低温殺菌牛乳を使うが、果物、サンドイッチ用のパン、ハムやウインナー、コーヒー豆などは、地元の商店街から仕入れ、地域とのつながりを強めている

トッピングやサンドイッチで食事利用にも対応

 東京・世田谷区在住の冬木氏夫妻は、まず小田急線梅が丘駅近くで2012年9月~2015年4月までホットケーキ店を営業した後、小田急線で2駅先の経堂駅から徒歩約2分の現在地に移り、2015年10月に同店をオープンした。店舗規模は15坪23席で、大型マンションの1階にあるが、建物の裏手に位置し、隠れ家的な存在となっている。木と漆喰の白壁が印象的なナチュラルな内装で、BGМもかけず、「目を閉じると森の中にいるような雰囲気を楽しんでほしい」という冬木氏夫妻の思いを具現化している。厨房内には、「万惣」さながらの厚さ8ミリの特注の銅板を設置し、ホットケーキの食感のよさを追及している。

 オーダーは、まずホットケーキの枚数を決め、「ドリンクセット」(770~1350円)で飲みものを選び、好みでトッピングを追加する、というパターンが多い。ホットケーキには、北海道産の有塩バターが添えられ、ほんのりした塩味が生地の甘みを引き立てる。卓上には、自家製メープルソースが壺に入れて用意され、たっぷりかけられるのも魅力である。別皿で提供されるトッピングは9品目。「生クリーム」(150円)、「アイスクリーム」(200円)といった定番のほか、「ポークウインナー」(200円)、「クリーミーマッシュポテト」(200円)など塩味のものも用意し、軽食としても楽しめるようにしている。ほか、イギリスパンを銅板で焼き、厚切りのハムカツを挟んだ「ハムカツサンド」(780円)、ホットケーキにタマゴサラダを挟んだ「ホットケーキのたまごサンド」(780円)などの食事メニューも独自に考案しており、ともに1日8食限定だが、早々に売り切れる人気のアイテムとなっている。また、土・日曜日・祝日の9時からは、トーストやホットケーキのフレンチトーストなどをメインとするモーニングの営業も行う。客単価は1000円で、平日は約50人、土・日曜日・祝日は80~100人を集客している。子供連れから年配者まで客層は幅広いが、女性が全体の約7割を占めている。

 同店が昔ながらのホットケーキ専門店として、地元で愛されている要因は以下のようになるだろう。

  1. 名店での修業を活かし、クラシックなホットケーキを提供している。
  2. 生地そのものを味わえるような提供法に徹している。
  3. トッピングやサンドイッチなどでオリジナリティをプラスしている。

 「細く、長く、営業を続けていきたい」と、真摯に語る冬木氏。今年はまず、ホットケーキ用の素材を活かして、焼き菓子などおみやげになるような新商品の開発を計画している。

ホットケーキつるばみ舎
住所
東京都世田谷区宮坂3-9-4 アルカディア経堂 1F
TEL 03-6413-1487
営業時間
11:00~19:00、土・日曜日・祝日9:00~モーニングメニューがなくなり次第終了、11:00~18:00
定休日
水曜日、第2・第3火曜日、3連休の翌日