2019/03/29 繁盛の黄金律

こうすれば、値上げをしなくても客単価は上がる

客単価を上げるのは簡単なことではないですが、今回は「低価格メニューを切る」「強力なサイドメニューの値下げをする」という2つの方法と、その実践例を紹介します。

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Vol.91

下値の商品を切り捨てることで、客単価を上げる

 人件費の高騰が、外食業全体を苦しめています。高騰よりも、そもそも人が採れなくなっている、というのが実情です。人の確保ができずに、泣く泣く閉店に追い込まれる個人店も増えています。パート・アルバイトの時給はさらに上がり続け、大都市圏では1,000円スタートも当たり前の時代になってきました。それでも外食業全体がコンビニに“採り負け”ています。売上の中に占める人件費率は上がりっぱなしです。

 当面の課題は、客単価を一段上げることでしょう。しかし、安易な値上げは禁物です。チェーングループは低価格を維持するところが多く、ここで値上げをしたら、一気にチェーンにお客を持っていかれてしまいます。今回は、値上げをせずに客単価を上げる方法について、お話しましょう。

 第一に、低価格のメニューを切る、という方法があります。例えばスパゲティ専門店のプライスラインが680円、780円、880円、980円であったとします。この場合は、680円のメニューをカットします。そうすれば、自然に客単価は上がります。こうして、メニュー全体の価格を押し上げるのです。例えば、「爆弾ハンバーグ」で有名な、北関東を拠点とする「フライングガーデン」というチェーンがあります。「爆弾ハンバーグ」は、150g、200g、250gの3種類ありましたが、150gをカットしました。売上の約40%はこの「爆弾ハンバーグ」なのですから、効果は絶大でした。客単価は予想どおり上がりました。

 もともと、150gではポーションが小さくて、焼きが入りすぎ、本当においしい味を出せなかったのです。それをカットしたことで、「おいしくなった」と評判が上がり、客数も伸びたのです。利益率も高まりました。下値切りはかくあるべし、ですね。

 ただし、いちばん安いメニューがその店の主力メニューである場合は、この手法は使えません。例えば、牛丼並盛が380円の牛丼チェーンが、そのメニューをカットして、大盛と特盛だけにしたら、どうなるでしょうか。お客の猛反発を食らうこと必定(ひつじょう)ですね。当たり前の話です。いたずらに下値をカットして価格帯を押し上げようとすると、業態(商売の中身)そのものが変わってしまうことがあります。顧客に見離されてしまいます。そこに注意して、最新の注意を払いながら、安いメニューをカットしていくことが大事です。

サイドメニューを強化して注文皿数を増やす

 もうひとつ、値下げをして客単価を上げるという方法があります。そんなバカな、と思われるかもしれませんが、値下げで注文皿数が増えれば、必然的に客単価が上がるではありませんか。この方法の成功のキーワードは「シェア」です。シェアできるメニューが手頃な価格になっていれば、お客はつい注文してくれます。この「つい」の価格になっていない割高のサブメニューが多すぎるのです。

 典型的なのは、ラーメンチェーンの餃子ですね。餃子は強力なサブベーシックメニューです。あるチェーンでは、6個300円で売っていたのですが、これを250円に下げました。するとどうでしょう。日を追うごとに餃子の売れ個数が伸びていったのです。お手頃の値段になったので、注文しやすくなったのです。1人客の注文ももちろんありますが、2人客でラーメンのほかに餃子を1皿注文するパターンが多くなりました。つまり、餃子はシェアメニューですね。

 スパゲティ店のピザも、同じ役割を果たしますね。スパゲティは1人1皿ずつ注文して、ピザは1枚をシェアする。このようにシェアできるメニューを開発して、その注文数を上げることで、客単価を上げる方法を、じっくりと研究してみてください。ポイントは、つい注文してしまうメニューになっているかどうか、です。ポーションと価格のバランスが大事です。本来であればシェアメニューになるはずのものが、このポイントをはずしているためにちっとも売れない、という事例があまりにも多すぎます。

 そういった視点で、サイドメニューの総点検をぜひするべきです。居酒屋の唐揚げ、煮込み、豆腐を使ったメニュー、レストランのサラダ、スープ、小皿料理。数え上げたらキリがありませんが、一般的に価格が高すぎます。繰り返しますが、注文しやすい価格になっていないケースがあまりにも多すぎます。

 そのほかにも大事なのは、サービスです。テーブルに行く回数が多くなればなるほど、追加注文が増えて、客単価は上がります。サービスとは、よく訓練された従業員がどれだけ頻度高く、お客のもとに通うか、ということです。省人化を進めれば進めるほど、サービスは劣化し、客単価も客数も下がっています。過度の省人化は、店の魅力を殺してしまいます。

 必要人員を確保しないで、しかも十分に訓練もしないで、メニューばかりをいじくりまわしてみても、売上は下降するばかりです。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。