Vol.92
「お通し代」を取る時代は終わった
今から20年以上も前の1997年をピークに、国内のアルコールの消費量は減る一方です。最近は若者のビール離れが加わって、減少に拍車がかかっています。アルコール業態の外食店(主に居酒屋)の市場も、これに並行して小さくなっていきました。つまりお客が減っていったのです。店が減り、残った店もお客の数が減る。この減少は今も続いています。
居酒屋商売は、厳しくなる一方です。まずこのことを頭に入れておきましょう。逆風の要因をまとめると、
- 少子高齢化(胃袋が少なくなり、かつ小さくなっている、ということ)
- 飲み方の変化(若者の“バカ飲み”がなくなった。また、アルコールをまったく飲まない若者が増えた)
- 休日の増加(職場から街へ、飲みに繰り出すお客が激減。その代わり、内飲み(家飲み)市場は堅調)
の3つが挙げられます。このため、かつては隆盛をきわめた職場近くの繁華街の大箱居酒屋が大打撃を受けています。大勢で繰り出して、飲んで騒いで、1人3,000円というお客を受け入れる店が、とりわけ大きな打撃を受けているのです。
それではアルコール主体の店が全部ダメかというと、そんなことはありません。流行っているところは流行っているし、伸びているチェーンは伸びています。どんなところが流行り、伸びているのか。そこを探ってみることにしましょう。
まずは「お通し代」を取らない。これは重要です。お客の大部分は、お通しを「理不尽」と感じています。「むしり取られている」と感じているのです。ひどい店になると、昨日の残り物で作られたようなしょぼいお通しを平気で出しています。なんでそれに300円、400円、500円を払わなければならないんだ。皆、そう思っているのです。好調の新興チェーンは、お通し代を取っていないところが多いことに気づくべきです。
「職場から」「家から」の両方のお客が取れる駅前立地が有望
次に、シニアが増えて、そのシニアの飲み方が変わりました。典型的なパターンは、
- 夕方、家からフラッと出て、
- 駅近くの居酒屋で、軽く飲んで食べる。
これで今日の夕食は終わり、というパターンです。
この飲み方は、1人のときもあれば、夫婦で、あるいは友人と待ち合わせて、というときもあります。つまり、住宅地を後背に持つ駅前、駅近立地である、ということです。「食事のついでに軽く一杯」なのです。あくまでも食事が主力です。手頃な店がなければ、内飲み(家飲み)です。コンビニでアルコールと酒の肴かおかずを求めて、家でゆっくり飲む。このパターンが増えたおかげで、アルコールを売る外食店は大打撃を受けています。消費者にとっては、内飲みのほうが、ずっと安く上がりますから。
このニーズをとらえるためには、気軽さが必要です。1人でもフラッと入れるカジュアルさと安さが実現されていないと、こういうお客は取れません。支払い額は1人1,000円が上限でしょう。また、夕方といっても、15時か16時からの営業が求められます。今までのように、17時から深夜まで、という営業時間そのものを、前倒ししなければならなくなってきています。
駅前、駅近立地は、若いファミリーも吸引できます。休日が増えているので、やはり「家から」出てくるのです。いちばん便利なのは、家の近くの「駅前」「駅近」ということになります。
ちなみにここでの商売は、基本的に禁煙でなければなりません。居酒屋はもともと、お客の喫煙比率の高い業態ですが、今や時代は変わりました。全面禁煙にしなければお客が来てくれない時代に突入しようとしています。禁煙にすることで、確かに一時的にお客は減るかもしれませんが、時代の流れに逆らうわけにはいきません。特に、ファミリーを取り込む駅前居酒屋は、子連れのお客も多いのですから、禁煙にしなければお客が来てくれません。ここは覚悟しなければなりません。
もうひとつ、ファミリーは「財布がひとつ」であることを忘れてはいけません。それだけ支払い額にはシビアです。目安は1人1,000円でしょう。ちゃんと食事ができて、ちょっと一杯お酒も飲めて、子どもも楽しめて、3人家族で3,000円。これならば来店頻度も高まります。「子どもも楽しめて」というところがポイントです。
さらには、女性が来店できるか。1人でも気軽に入れるか。ここもポイントになります。働く女性が、フラッと入って、アルコールを1、2杯飲んで、夕食も済ませる。このパターンも増えているからです。従来の居酒屋はほとんどこの客層を取れていませんでした。やはり入店するのに、抵抗があるのです。この抵抗感を取り払ってもらえるほどに、入店のハードルが低くなっているか。そういう店になれているかどうか、客観的に見てみましょう。今まで、こういった層はコンビニが取っていました。価格でも便利さでも、コンビニのほうが圧倒的に便利だからです。その安さと利便性を上回るだけの魅力を持てるかどうか。ここが勝負になります。
「家近」の「駅前・駅近」の新しい需要について話をしてきましたが、これにオフィスニーズが加わると、さらに強くなります。やはり、平日のオフィスから流れ出てくる需要は圧倒的な厚みがあります。純然たる住宅街にある駅よりも、ビジネス層も取れる「駅前・駅近」のほうが、客層が多様で市場がより大きくなることも、忘れてはいけません。ただし、家賃はハネ上がります。これもお忘れなく。