2019/05/21 特集

あなたのお店は大丈夫?災害から守る対策チェックシート

大きな被害をもたらす台風や集中豪雨が、毎年のように発生している。地震も含め、自然災害への備えは飲食店も日頃から万全を期す必要がある。来店客とスタッフを守るための「災害対策チェックシート」と事前災害対策を、防災のエキスパートに聞いた。

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更新日:2024.1.24
※地震など災害時の対策として、一部更新いたしました。是非ご活用ください。

目次
多発、激甚化する自然災害。飲食店でも対策が不可欠

あなたのお店は大丈夫?災害対策チェックシート

5つの防災対策
1.知る/お店とエリアの災害リスクを調べる
2.備える/お客さんとスタッフを守るために!
3.教える/日頃からスタッフの防災意識を高める
4.避難する/ルートを確認&共有!必要性の判断も
5.作る/現場任せにしない防災ガイドラインを!


多発、激甚化する自然災害。飲食店でも対策が不可欠

2018年、様々な自然災害が日本各地を襲った。6月には大阪府北部地震、9月には北海道胆振(いぶり)東部地震が発生。7月には台風、および梅雨前線などの影響で、広島・岡山・愛媛など西日本を中心に、豪雨が深刻な被害をもたらした。また、日本列島に上陸した台風は、平均の2.7個を上回り、5個。気象庁は特に、「近年、雨の降り方が局地化・集中化・激甚化」と指摘している。1時間に50㎜以上の「非常に激しい雨」の年間発生回数を示した下のグラフを見ると、1975~1985年の年間平均が約226回であるのに対し、直近10年(2009~2018年)の年間平均は約311回。およそ、1.4倍に増えている計算だ。

青い棒グラフは、1976~2018年までの1時間降水量50mm以上の年間発生回数を示している。赤い直線は長期変化傾向(この期間の平均的な変化傾向)を示している

そして2024(令和6)年1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」では、石川県、新潟県、富山県、福井県の4県を中心に家屋倒壊などの被害が発生した。事前災害が多発、激甚化するなか、飲食店は来店客やスタッフを守るため、そして店内の被害を最小限におさえるための対策が必要である。

今回は、災害リスク評価研究所代表・災害リスクアドバイザーの松島康生氏に、いざというときのために必要な事前対策について具体的に伝授いただいた。

災害リスク評価研究所 代表 災害リスクアドバイザー 松島 康生氏
国や自治体向けの防災コンサルタントとして活躍し、2012年、災害リスク評価研究所を設立。民間企業の災害リスク評価やBCP(事業継続計画)策定をサポートする。

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災害リスク評価研究所・代表の松島康生氏は、「都市の排水機能は、基本的に毎時50㎜の雨量を基準に設計されています。これを超えると、土地の高低など条件によって変わりますが、河川の流域だけでなく、市街地でも浸水被害が出る可能性が高まります」と解説する。しかも、「日本中どこで起こってもおかしくないのが、近年の集中豪雨の特徴の1つ」だという。決して油断してはいけないのだが、松島氏は「『ここは大丈夫』という過信が、防災意識を低下させている」と語る。「過去に自然災害が少ない地域ほど、この“過信”が強い傾向があります。それが命取りになりかねない」と指摘。さらに、「治水対策や耐震対策などのハード面は日々、進歩しています。ただ、今後の防災対策はソフト面の強化、すなわち、防災意識をどう高めるかがより重要になってきます」と解説する。

被害がなければ防災意識が下がってしまうのは、自然の流れ。だからこそ、常に注意を喚起し、啓発を続けること、いざというときに動けるように準備をしておくことが大切なのだ。

「防災意識の高い企業や、医療品など命に関わる製品を扱っている企業のなかには、各地にある自社の営業所や工場について、それぞれ災害のリスクがどのくらいあるのかを評価し、非常時の行動はもちろん、できるだけ早い事業再開のための計画を作成するところも出てきています」(松島氏)。

では、飲食店の防災対策はどうだろう。松島氏は、「店内のディスプレイ、照明器具、調度品などを見ると、防災を意識している飲食店は、残念ながらほとんど見当たりません」と語る。確かに、グラスや食器類を高い場所に置いていたり、ドリンクのボトルを壁面にずらりと並べてアピールしている店は珍しくない。「もちろん、飲食店において内装など見た目は大事な要素でしょう。しかし、まず考えるべきなのは、お客様と従業員の安全を守ること。その視点を持って店内を見渡せば、見た目を大きく損なうことなく実施できる防災対策もたくさんあります」と松島氏。不用意に置いていたボトルが地震の揺れなどで落下し、来店客やスタッフを傷つけてしまったら、取り返しのつかない事態も予想される。たとえ小さな事故であっても、ひとたび不祥事が起これば、今はSNSによってすぐに拡散されてしまう。災害による直接的なダメージだけでなく、店や飲食業そのものに対する印象が悪くなり、二次被害につながりかねない。

逆に、飲食店の存在が災害被害を小さくすることにつながるケースもある。東日本大震災のとき、一部の商業施設やホテル、飲食店などが、帰宅困難になった人々に対して、一時避難の場所を提供して喜ばれたことを思い起こしたい。「こうした防災対策は店長任せ、現場任せにしてはいけません」と松島氏。そして、「チェーン店ならば本部、個人店ならば経営者が責任を持って取り組んでほしい」と呼びかける。

まずは以下の「災害チェックシート」を確認いただきたい。そして飲食店に必要な防災対策について、具体的に見ていこう。

あなたのお店は大丈夫?災害対策チェックシート

●ハザードマップを確認しましたか?
□洪水ハザードマップ
□内水ハザードマップ
□地震ハザードマップ
□土砂災害ハザードマップ

●防災情報のメール配信は?
□登録した

●備品はそろっていますか?
□明かり(ランタン・懐中電灯など)
□ラジオ
□消火器

●備蓄はそろっていますか?
□3日分の非常用食料・飲料水

●店内の地震対策はできていますか?
□(冷蔵庫、棚など)倒さない備え
□(冷蔵庫、複合機など)移動させない備え
□(食器、ボトルなど)落とさない備え

●店外の確認はできていますか?
□店、建物の耐震性
□外壁、窓、看板などの安全性
□避難場所、店からの経路

●防災知識・意識を共有できていますか?

□ハザードマップ
□避難のタイミング、場所・経路
□備品、備蓄の数、保管場所
□定期的な防災・避難訓練
□家族など緊急連絡先
□スタッフ間の連絡体制

●災害時のガイドライン、マニュアルはありますか?
□開店、休業のガイドライン
□スタッフの出社・退社基準
□予約客への対応マニュアル
□来店者への告知マニュアル
□在店者への告知マニュアル(避難誘導も)

1.知る/お店とエリアの災害リスクを調べる

まずはハザードマップを確認。店のリスクを客観的に判断する

自治体のホームページで様々なマップをチェック

防災対策でまずやらなければならないのは「災害リスク」の把握。これは地域によって様々なので、「店のあるエリアのハザードマップを確認してください」と、松島氏は提案する。

ハザードマップとは、「被害予測図」のこと。自然災害が起きたときに想定される被害の種類や、その区域、大きさ、被害の起こりやすさなどを地図化したものだ。避難場所の位置や避難すべき方向を示したものもある。

そのなかで、洪水による浸水が想定される区域や避難場所などについて作成されたものが「洪水ハザードマップ」。津波や高潮による浸水地域を示す「津波ハザードマップ」「高潮ハザードマップ」や、火山噴火による被害を想定した「火山防災マップ」もある。また、「地震ハザードマップ」には「震度被害(揺れやすさ)マップ」「地盤被害マップ」「建物被害マップ」「火災被害マップ」などがある。「土砂災害ハザードマップ」では、土砂災害(がけ崩れ・土石流・地すべり)のおそれがある地域などが示されている。

あまり聞き慣れないかもしれないが、注目してほしいハザードマップの1つが「内水ハザードマップ」。河川による洪水は「外水」、下水管の溢れによる侵水は「内水」で、市街地などに降った雨が下水道の雨水排水能力を超えてしまうと、道路や市街地に溢れ出て浸水が発生。その被害を想定したものだ。松島氏は、「内水ハザードマップを確認しておくことは、市街地にある飲食店にとって非常に重要」と指摘する。なぜなら、内水が溢れて危険な場所の1つが、建物の地下だからだ。「地下は、一度浸水し始めたら、あっという間に水が溜まって逃げ場がなくなってしまいます。しかも、水圧は予想以上に強く、足もとに20~30㎝ほどの水が溜まるとドアは開かなくなり、大変危険」という。市街地の飲食店は、ビルの地下にあることも多い。「店内に少しでも水が入ってきたら、速やかに外に逃げなければいけません。そのタイミングを逃さず、適切な判断を下すためには、前もって災害リスクを知り、行動指針を立てておくことが重要なのです」と、松島氏は語る。

ハザードマップは、各市町村レベルで作成しており、それぞれの自治体のホームページなどで公開されている。地域によって想定される災害は異なり、取り組み方にも差があるため、ハザードマップの種類にも違いがある。また、埋立地や造成地などの「人工改変地」を有する自治体は、地形を変えたために生じやすい被害にフォーカスしたマップを作成していることもある。まずは、店のある自治体の様々な防災対策について確認してほしい。

さらに、国土交通省は2014年6 月から、ハザードマップポータルサイト「重ねるハザードマップ」を公開。これには様々な機能があり、例えば、「洪水浸水想定区域」とともに、「道路冠水想定箇所」や「事前通行規制区間」など複数の情報を一度に見えるようにして、有効な避難経路の発見に役立てられるようにしている。こうした情報も活用して、店の周辺の災害リスクを知り、対策を立てることが大切だ。

加えて、松島氏は「自治体のなかには、防災情報のメール配信を行っているところもあります」と紹介する。一度店内に入ってしまうと外の様子がまったくわからない店もある。特に地下にある店は雨音も聞こえず、防災無線なども届きにくい。もちろん、天気予報や防災情報にこまめにアクセスすることは重要だが、「営業中は忙しくて、そうした時間が取れないこともあるでしょう。防災情報メールに登録しておけば、携帯電話などに自動的に情報が配信され、的確なタイミングで対応できる可能性が高まります」と松島氏。最近は防災アプリも多種あるので、合わせて活用してほしい。

2.備える/お客さんとスタッフを守るために!

明かり、ラジオ、消火器は必須。日頃から被害を抑える対策を!

備品、備蓄を万全にし、店全体をチェックする

災害リスクを把握したら、それに対する「備え」を行う。松島氏は、「言うまでもなく、視点はお客様と従業員を守ること。そのために事前にできることはたくさんあります」と話す。

まず、備品と備蓄。「災害の種類と規模によっては、すぐに店を離れなければいけないケースも。その場合は、逃げるための道具が何よりも必要な備品になります」と松島氏。食料や水よりも、はしごや脚立の優先度が高い場合もあるのだ。路面店なら、店内への浸水を防ぐ土嚢(どのう)や水嚢(すいのう)、止水板(防水板)も備えよう。最近は、水を含むと膨らみ、土嚢の役目を果たす製品もある。「災害リスクによって、備品の優先度は変わります。店内のスペースは限られているので、的確な取捨選択をしてほしい」と松島氏は語る。そのうえで、どの飲食店でも必須の備品として、松島氏は「明かり、ラジオ、消火器」の3つを挙げる。

明かりは、停電になったときのために不可欠。店の規模やスタッフの人数に応じて、懐中電灯やランタンを用意する。ネックライトという首から下げるタイプもあるので、必要に応じてそろえたい。ただし、ロウソクは火災につながりやすいので、基本的にNGだ。

次に、ラジオは災害時の貴重な情報源となる。停電でテレビが見られない、電源切れで携帯電話が使えなくなっても、乾電池式、もしくは手回し式やソーラー式のラジオは、電波が届くところであればどこにいても放送を聴くことができるからだ。松島氏は「FM放送とAM放送、両方を聞くことができるラジオを備えておきたい」とアドバイス。全国放送の番組で総合的な災害情報を把握し、地元のコミュニティFMで地域の情報をチェックできる。「情報を自分から取りにいくインターネットに対し、ラジオは被害状況や交通情報などを刻々と伝えてくれます。これによって周囲の状況を把握でき、的確な行動が可能になる」と語る。

3 つ目は、「飲食店は火元があるので、消火器は必須です」と松島氏。そのほか停電時用に、季節によって夏はうちわ、冬は「アルミ保温シート」などもあると便利だ。また、「意外に用途が広いのが大きいポリ袋。雨天時のカッパ、火災時の煙除け、簡易トイレにも活用できる」と松島氏。こちらも、備品袋に入れておくといいだろう。

食料・飲料水の備蓄は、スタッフの人数×3日分が目安。飲食店はもともと食材があるので、災害時の食料に目が向きにくい。しかし、冷蔵庫や冷凍庫の電源が切れたときのことを考えると、保存食などは備えておくべきだ。

また、店内と店外も「安全を守る」という視点で、しっかりとチェックしよう。「地震対策の原則は、『倒さない・落とさない・移動させない』こと」(松島氏)。この原則に沿って、ホールはもちろん、厨房やバックヤードもくまなく点検することが大切だ。例えば、冷蔵庫や冷凍庫などは、倒れるだけなく、揺れ方によってはあちこちに移動して甚大な被害につながる可能性も。必ず伸縮棒や金具などで固定しよう。窓ガラスや戸棚のガラス板などは、割れてもガラス片が飛び散らないように飛散防止シートを貼る。食器棚には食器が動きにくくなるよう、滑り止めシートを敷くとよい。また、棚などの扉も振動で開かないように、ひもや扉ロックで固定する。シャンデリアなど照明器具は、揺れによってガラスがぶつかり、割れる危険があるので、揺れを抑えるための対策をとろう。

店外では、看板、ノボリなどが強風で落ちたり、倒れたり、飛ばされたりしないかを点検する。外壁に固定された袖看板なども、落下の危険がないかチェックしておきたい。さらに、側溝などにゴミや落ち葉が溜まっていると、雨水が溢れて浸水につながりやすい。忘れずに掃除をするようにしよう。

3.教える/日頃からスタッフの防災意識を高める

全員で防災意識と知識を共有。連絡先は家族も含めて把握する

防災はソフト面も重要。定期的な防災訓練も

自然災害への対策には、ハード面の整備とともにソフト面、すなわち「防災意識」の向上が不可欠の課題だ。いくらハザードマップで災害リスクを把握し、備品をそろえ、店内外を整備してハード面を充実させたとしても、それを使うことのできる知識と意識を、店のスタッフ全員が持っていなければ、“絵に描いた餅”になってしまう。特に飲食店の多くは、パートやアルバイトの比重が高く、数年経つと顔ぶれが入れ替わることも少なくない。スタッフが変わっても、防災の知識と意識が常に引き継がれるように、しかるべき防災教育を確立したいところだ。「大切なのは、防災を“意識化”すること」と、松島氏は話す。日々、店を営業しながら非常時に対する意識を高めるためには、工夫が必要になる。

「例えば、ハザードマップをバックヤードの目につく場所に張り出し、店のあるエリアの災害リスクに対し、常に意識が向くように促すことも方法の1つ」と松島氏。張り出したハザードマップで、避難場所や避難経路を確認したり、さらに詳しく書き込んだり、情報を更新したりすると、防災意識を刺激することにつながりやすい。災害時の行動もイメージしやすくなるので、いざというとき、パニックにならずに対応できる確率も高くなる。

加えて、経営者や店長は避難所までの避難経路を歩いてみることも必要だ。実際の道路や景色に触れると、現実感を伴って防災について考えられるようになる。ハザードマップではわからなかった道路や建物について確認できるし、より安全性の高い避難ルートを発見できるかもしれない。

また、備品や備蓄の保管場所や使い方も、経営者や店長しか知らないようでは“宝の持ち腐れ”になってしまう。新しいスタッフを迎えたら、店の理念やルール、仕事内容の説明などだけでなく、災害用の備品・備蓄の種類や保管場所、店内外の整備の状況とその理由などを、ハザードマップと合わせて一通り説明しておこう。面倒と感じるかもしれないが、平時における地道な取り組みの積み重ねが、非常時に力を発揮することになるのだ。

さらに、「最低でも1年に1回の防災・避難訓練を」と松島氏。ビルや商業施設に入っている飲食店は、管理会社などが行う定期的な避難訓練に必ず参加しよう。自治体や町内会、商店街などが組織する訓練にも積極的に取り組み、店と地域の防災に協力する姿勢を示すことにも大きな意味がある。

もちろん、店で独自に訓練を実施できれば理想的だ。「定期的に防災・避難訓練を行い、従業員の意識の向上を図っている企業も多数あります」(松島氏)。「営業だけで手いっぱいで、防災まで意識が回らない」と考えがちになるが、防災は来店客とスタッフの安全に関わる重大事案。優先順位を上げて取り組むことが求められる。

もう1つ、必ず行ってほしいことは、「連絡先の確認」だ。松島氏は、「スタッフ本人の連絡先や住所はもちろん、家族など緊急の連絡先も聞いておくことが大切」と語る。災害による事故など不測の事態が起きたときに、家族へ連絡する必要があるからだ。家族にしても、店に連絡先を伝えておいたほうが安心できるはず。もちろん、個人情報になるので、「災害や事故のとき以外は使用しない」などのルールを徹底しなければいけない。

そのほか、SNSなどを活用して、スタッフ全員が情報を共有できる体制を整えておくことも有効。業務連絡用も兼ねて、LINEグループなどを作っておくとスムーズだ。

4.避難する/ルートを確認&共有!必要性の判断も

来店客とスタッフの安全が最優先。避難か待機か、最善の状況判断を

立地によって異なる選択。建物のリスク評価も大事

実際に自然災害に遭遇したら、まず何を考えるべきなのだろうか。「どんな災害でも、お客様とスタッフの安全確保が最優先」と松島氏。そのための具体的な行動は、災害の種類や規模、時間帯や季節、立地条件などによって変わってくるので、できるだけの準備が重要になる。

例えば、地震のとき。揺れがおさまったら火元を消し、ガス栓を閉めるとともに、来店客とスタッフの状況を確認する。災害の規模によっては、一カ所に集まってもらったほうが安全なことも少なくない。停電時は、明かりを共有するためにも集合したほうが安心だ。店内で集まるための適切な場所を、平時から決めておくとよいだろう。

店内だけでなく、周囲にも目を向けよう。店が入っているビルの壁などをチェックし、倒壊の危険があるなら、建物の外へ誘導する必要がある。松島氏は、「事前にビルの耐震について確認しておくことが大切です。物件の契約時に、築年数やメンテナンスの状態、管理体制や耐震性などの情報を収集し、災害時のリスクを把握して、店長と共有してほしい」と語る。

また、先述したように、地下にある店舗は浸水害に極めて弱い。特に地下街ではなく、単体のビルの地下は危険性が高いので、少しでも水が入ったら直ちに店外に出るべきだ。「一般住居でも避難のタイミングを逃し、水圧でドアが開かなくなり、命を落としたケースがあります」(松島氏)。では、避難を決めた場合は具体的にどのように行動したらよいのだろう。松島氏は、「地震でも風水でも、基本的にはお客様とスタッフを安全な場所まで誘導してほしい」と話す。来店客が近所の人ばかりなら、帰宅させたほうが安全な場合もあるが、地元の人ではなく、土地勘がない場合は、避難所の場所を教えるだけでは不親切なうえ、避難時に危険が伴うケースもある。最善の方法は、スタッフが引率して避難所まで送り届けること。そうすれば、スタッフの安全も確保できる。

そのためには、避難経路を普段から確認しておこう。災害時は通い慣れた道路の様子が一変していることもあるし、瓦礫や倒木で想定していた道路が通行止めになってしまうこともある。できれば複数のルートを考えておきたい。また、避難経路にある建物や落下物の危険性についても、事前に確認しておくことが大切だ。

台風や集中豪雨、高潮や津波などのときは、避難所ではなく、「少しでも高いところに避難する」ことが最優先になることもある。東日本大震災のとき、「決められた避難場所でなく、すぐ後ろの裏山に逃げれば助かったのでは」という声があったことは記憶に新しい。「周囲に避難が可能な高い建物や構造物があるか、知っておくことも必要です」と松島氏は語る。

一方、避難せずに待機することが最善の場合もある。豪雨で電車が止まってしまったときや、避難所までの道路が冠水したりして、通行が危険なときなどだ。「一時的な豪雨などの場合、退店しようとするお客様を引き止めたほうがいいケースもありますし、帰宅困難になった人々を店内に招き入れる必要がある場合も十分想定されます」と松島氏。刻々と変化する周囲の状況をリアルタイムで把握し、来店客とスタッフ、そして地域の人々の安全を守る行動が求められるのだ。

5.作る/現場任せにしない防災ガイドラインを!

現場が的確な判断をできるよう、経営者主導で災害時の指針を作成

休業や避難の時期など、判断するための指標が必要

災害時に現場のスタッフが、慌てずに適切な行動をするための拠り所となるのが「ガイドライン」(行動指針)や「マニュアル」。松島氏は、「想定される災害の種類や規模、予想される被害の状況も店によって様々なので、ガイドラインやマニュアルは、店ごとに作成する必要がある」と語る。

例えば台風や豪雨の場合の、「開店・閉店の基準」「スタッフの出社・退社の基準」を決めておく。「台風が近づいている場合、○時までに営業するかどうか判断する」「電車の運休情報が出たら、スタッフは帰宅させる」など、地域の特徴や公共交通機関に合わせた“基準”を作っておくことが大切だ。

さらに、災害で休業する場合は、予約客への対応や、休業を知らずに来店した人への対応が必要になる。予約客へは「お客様の安全を考えて、やむなく休む」ことを連絡し、再予約につなげるための対応が肝心だ。来店した人へも張り紙などでていねいに対応しよう。これらをマニュアル化し、電話や張り紙の文言の雛形を用意しておくと、スムーズに対応できるだろう。

一方、通常通り営業した場合も、途中で閉店を決断するタイミングなどを決めておくとよい。その際、すでに店にいる人に対しては、機械的に退店を求めるのはNG。安全を第一に考え、避難か待機か判断するようにしよう。

ただし、「こうしたガイドラインとマニュアルの内容を、すべて現場の店長に考えさせるのは適切ではない」と松島氏は指摘する。確かに、災害リスクも、避難行動を起こすタイミングも、店の立地や周辺状況によってまったく違う。しかし、来店客とスタッフの安全に関わる行動の基準作りを、現場任せにしてはいけない。「いざというとき、現場のスタッフが正しい判断を下して行動できるようにすることが、経営者の大事な役目です。ガイドラインやマニュアルは、経営者の責任で作成するべきもの」と、松島氏は断言する。

最後に、BCP(事業継続計画)についても触れておきたい。BCPとは、自然災害などの緊急事態に遭遇した場合に損害を最小限に抑え、事業の継続、早期復旧を可能とするための方法、手段などを計画立てておくこと。そのなかで、「課題の1つは出社困難者への対策」と松島氏。大規模な災害では家族が被災し、出社できる社員が減少する可能性がある。そこで、防災意識の高い企業のなかには、防災グッズの費用負担など、社員やその家族の防災対策まで考えつつ、出社可能な社員を増やす計画も始まっているという。

飲食店としても、災害にあった際には店とスタッフの生活を守り、地域を勇気づけるために、一刻も早い営業再開が求められる。今後はBCPを含めた防災対策が必要になってくる。

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