2019/07/04 繁盛の法則

町の存続をかけて奮闘するビール醸造所の直営店とは

東京・東麻布にあるビアレストラン「カミカツ タップルーム」は、徳島・上勝町の小規模ビール醸造所「RISE & WIN Brewing Co.」の直営店。上勝町のごみゼロを目指す運動に賛同し、クラフトビールの生産を始めた。

URLコピー

カミカツ タップルーム

Key Point

  1. 個性的なクラフトビールを開発
  2. 徳島産の食材を活かした料理を提供
  3. 上勝町の「ゼロ・ウェイスト」活動の情報を発信

80%以上を再資源化する「ごみゼロ運動」を実践

 徳島県のほぼ中央の山間部に位置する上勝町は、かつては林業で栄えたが、近年は過疎化、高齢化が急速に進んでいる。2019年1月1日時点で、町の人口は1547人、うち65歳以上が802人で、町の存続、再活性化が深刻な課題となっている。

 その上勝町に、突如として小規模ビール醸造所「RISE & WIN Brewing Co.(ライズ アンド ウィン ブリューイング カンパニー)」が登場したのは2015年5月のこと。2016年3月には東京・東麻布にビアレストラン「カミカツ タップルーム」を出店し、個性的なクラフトビールと徳島産の素材を活かした料理とともに、上勝町の情報発信に努めている。

 経営元は、徳島市に本社を置く総合衛生コンサルティング会社の株式会社スペックで、現在は、ビール醸造および飲食店の経営を同社の一事業部門として行っている。始まりは、上勝町の歴代の町長や行政関係者が町の存続のために十数年前から各所に声をかけ、同社の社長である田中達也氏に出会ったこと。同社は地元の豆腐店、製麺業者、給食センターなどでの衛生検査を担う企業だが、徳島市も人口流出や地域経済の弱体化に直面しており、田中氏自身も危機感を覚えていた。

 2011年から上勝町を頻繁に訪れるようになった田中氏が、様々な取り組みのなかで注目したのが、上勝町が2003年に全国の自治体で初めて打ち出した、ごみゼロを目指す「ゼロ・ウェイスト宣言」である。収集車によるゴミの回収を廃止し、町内に1カ所だけあるゴミステーションでゴミを町民自ら45種類に分別する。今ではその80%以上を再資源化。近年は全国から年間2000人近い視察者が訪れている。この活動に共鳴した田中氏は、パスタや調味料、シャンプー類などすべての商品を量り売りで販売する「上勝百貨店」を同町に出店。だが、十分な売上を上げることは難しかった。

フードは徳島特産の食材を活かして特徴を出している。手前がオーブン焼きの「骨付き阿波尾鶏(ひな)」(1,600円)、奥が「鳴門鯛のグリル」(1,800円)。クラフトビールは上勝産のほか、国内外のブリュワリーからセレクトしたものを提供。手前がポートランド産「You've Been Post(ラズベリーサワーエール)」(250ml800円)、奥が上勝晩茶を加えて仕込んだ定番の自社製品「IPA(アイ・ピー・エー)」(3/4パイント800円)

世界中から人が集まるクラフトビールの街が刺激に

 同じ頃、同社の記念行事としてビールの生樽を購入し、ドイツのビール祭りを模したイベントを行ったことがきっかけとなり、田中氏はビールの醸造や、近年伸びているクラフトビールにも関心を寄せるようになった。そのなかで、アメリカでは今や小規模ブリュワリー(醸造所)で丹精込めて醸造されるクラフトビールが、ビール市場全体の10%ほどを占めるまでになり、特にアメリカ西部のオレゴン州ポートランドがクラフトビールのメッカになっていると聞き、2013年に現地を訪問した。

 「ポートランドにはものすごい数のブリュワリーがあり、様々な種類のビールが作られ、このビールを目指して世界中から人が集まっている。1番驚いたのは、気に入ったビールを専用ボトルに詰めて持ち帰る、ビールの量り売りでした。上勝町の『ゼロ・ウェイスト』と、ムダなゴミを出さない量り売りとの接点から、クラフトビールの生産を真剣に考え始めたのです」と、田中氏は説明する。帰国後、常にクラフトビール事業への想いを口にしていたところ、知人からビール作りに詳しいアメリカ人、ライアン・ジョーンズ氏を紹介された。2002年に来日したジョーンズ氏は、香川県で英語教師をしていたが、上勝町でのブリュワリーの設計からレシピ開発、醸造まで、全面的に協力してくれることになった。そして、「上勝百貨店」を解体した後、町内から集めた廃材を利用して醸造所を建築。クラフトビールのテイスティングや量り売り、バーベキューもできる施設として2015年5月30日(ごみゼロの日)にオープンした。当初は年間15キロリットルほどの製造量だったが、2017年秋に第2工場を増設し、現在は年間約60回、計約100キロリットルのビールを醸造している。地元名産の柑橘で、果汁を搾った後は捨てていた柚香の皮を副材料として使うなど、おいしく飲んでもらいながら、「ゼロ・ウェイスト」にも一役買うビールの生産に努めている。

 東京の「カミカツ タップルーム」では常時8種のクラフトビールをそろえ、フードは、徳島のブランド鶏である阿波尾鶏や、鳴門金時、上勝産シイタケ、鳴門ワカメなど、徳島産の食材を使った料理を打ち出している。店舗規模は30坪30席で、平日の昼は鶏の唐揚げやとんかつなどをメインとする定食各1000円を提供し、1日平均40~50人を誘引。夜は客単価4000円で、30~40人が来店している。

 同店がクラフトビールを武器に、上勝町、および「『ゼロ・ウェイスト』」の認知度アップに貢献している要因は、以下のようになるだろう。

  1. おいしく、個性的なクラフトビールを核としている。
  2. 徳島産の食材を活かしたフードメニューをそろえている。
  3. 「ゼロ・ウェイスト」の情報発信基地として機能している。

 2018年からは、樽入り、瓶入りでのビールの卸販売も開始し、異業種とコラボレーションしたビールの醸造にも着手している。まずは年間150キロリットルほどに増産し、さらに販路を広げていきたい考えだ。

カミカツ タップルーム
住所
東京都港区東麻布1-4-2 THE WORKERS & CO 1F
TEL 03-6441-3800
営業時間
12:00~15:00(L.O. 14:30)、18:00~23:00(フードL.O. 22:00、ドリンクL.O. 22:30) 土曜日12:00~22:00(フードL.O. 21:00、ドリンクL.O. 21:30)
定休日
日曜日・祝日(祝日は貸切りの場合は営業)