2019/10/09 繁盛の法則

自家製ビールで集客する醸造所併設のビアバーとは

ビール醸造所と立ち飲み店を併設する「後藤醸造」。当初はビアバーのみで運営し、その後、発泡酒製造免許を取得してビール醸造を開始。飲み飽きない「経堂エール」のほか、年間約20種クラフトビールを醸造する。

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後藤醸造

Key Point

  1. 自家醸造のクラフトビールが主力商品
  2. 定番以外は多彩なビールを次々と開発
  3. 立ち飲み、前払い制で気軽な利用を推進

ビアバーを先行オープンし、1年後に酒造免許を取得

 東京農業大学(以下、農大)卒の後藤健朗氏、由紀子氏夫妻が経営する醸造所併設のビアバー「後藤醸造」が、農大世田谷キャンパスに近い東京・経堂で、連日賑わいを見せている。

 小田急線経堂駅から徒歩約3分のビルの1階にあり、12坪の醸造所と8坪の立ち飲み店で構成されている。オープンは2016年7月で、当初は各地の醸造所からクラフトビールを仕入れて提供し、この場所・規模でどのくらいのビールが販売可能かを検証しながら、発泡酒製造免許の取得を目指した。

 ビールの製造免許は、1994年に年間最低製造量がそれまでの2000キロリットルから60キロリットルに引き下げられ、全国的に地ビールブームが広がった。発泡酒免許は、年間6キロリットル以上の製造が要件であり、近年新たに増えている小規模醸造所(マイクロブルワリー)の多くが取得し、製造している。さらに、2018年4月の酒税法改正でビールと発泡酒の定義が変更され、以前は、発泡酒に分類されていた酒類の一部がビールに分類されるように。果実や香辛料、ハーブなどを使用してもビールと表記できるようになったため、この改正を契機に自由な発想で多彩な味わいのビールや発泡酒が続々と登場している。

 「個人で酒造免許を取得するのはなかなか大変で、ビールを醸造した経歴、設備、予想販売量などを書類で提出しなければなりません。準備期間も含めて2~3年間、税務署とのやり取りが続きました」と後藤氏は振り返る。駅からも近く、明るく開放的な立ち飲み店としてオープンした同店は、当初から月間200リットルほどのビールを販売できたため、その実績も加味され、2017年7月に発泡酒製造免許を取得した。まずは、店の顔となる定番ビールとして、バランスがよく、毎日飲んでも飲み飽きない「経堂エール」の醸造に取り組み、同年9月から樽生での提供を開始。世田谷区初のブルーパブとして、ここでしか飲めない独自性から発売以来好評を博している。

看板商品の「経堂エール」(275ml 500円、500mlボトル1,000円)は、甘み、香り、コク、苦みのバランスにこだわり、毎日飲んでも飲み飽きない味わいを目指して開発した。「産直ルッコラと生ハムのサラダ」(650円)は、由紀子氏の実家である神奈川・川崎の農家から直送されるルッコラと、かつて後藤氏が勤務していた食肉卸会社から仕入れる生ハムを使用。なお、ビール醸造後に出る使用済みの麦芽は、由紀子氏の実家で肥料として使用してもらっている

学生時代に親しんだ街に出店。生樽やボトルでの外販も開始

 後藤氏は1984年東京・青梅市生まれで、親の転勤に伴い各地を転々としながら育った。農大時代は1~2年を神奈川・厚木キャンパスで、3~4年は世田谷キャンパスで過ごした。卒業後は山梨にある食肉総合卸の会社に就職し、7年間勤務。山梨在住だった2012年に、甲府駅前に1階が醸造所、2階がレストランとなった「アウトサイダーブルーイング」ができ、後藤氏はそこでクラフトビールのおいしさに目覚めるとともに、このくらいの規模でもブルーパブが営業できることに興味を持った。自分もクラフトビールの道に進もうと決意すると、2014年に厚木の小規模醸造所「サンクトガーレン」に転職し、1年半勤務してビール醸造を学んだ。開業は世田谷を希望して物件を探し、新築の現物件を紹介された。家主に後藤氏がやりたいブルーパブを見てもらって「こういう業態をやりたい」と説得し、醸造所用と立ち飲み店用の2区画を借り受けた。

 免許取得後は、「経堂エール」のほか、年間20種ほどのクラフトビールを醸造する。最近では夕暮れをイメージした「黄昏星港(たそがれシンガポール)」、畳の匂いから発想した「い草ペールエール」などを販売。いずれも一期一会の味わいでよしとし、「経堂エール」以外は再現性にこだわらないのも後藤氏のスタイルである。ビールは常時4種を提供し、価格は275ml 500円、385ml 800円、580 ml1000円、1160ml 1800円均一に設定している。

 フードは、もともと料理好きで、飲食店でのアルバイト経験も豊富な後藤氏が、ビールに合う肴約20品目(280~1000円)を考案し、店内で手作り。また、近隣の店舗のたこ焼きや鯛焼き、寿司の持ち込みも可としている。料金は前払い制で、客単価は2500円前後、1日に30~40人が来店し、平均月商240~250万円を上げている。

 同店が街角のブルーパブとして常連客を引き付けている要因は、以下のようになるだろう。

  1. 自家醸造による造りたてのクラフトビールを主力としている。
  2. 定番の「経堂エール」以外は、多彩なビールを頻繁に登場させている。
  3. 立ち飲み、前払い制で、気軽な利用を誘引している。

 ビールは店内での消費が約9割を占めているが、2018年から生樽の卸販売や、「経堂エール」のボトル販売も開始した。2019年にはこのボトルが「世田谷みやげ2019」に認定され、手土産として買い求める人が増えている。現在は年間10キロリットルほどのクラフトビールを製造しており、フル稼働させれば約12キロリットルの製造が可能とみている。次のステップとしては、ここをフルに稼働させてもう1店舗着席で利用できるビアレストランを作るか、醸造所を増やして外販に力を入れるか、どちらかを選ぶことになりそうだ。

後藤醸造
住所
東京都世田谷区経堂2-14-3 経堂OKコート1F
TEL 03-6751-0698
営業時間
15:00~22:30(L.O. 22:00)、日曜日13:00~21:30(L.O. 21:00)
定休日
月、火曜日(変更の場合あり)