伸び率鈍化でも優良な市場。対策次第で大きなチャンス
ラグビーワールドカップ日本大会に沸いた今秋の日本列島。出場国を中心に多くの外国人が訪れ、9月の訪日外国人客は前年同月比5.2%増(日本政府観光局発表)と活況を見せた。来年の東京オリンピック・パラリンピックへの期待もおのずと高まってくる。
しかし「数字だけを見ると、インバウンドの伸び率は、今年は鈍化している」とインバウンド戦略アドバイザーの村山慶輔氏は言う。2018年は昨対比8.7%の伸び率だったのに対し、2019年は10月時点で4%前後。2012年~2017年までは2桁の伸び率だったため、それと比較すると確かに鈍化しているように見える。
この状況を村山氏は「インバウンド市場が頭打ちになっているわけではありません」と断言。鈍化の主な原因は、日韓関係の悪化による韓国からの訪日観光客数の減少にある。特に団体客が急減し、個人旅行も抑制傾向。今はまだ好転の兆しは見えないが、「日本が好きな韓国人は多いので、政治的な障壁が取り除かれれば必ず回復する」と村山氏は見込む。一方で、訪日旅客上位国である中国・香港・台湾は好調をキープし、ベトナムを筆頭に東南アジアからの訪日客も着実に増加。ラグビーワールドカップの効果で、イギリスからも84.4%増(9月前年同月比)と大幅な伸びを見せている。
今後の日本は、来年の東京オリンピック・パラリンピックだけでなく、2021年5月には「ワールドマスターズゲーム2021関西」の開催が決まっている。これは中高年齢者のための国際総合競技大会で、欧米豪を中心に富裕層の訪日が期待されているのだ。さらに、2025年には大阪万博も開催予定。「国際的なスポーツイベントと万博によって、日本への注目度は2020年以降も落ちないと考えてよいと思います」と村山氏は語る。加えて、海外旅行は世界的にトレンドの1つで、海外旅行者数は増え続けている。インバウンドのマーケットには、大きな伸び代があると言えるだろう。
村山氏も「人口減少が顕著な日本の現実を考えるなら、飲食店の成長戦略としてインバウンドは有効な選択肢の1つ。インバウンドは日本人客を減らさずに、外国人客という新たな顧客が獲得できる“プラスオン”の市場なのです」と指摘する。特に外国人観光客の場合、早い時間に来店したり、来店が多くなる曜日や時期が日本人客と違う。また、個人旅行が増えていることも、個店で外国人客を獲得しやすくなった要因の1つ。さらに、「外国人客は日本人客より客単価が高い傾向」と村山氏。多くのチャンスを秘めているのがインバウンド市場なのだ。
ただし、今後予想されるインバウンド市場の変容には注意しておきたい。大きな変化は「国と民族の多様化・細分化が進むこと」(村山氏)。これまでは圧倒的に東アジア圏からの訪日が多かったが、今後は世界のあらゆる国からやってくる。当然、食習慣も多様なので、それらに細かく対応する姿勢が求められる。また、これまでは日本を体験したいという「日本ファン」やリピーターが多かったが、今後は初めて日本に来る人やスポーツ観戦が目的の人も多く訪日するため、おもてなしへの評価が、より厳しくなることも予想される。しっかりと対応し、「日本ファン」を増やす絶好のチャンスと捉えたい。
では、これからインバウンド対策を始めようと考えたとき、何から手をつけたらよいのだろうか。村山氏は「まず、自分の店がインバウンドの受け皿となっているかどうかを点検し、受け入れ環境を整えることが不可欠」と呼びかける。SNS時代の現代では、ネガティブな口コミほど拡散が速い。受け皿が整っていない店で外国人客を受け入れても、満足させられず、逆効果になりかねない。「入店から退店までの流れを外国人の目線で見直すことが肝心。外国人からも選ばれる店になっているかチェックしてほしい」と話す。
オリンピック・パラリンピックまであと8カ月余。「今から取り組めば様々なことが試せますし、場数も踏めます。今がチャレンジする一番のチャンス」と村山氏。では、これからのインバウンド対策のポイントをキーワードに沿って、押さえていこう。