2020/02/25 特集

【後編】注目シェフ クローズアップ 料理界の若き旗手にいま聞きたい、10のこと。(3ページ目)

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【aca 1°】オーナーシェフ 東 鉄雄

東 鉄雄(あずま てつお) 1978年、岡山県生まれ。京都で育ち、家業の自動車部品商社に就職。25歳で一念発起し、料理の世界へ。京都の老舗スペイン料理店「ラ マーサ」で9年間修業し、スペインで本場の料理を学んだ後、独自のスペイン料理を追求すべく2013年に「aca 1°」で独立。伝統的なスペイン料理に独自のアイデアを加え、2017年から毎年ミシュラン一つ星を獲得し続けている。
aca 1°(アカ)
現在、京都(烏丸御池)から東京(日本橋)への移転準備中
http://aca-kyoto.jp/
古典的スペイン料理に独創性を加えたモダンスパニッシュ(昼夜ともにコースは2万円~)を提供。「aca」(スペイン語で「こちら」)には情熱の国スペインのカラー「赤」の意味も。今年1月で閉店し、東京への移転準備中。
※写真は京都店(2020年1月末で営業終了)

料理人を目指したきっかけ

 20歳のころ、海外で何か仕事がしたいと考え、留学資金を稼ぐため、京都の中央市場でアルバイトをしていました。その時、多くの料理人の方と接したのですが、とにかく恐くて粗野な印象が強く、「料理人にはなりたくない」と思っていました。一方で、一人暮らしやその後の海外留学では自炊する機会が多く、友人などに料理を作って喜んでもらう楽しさを感じていました。そんななか、母が亡くなったことから帰国し、家業の自動車関係の仕事を手伝うことに。ただ、どうしてもそれを一生の仕事とは考えられず、自分の好きなことで手に職が付けられるものと考えて浮かんだのが、以前は「なるまい」と思っていた料理人の道だったんです。

 このときすでに25歳。10代から修業している人も多いなか、スタートの遅い自分が勝負するなら、当時の日本でそこまでメジャーでないジャンルでと考え、スペイン料理を選びました。修業先は、実際に食べに行って味に魅了された京都のスペイン料理店「ラ マーサ」。9年間勤め、料理を基礎から教えていただき、統括マネジャーとして店舗運営にも携わりました。

独立の経緯と独立で重要だと思うこと

 「ラ マーサ」時代、会社のスペイン研修で出合った独創的な料理に衝撃を受けたのが独立のきっかけです。食べ手に驚きを与える料理を目の当たりにして、一皿ごとのクオリティにこだわったコースを提供したいと考えるようになりました。しかし、「ラ マーサ」はアラカルトが主体で、クラシカルな料理が売りの店。自分のやりたい料理について会社と話し合いを重ねた結果、背中を押してもらうかたちで独立を決意しました。そして、独立に向けて最新のスペイン料理を勉強すべく、妻と子どもを置いて3カ月間スペインに行き、星付きレストランで分子料理などを学びました。ただ、最新の技術は素晴らしいと思う反面、素材のよさを引き出すという点では、日本の飲食店もまったく劣っていないと実感しましたこの経験から、見た目や演出のオリジナリティよりも、食材のよさを活かすことを追求しようと、ビジョンも固まりました。そして、35歳で満を持して京都の烏丸御池に「aca 1°」をオープンしたんです。

 それから約6年。ここ数年は数カ月先まで予約が埋まるようになりましたが、最初は予約が入らず苦難の連続でした。その経験を踏まえて重要だと思うのは、全方位的に店のバランスを見て、足りない部分、改善すべきところを見極めることです。私の場合、修業時代に店舗統括のポジションもさせてもらえていたので、その辺の経営感覚は多少なりとも養えていたと思います。

スペイン料理のけん引役になり、若い人たちの目標になりたい(東氏)

自身の料理スタイル料理

 スタイルの原点は、修業時代のスペイン研修で食べた独創的な本場の料理。「aca 1°」で提供しているコースでは、パエリアやアヒージョなどの定番メニューから、分子ガストロノミーの要素を加えた料理まで、バリエーションも意識しています。

成長につながった成功や失敗

 「ラ マーサ」ではコースを手がけたことがなかったので、独立当初、コース構成などは手探り状態でした。「お客様を満足させたい」「様々な料理を食べてもらいたい」という気持ちが強すぎて、料理数が15品にもなり、お客様が食べ終わるのに3時間半かかったことも。あるとき、お客様から「量が多いよ」と指摘され、独りよがりになっていたことに気づかされました。

日々、習慣にしていること

 営業前は何も食べないようにしています。調理中に味を見る際、直前に食べた料理の影響を受けずに、ニュートラルに判断したいからです。空腹で来られるお客様と同じ感覚で味を確認したいという想いもあります。

 また、週2~3回、京都の大原にある契約農家さんの畑に行くのも習慣にしています。自宅から車で20分ほどですが、1人で考えごとをするためのちょうどよい時間です。畑では一般の流通に乗らない間引き菜や珍しい野菜にも出合え、新たな料理のヒントが転がっていることも多いです。

スペシャリテ、自慢の一品

オープン当初から人気のスペシャリテ「毛ガニのパエリア」。カニの身のほか、イカ、ホタテなどを使い、シンプルに食材のよさを堪能できる

 オープン当初からのメニューの1つが、春に提供している「毛ガニのパエリア」です。毛ガニをメインに、イカ、ホタテ、タマネギ、トマトなどを使用。カニは身をきれいにほぐして使い、残ったガラを使ったスープと野菜のブイヨンで炊き上げ、カニの香りを強調しています。メインの食材であるカニにスポットが当たるよう、具材は数を絞り、その分、スープに手間暇をかけています。パエリアは看板の1つでもあるため、12~13種類のバリエーションを用意。兵庫・津居山産の松葉ガニや香箱ガニのほか、のどぐろやアワビ、太刀魚、サンマ、アナゴなど、季節の食材を使うようにしています。

座右の銘、好きな言葉

 「チャレンジ」です。小学5〜6年生のときの恩師から「何にでもチャレンジできる人間になってほしい」と言われたことが頭に残っていて、困難にぶつかったときに「チャレンジしているか」を自分に問うようにしています。この言葉が心のどこかにあったから、スペイン料理という未知のジャンルに飛び込み、独立まで果たせたのかもしれません。独立後、その恩師が「頑張ってるみたいだな」と来店してくれたときはうれしかったですね。

趣味や休日の過ごし方

 プライベートで大切にしているのは、お風呂にゆっくり浸かる時間です。温度はやや高めの44℃ぐらい。お気に入りの入浴剤を入れて、1時間ほど湯船に体を預けていると、サウナのようにしっかり汗を出すことができ、心身ともにリフレッシュできます。

目指す料理人像

 日本では、スペイン料理の業態のなかでバルだけが急激に増えましたが、一過性のブームになってほしくない。もちろんバルもあっていいし、当店のような高級業態もあっていい。もっとスタイルや価格帯のバリエーションが増えてほしいですね。微力ですが、そのけん引役になれればと思っています。また、「aca 1°」で働くスタッフにも将来は独立をして、成功をつかんでほしい。彼らが目標にしたいと思うような料理人になっていきたいです。

2020年の目標や予定

 これまで京都で続けてきた「aca 1°」を1月末で閉め、6月から東京・日本橋で新たにスペイン料理の店をオープンする予定です(屋号は未定)。当初は慣れ親しんだ京都市内での移転を考えたのですが、40代に突入し、今後の人生を考えたとき、東京で挑戦するラストチャンスだと思い、決めました。これまでのお客様は、7割が関西の方でした。東京では心機一転、新たなスタートとなりますが、まだ見ぬお客様との出会いを楽しみにしています。

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