2012/03/27 特集

これだけはおさえておきたい!食の安心・安全ガイド

飲食店に求められる食の安心と安全。今回はそのプロである日本冷凍食品検査協会の佐川一史氏を講師に、「厨房の衛生管理」「食品表示」の2つについて、知っておきたいポイントをチェックしたい。

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飲食店に求められる食の安心と安全。今回はそのプロである日本冷凍食品検査協会の佐川一史氏を講師に、「厨房の衛生管理」「食品表示」の2つについて、知っておきたいポイントをチェックしたい。

財団法人 日本冷凍食品検査協会とは?
1949年に設立された、食の安全・安心を守る「総合食品検査機関」。専任スタッフと最新機器を用いた広範囲な試験と、食品製造・流通・販売業者などの依頼による高精度な検査によって、食品産業の健全な発展、食の安全性向上などに寄与することを理念としている。「JAS法の規定に基づく農林水産省登録認定機関」「食品衛生法の規定に基づく厚生労働省登録検査機関」として飲食業界との関わりも深い。全国に7つの事業所・検査所を持つ。

※ホームページ http://www.jffic.or.jp/

厨房の衛生管理

盲点を見逃さないためにはチェックシート活用が有効

食の安全を考えるうえで、まず大切なのが「厨房の衛生管理」。ほんの少しの油断が食中毒・食あたりなどの事態を招くケースもありうる。飲食業にとっては、まさに死活問題と言えるだろう。その反面、「意識の高いお店でも、日常のなかで意外に見落としがちなポイントは多い」と検査のプロ・佐川氏は話す。

「人はつい環境に慣れてしまうもの。清潔なキッチンを維持するためには、確認すべき箇所をリストアップしたチェックシートが有効です」。

ここで紹介するのは、日本冷凍食品検査協会が、実際に飲食店の調査指導で用いているチェック項目。これらに注意しつつ、できれば複数スタッフによるクロスチェック(相互確認)体制を築くのが望ましい。

「もっとも怖ろしい食中毒を防ぐ基本は、食材に菌を付けない、菌を増やさない、正しく菌をやっつける。この3つです。そのために欠かせない行動をわかりやすく集約したのが、チェックシートだと考えてください」

食材の衛生管理

日付管理で見えないリスクを防ぐ。冷蔵庫内のポジションにも要注意

食材そのものを衛生的に保つことは、飲食店にとって基本中の基本。だがその際、意外に盲点となりがちなのが、冷蔵庫への「過大な信頼」だ。

「増殖のスピードこそ遅くなりますが、冷蔵庫内でも菌は増えています。特に要注意なのが、使用頻度の少ない食材。例えば『たまにしか出ないデザートのトッピングが傷んでいた』などの例は、実は少なくありません。そこで重要になるのが日付の管理。常温はもちろん、冷蔵庫内の食材についても『開封日・廃棄予定日』が曖昧にならないように、目に付くところにシールを貼るなどの工夫が必要でしょう」(佐川氏)。

食中毒の原因は、腐敗とは異なる。例えば、匂いに異常がなくても毒素が出ているケースもあるので、あらかじめ決めた期限で使いきることが重要だ。さらにもう1つ注意したいのが、冷蔵庫内の整理整頓(置き方)の問題。
「例えば、冷蔵庫内の下段にラップをしていない生野菜サラダ、その上段に生肉を置いたとします。この際、もし上から1滴でも肉汁が落ちれば、野菜に菌が付いてしまいます。食中毒防止の基本は菌を付けないこと。整理整頓は見た目の問題だけでなく、リスク管理上も重要です。同じ意味で、食材の裸保管、直置きも厳禁です」(佐川氏)。

従事者の衛生管理

安全に欠かせないスタッフの健康。衛生管理はまず正しい手洗いから

食材から食材、モノ(器具類)から食材、そして人から食材。ウイルスや菌には様々な汚染ルートがある。その意味で、スタッフの健康状態の確認も極めて重要なファクターだ。

「例えば食中毒の原因としてもっとも多いノロウイルス。たまに『生牡蠣を食べなければ感染しない』と誤解している方がおられますが、自分で気付かないうちに保菌者になっていることも多く、『軽い風邪かな』と油断して厨房に入ると、重大な事態にもなりかねません。少しでも下痢や嘔吐の症状がある人は必ず自己申告し、食材に直接触れないようにするのが鉄則」(佐川氏)。

健康なスタッフの場合も、小まめな手洗いはもちろん必須だ。ただしこの場合、アルコール噴霧だけでは完全ではないことを頭に置いておきたい。

「爪の間に入った見えない汚れなどは、アルコールではとれません。食品衛生は手洗いに始まり、手洗いに終わると言っていい。トイレ後などはもちろん、一定の間隔できちんと手を洗う習慣を徹底しましょう。菌の隠れ家となる指輪や手首に付けるアクセサリーは禁物。また見落としがちなのが、厨房内への持ち込み。余計な感染リスクを排する意味でも、キッチンでの飲食は原則的に禁止するのが賢明です」(佐川氏)。

設備器具の衛生管理

食材に触れる道具類は常に清潔に。包装容器の管理にも注意が必要

いかに食材の衛生管理を徹底しても、それを扱う器具類や、厨房そのものが汚れていては意味がない。食品に直接触れる道具は常に清潔に。そうでない器具や設備等も正しく管理することが大切だ。食物に異物が混じらないよう、器具の破損にも注意を払いたい。

「経験上、よく見落とされがちなのは、例えばスライサーの裏やジューサーのカッターまわりなど。洗いづらい箇所にはカスがこびりつく確率も高いので、定期的に取り外して洗うようにするといいでしょう。設備面で意外と盲点になっているのが製氷機。冷蔵庫と比べて掃除が面倒なこともあってか、内部の給水口に汚れがこびりついている店もたまに見かけます」(佐川氏)。

手洗いと一緒で、アルコール噴霧を過信しないこともポイント。殺菌はあくまで汚れを落とした後にしてこそ効果があることも覚えておこう。

「テイクアウト用の包装資材を使っているお店では、その保管場所にも注意してください。使用頻度が低いからといって厨房の低い棚に入れっぱなしの店もありますが、そうすると洗浄時のしぶきがかかるリスクがあります。また、食材用のダンボールを放置するのは、わざわざ厨房内に不潔な異物を入れているのと同じです」(佐川氏)

施設の衛生管理

標準的なチェックリストを元に、想像力を働かせることが重要

4つ目の分類は、厨房施設そのものの衛生管理。天井・壁・床から清掃用具、洗剤類まで多岐にわたるが、なかでも意識したいのはやはり、冷蔵庫・冷凍庫の管理だ。調査指導の際に、佐川氏が必ずチェックするのがファンのカバーだという。

「業務用の冷蔵庫には必ず付いている冷気の吹き出し口。ここが汚れているケースが意外に多いんですね。もしもそんな不潔なファンの真下に生ものを置いたとしたら、それは常時ホコリを吹きかけているのと同じことです。また、冷蔵庫の中はきれいでも、取っ手部分に汚れが付いたままというお店もわりと見かけます。そうするとせっかく手を洗っても、その汚れが菌の温床になりかねません」(佐川氏)。

ダイレクトに食品や手と接触しない天井や壁にしても、そこからホコリや水滴が落ちる危険は十分ありうる。

「油の取れにくいフライヤーのフード裏なども、ゴミ等がこびりつきやすく要注意ですね。ホコリは言ってみれば、菌のかたまり。それがどんなルートで食物に混ざる危険性があるか、自分の中でリスクをイメージする作業を習慣付けるといいでしょう」(佐川氏)。

下に挙げたチェックリストをもとに想像力を働かせることが大切なのだ。

〈厨房の衛生管理チェックシート〉

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