2020/06/26 繁盛の黄金律

より良い立地に移転するチャンスが到来

コロナとともに生きる、“with コロナ”の時代に入りました。外食業も変化する状況に適合しない限り、生き残ることはできません。自店に適した立地や物件、それに合わせた営業スタイルが不可欠です。

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Vol.106

テイクアウト販売に不利な立地の店は、さらに厳しくなる

 コロナ禍で休業や時間短縮をしていた飲食店の多くが、正常営業を再開していますが、テイクアウトにしても、デリバリーにしても、コロナ禍で減った売上を補填する努力は、すべてやり尽くしていることと思います。そもそも持ち帰りに適さない料理をテイクアウトで販売したり、やってはいけないことをしている店も中にはありますが、普段は絶対やらないことにチャレンジしているこの時期は、店の将来に向けて、ある意味いい実験ができている時期だとも言えます。

 緊急事態宣言が解除されて1カ月が過ぎ、全国的に県をまたぐ移動自粛も緩和されました。しかし、新型コロナウイルスが完全に終息することはないでしょう。コロナとともに生きる、“with コロナ”の時代に入ったのです。状況が一変したのですから、外食業もその形を変えざるを得ません。適者生存という言葉があります。変化する状況に適合しない限り、生き残ることはできないのです。

 テイクアウトについては前回も書きましたが、売上の一定比率を「店外売上」で獲得することを本気で考えなければ生きていけない時代になりす。昔は店頭の路上でテイクアウト販売していると、警察官に「道路交通法違反ですよ」などと指摘されるケースもあったのですが、このコロナ禍の緊急措置で、条件はあるものの道路占用の基準緩和が国土交通省から発表されています。つまり、路上でのテイクアウトのアピールも、条件を満たせば公認(黙認?)ということです。

 家賃の面から見ると、路面店の家賃は下がりませんが、路面店に比べてテイクアウトをアピールしづらく、より不利になる空中階、あるいは地下の店は、家賃が下がるところが出てくるでしょう。「うちはテイクアウトはやりません」という方針を貫くイートイン専門店にとっては、より低家賃で物件が手に入りやすい時代になった、とも言えます。前の段落で書いたことと逆になりますが、テイクアウトはやらないというのも1つの生き方ですから、その方針を貫いて、それで利益が出る方法を追求すればよいのです。「飲食店の魅力は、なんといっても作りたてのおいしい料理」と考えている人は多いのですから。

「3密」の店は、選ばれづらくなる

 今後の飲食店の問題としては、「3密」もあります。今は多くの店で、客席の“間引き”をやっています。大手チェーンのほとんどは、間引き営業中です。しかし、コロナが一段落したら元の客席配置に戻せるかというと、疑問が残ります。キツキツに詰めた客席の店にお客が戻って、今までどおりになる可能性は低いでしょう。少なくとも今は客席数を減らして、余裕のある配置にしなければ、お客は戻ってきません。

 例えば30坪30席で営業していた店があるとすれば、これからは20席前後が適正になる、ということです。お客1人あたりの占有面積が広がったわけですから、今後は席数を同じにするのであれば、従来以上のスペースが必要になる、ということになります。立地によりますが、家賃は高くなります。しかし、総体的に家賃は下落していくと思いますので、より自店に合った立地に移転するチャンスが到来したとも言えるでしょう。

 実際、すでに家賃下落の動きは顕在化していて、今まで手が届かなかったような好物件が、あちこちに出始めています。個人店、チェーン店を問わず、コロナ禍で閉店が増えているからです。大家さんの間でも動揺が広がっています。次の借り手が現れるだろうか、という動揺です。飲食店経営に適したベストの立地の家賃は、なかなか下がるものではありませんが、セカンドベストは下落していくでしょう。いざ移転するとなるとお金はかかりますが、長期的な視野に立って、思い切って移るいい機会がやってきているのです。そのことも、頭の片隅に入れておきましょう。

 とはいえ、前回も述べたように、都市中心部の繁華街、オフィス街の昼間人口そのものがテレワークの普及などにより減少していますので、その立地では、少なくなったお客の奪い合いが起こることは覚悟しておかなければなりません。ただし、飲食店そのものが減ったり、集客の成功・失敗が二極化する可能性が高いので、生き残った店にとってはチャンスです。

 「家」(の需要)に直結する業態が強くなっていくであろうことも、前回書きました。場所でいうと、駅前、駅近、それからロードサイドですね。ここが強くなります。当然、中心部以上にテイクアウトが重要になります。そして、ロードサイドはテイクアウトとドライブスルーが強力な武器になります。ドライブスルーは、どこの店でも設置できるわけではありませんが、「マクドナルド」でも「ケンタッキーフライドチキン」でも、ドライブスルー付きの店がフル稼働している事実を直視しなければなりません。まさに、「家」と直結する市場を確保しているのです。

 外食市場は、「家」と直結する立地に、音を立てて移動していることを認識しなければなりません。求められる業態も、テイクアウトが強いことがポイントです。大変化の時代の真っ只中にいるのです。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。