2020/08/28 繁盛の黄金律

テイクアウトに力を入れすぎると、サービスがどんどん物販型になっていく

さまざまな業態の店が、今、テイクアウトやデリバリーに力を入れています。やれることは何でもやる。今はそういう時期ですが、イートイン客へのサービスの維持と食中毒には、細心の注意が必要です。

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Vol.108

商品劣化と食中毒に対して、警戒心がなさすぎる

 チェーングループばかりでなく、個人営業のレストランや居酒屋、定食屋、そば・うどん・中華・ラーメンなどの専門店も今、テイクアウトやデリバリーに力を入れています。この100年間に、一度も起こったことがないようなことが起こっているのですから、これは仕方がないことです。何度でも言いますが、生き残るためにやれることは何でもやって、この難局を何とか乗り越えていかなければなりません。

 ファストフードやファストカジュアルの店、惣菜店などは、もともとテイクアウト中心の商売ですから、本業を強化するという意味で、テイクアウト・デリバリーに力を入れるのは、当然のことです。問題は、イートインのお客だけを相手にしてきた店です。そういう店がテイクアウトあるいはデリバリーで、減った売上をカバーしようとすること自体は間違いではありません。やれることは何でもやる。今はそういう時期です。

 テイクアウトについては、お客様がどういう動機で買うのか、買っていつどこで喫食するのか、その具体的なイメージを、店主が持っていなければなりません。以前にも書きましたが、そのイメージをしっかり頭に入れて商品開発をしないと、商品の劣化、ひいては食中毒という致命的な事態を引き起こす可能性が高くなります。もし食中毒を起こせば、店はそこでおしまいです。イートインだけの営業をしてきた人は、このメニュー劣化と食中毒に対しての警戒心が少なすぎる傾向にあります。食中毒に至らなくても、味が落ちた商品を売ることで、店の評判は立ち直れないくらいに下落してしまいます。細心の注意が必要です。

コロナ禍が収束してもお客は100%戻らない

 もうひとつの問題は、サービスの劣化です。テイクアウトが売れ始めてくると、サービスが次第に物販型になっていってしまいます。ひと言で言うと乱暴になってくるのです。物販にはサービスが必要ないということではありませんが、外食のテーブルサービスとは異質なものです。物販のサービスは、提供の早さや正確性を主眼に置いていますが、テーブルサービスは、従業員が何度もテーブルに足を運び、きめ細かくお客の要望に対応しなければなりません。

 どちらが難しいか、と言えば、やはりテーブルサービスでしょう。外食業でも、ファストフードとテーブルサービスでは求められるサービスが違います。先に述べたように、ファストフードのサービスは、物販に近いものになります。しかし、テーブルサービスが物販型になってしまったら、イートインのお客は満足しません。テイクアウトに力を入れるあまり、店全体のサービスが物販型になってしまっている店が増えていると感じます。今、いちばん注意しなければならないのは、この点です。料理はこれまで通りにおいしくできているのに、サービスが荒っぽくなってしまっては、今まで築いてきた店の評判が一気に下落してしまいます。テイクアウトに引っ張られてしまった結果、そうなるのです。

 イートイン一本でやってきた店も、テイクアウトなどで一定の売上を確保できないと、やっていけない時代が到来しつつあります。具体的に言うと、コロナ禍が収束してお客が戻っても、客数は以前の85%どまりになるでしょう。残りの15%は、イートイン以外で確保しなければなりません。そのひとつの方策が、テイクアウトやデリバリーにあるわけですが、そのほかにも、
■パーティーやファミリー向けのケータリングを行う
■ミールキット(調理の最終工程を購入者自身が行う料理キット)を販売する
■冷凍食品、レトルト食品の開発によってブランドを高める
などが考えられます。この分野における商材開発力、マーケティングも必須だということです。

 しかし、それでも経営のベースになるのは店舗でのイートインです。イートインのお客の満足度が上がらない限り、何をやっても悪い評判を巻き散らすだけになってしまいます。もう一度、現在のイートインのサービス、そのクオリティーに目を向けてみてください。お店によってサービスのスタイルもさまざまですが、心のこもった、来店客が喜ぶサービスができていますか。お客の要望を感知し、俊敏に対応する動作訓練は行われていますか。そして、そのサービスレベルは上がっていますか。

 今、それができている店は、本当に少ないと思います。テイクアウトと、ミールキットなどを含めたそのほかの「オフプレミス」(購入場所から離れて消費する小売形態)に力を入れすぎていて、本業がすっかりおろそかになってしまっているのです。「オフプレミス」は、テーブルサービスとまったく別種の商売なんだ、ということを肝に銘じておかなければなりません。未来から目をそらすな、です。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。