2020/10/30 繁盛の黄金律

テイクアウトの注意点は、経時劣化とチャンスロス

テーブルサービスである外食業と、ファストフードサービスに代表される物販型の店の違いは、作り置きか、ツーオーダーか、にあります。テイクアウト販売を行う際は、その違いを十分に考慮する必要があります。

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Vol.110

販売業と外食業をつなぎ合わせる危うさ

 このコロナ禍で、テーブルサービスのお店も、いっせいにテイクアウト商品の開発・販売に力を入れています。テーブルサービスの外食業は、製造・販売・サービスを、1つの店で集約して行うビジネスです。来店客を席に案内して、注文を受け、それをキッチンに通し、調理人が製造(調理)を行い、完成したら即、お客のテーブルに運ぶ。これが、外食業の本来の形です。

 1940年代後半から、アメリカでファストフードサービス(FFS)という外食ビジネスが生まれました。その代表選手が、マクドナルドやケンタッキーフライドチキン(KFC)です。メニューは限定され、安価にクイックに提供できるということで、FFSは一気に全米に広まりました。今やこちらのほうが主流になって、アメリカの外食業の売上ランキング(2019年)では、上位20社中18社がFFSです(トップはもちろんマクドナルド。2位がスターバックス)。

 FFSの特徴は、その本質が物販業である点です。物販業と外食業の違いは、作り置き(前準備も含む)か、ツーオーダーか、にあります。ツーオーダーとは、注文を受けてから作り始める、ということです。コロナ禍にあっても、マクドナルドやKFCなどのFFSが圧倒的な強さを見せているのは、物販業だからです。テイクアウトがメインビジネスで、イートインはサブです。サブはいったん止めても、メインの物販が大車輪の活躍をすれば、売上は上がります。しかも、注文を受けてゼロから作るわけではありませんから、チャンスロスがなく、クイックにお客をさばくことができます。

 また、FFSは作り置きですから、販売の瞬発力があります。売れるときに、メチャクチャ売れるビジネスです。テイクアウト(デリバリーも)はまとめ買いのことも多く、単価も上がります。イートインがなくなっても、テーブルサービスの店のような大きな打撃は受けません。コロナ禍で善戦しているFFSは、強いテイクアウト商品を持っていることが共通点ですが、とりわけ、ドライブスルーの装備率の高いチェーンが、圧倒的な強さを見せています。大手チェーンを見ると、コロナに強い立地は郊外のロードサイドということが明白です。

食材ロスを気にしていると、チャンスロスが増える

 テーブルサービスである外食業のテイクアウトが今ひとつうまくいかないのは、外食業の横に物販業という異種のビジネスをつなぎあわせている、という意識がないからです。非常に困難なことをやっている、という意識が希薄なのです。一番の難点は、お客は「その場ですぐには食べない」ということです。これは以前にもこの連載で書きました。

 FFSでは、もともと経時劣化を前提に商品開発がなされていますが、テーブルサービスの店は、そういう商品開発の手法を身に付けていないのです。その中で日本料理店が比較的テイクアウト開発が上手なのは、仕出し、弁当、おせち、出仕事といった長い経験があるからです。日本料理のとあるチェーンなどでは、高級弁当や“通年おせち”のような高額商品を開発して、売上の確保に成功しています。日本料理の底力を見るような思いがします。

 外食業のテイクアウト戦略の失敗は、外食業と物販業とでは「販売の姿勢」が違うという点に気が付いていないところにもあります。端的に言ってしまうと、外食業は食材ロスを気にします。客数予測が大きく外れた場合、準備していた食材を廃棄しなければならない。このことを、強く罪悪視します。一方、FFSなどの物販型は、チャンスロスを一番気にします。製造が足りなくて、完売してしまい、品切れをおこしてしまうことを罪悪視するのです。例えば、100個売れるチャンスがあったのに、商品が足りずに80個しか売れなかったとします。この売り逃しこそが、FFSでは罪なのです。

 ですから、FFSは基本的に多めに作ります。そして、一定の廃棄ロスをはじめから織り込んでおくのです。ツーオーダービジネスと、作り置きビジネスの決定的な違いがここにあります。したがって、ツーオーダーの外食業は、テイクアウトでは売り損ない(=チャンスロス)という失敗を犯してしまうのです。スーパーの惣菜などを見ていると、はっきりわかりますね。18時を過ぎると、値引きに入ります。そして、売れ残り品の完売を目指します。粗利益は下がりますが、チャンスロスは一切犯しません。これが物販業のやり方です。

 ツーオーダー型の外食業は、物販型の店と比べて、売り方に違いがあることを常に認識しておかなければなりません。イートインでは、食材ロスを気にする商売をしなければなりません。一方、テイクアウトではチャンスロスを一番気にしなければなりません。その頭の切り替えができればいいのですが、なかなかうまくできないものなのです。

 「経時劣化を前提にした商品開発」と、「チャンスロスを回避する製造と販売方法(というよりは、マインドと言うべきですね)」の両方に神経を集中させなければ、テイクアウトは成功しません。なによりもテイクアウトの失敗は、店のブランドを傷つけることにもつながります。入念にシミュレーションと準備を行い、自信がなければ安易にテイクアウトには手を出さないことです。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。