2020/12/22 特集

【PART2前編】前進し続けるリーダーたちの覚悟と戦略 外食業界、それぞれの挑戦 ~激動の2020年から2021年へ~

新春特別企画PART2では、全国各地の経営者をフィーチャー。前編と後編の2回に分けて、それぞれの場所で奮闘する8人のリーダーに2020年を振り返ってもらい、2021年の展望や、今後の飲食業界について語ってもらった。

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青木 康明(株式会社APR TRADING 代表取締役兼CEO)

“飲食店一本足打法”からさらに脱却、さまざまな新規事業にトライします

1987年生まれ。札幌市出身。大学卒業後、ビジネス専門学校に進んで経営を学び、東京の飲食企業に就職。海外事業を志願して、入社翌月にはタイへ赴任し、飲食店の立ち上げと運営を担う。帰国後、2013年に株式会社APR TRADINGを設立。飲食店経営や物販を手がける。父・青木定信氏が経営するグループ企業・株式会社エーピーアールなどの取締役も兼務。
株式会社APR TRADING
●創業:2013 年●所在地:北海道札幌市中央区南6条西4丁目 APR64ビル3F ●出店エリア:北海道(札幌)、タイ(バンコク)●北海道産に特化した食材・食品の卸売り、海外輸出事業、飲食業を展開。食品製造・販売も手がけている。飲食店としては、「北海道ジンギスカン 蝦夷屋」を2018年にオープン。タイでもジンギスカン、寿司店、バーの3店舗を経営。
北海道ジンギスカン 蝦夷屋
北海道札幌市中央区南5 条西3 北専プラザ佐野ビル1F
https://r.gnavi.co.jp/f4bnrje60000/
すすきの駅至近に2018年2月オープン。約100席と広く、厚さ1センチ以上のラム肉を自家製タレやオリジナル薬味とともに楽しむ「なまら厚切りジンギスカン」が好評。

「選択と集中」を断行し、物販を本格的にスタート

 株式会社APR TRADINGを設立したのは7年前、26歳のときです。父は、すすきのエリアで飲食店30店舗を経営するAPRグループの代表で、43年前に始めた小さな焼き鳥居酒屋から事業を拡大。今ではヘアサロンや人材派遣も手がけています。いずれは父の事業を継ぎたいと思っていたのですが、まずは実力と実績を積むために、自身の会社・APR TRADINGを設立。道産食材の卸売り、食品製造・販売、飲食事業(「北海道ジンギスカン蝦夷屋」など)を手がけています。ジンギスカン業態を選んだのは、道民のソウルフードとして需要があり、流行り廃りのない業態で勝負したかったからです。そのほか、APRグループの本部機能を持つ株式会社エーピーアールの役員として、父や他の役員とともに、傘下の飲食店の経営にも携わっています。

 すすきのエリアから飲食店の灯が消え始めたのは、北海道独自の緊急事態宣言が出た2月中旬。何から手をつけたらいいのか悩みつつ、「蝦夷屋」は休業せず、物販に本格的に取り組むことにしました。飲食店の今後の在り方として、イートイン以外の収益の柱をどれだけ持つことができるかがポイントだと以前から考えており、もともと物販は「蝦夷屋」でも細々とですが行っていました。営業許可や梱包資材などはそろっていたので、スタートは早かったですね。すでに「打つ手のタネ」があったのはありがたかったし、羊肉の仕入れ量は決まっていたため、結果として物販を軌道に乗せる好機になりました。

 一方、APRグループについては「選択と集中」を断行しました。すすきの一等地の大箱店も少なくないので、全店を一律に開けていたら会社がもちません。そこで、営業するのはピザ、寿司、焼き鳥などテイクアウトやデリバリーに向く店と、固定費が少ないバー業態など6店舗ほどに絞り、ほかは思い切って休業。食材と人材を集中させ、「UberEats」「出前館」「Walt」などデリバリー事業者もすべて使って、売上と仕事をつくりました。従来からやりたいと思っていたランチに挑戦したのもこのころ。できること、思いついたことは何でも実行しました。

 また、APRグループとして、初めてクラウドファンディングにもトライ。資金調達というより、すすきのへの応援の声を集めて、しぼみがちなモチベーションを上げたかったのです。多くのメッセージが寄せられ、それをスタッフと共有して元気をもらいました。返礼品として、物販用のお菓子やアイス、ジンギスカンセットなどを発送したのですが、食材が無駄にならずに済んだこと、発送業務という仕事が生まれたことが、この時期の救いにもなりました。

外部環境に一喜一憂せず、新規事業の立ち上げに注力

 5月末ごろから徐々に街に人が戻り始めたのですが、コロナの波はまた来るとも思っていました。そこで注力したのは、新規事業の立ち上げです。飲食店はサービス提供と消費が同時に行われるので、売上は時間と場所に制約されます。これを取り払って収益性を高めるためには、生産と消費にタイムラグを作るビジネスモデルがどうしても必要。労働集約型の“飲食店一本足打法”からいかに脱却するか。コロナ以降、この課題に挑み続けていると言っても過言ではありません。キッチンカーにも挑戦しましたし、ゴーストレストランとして、「スープカリーラーメン」が売りの「我がる流る」と、「肉肉餃子」が看板の「餃子のエゾヤ」も作りました。「我流る」は実店舗があったのですが、物件契約の関係で閉店後、商品だけ残し、「餃子のエゾヤ」はそもそも実店舗を持たず、どちらもテイクアウトやデリバリー、物販で売上を作っています。

 さらに、自社製品の開発にも本格的に乗り出しました。実は、メーカーになりたいと以前から思っていたからです。卸売りは資本力がモノをいう世界。APR TRADINGのような小さい会社は太刀打ちできないことも少なくありません。ならば、自分だけが売れる商品、僕らからしか買えない商品を持ちたい。そこで開発した一つが「やみつき七味」です。ジンギスカン用に開発したオリジナル調味料ですが、物販でも大きな反響があり、現在、シリーズ化を進めているところです。

 また、バー業態でチャーム(おつまみ)として提供していた自家製のウイスキー生チョコレートも販路を拡大中で、名刺がわりになるくらいに知名度をあげたい。加えて、外部委託していたプライベートブランド「北海道愛す(アイス)」の自社製造を決断。道内の生産者さんらとコラボレーションして「釧路町昆布森愛す」「阿寒湖まりも愛す」などを開発しています。これらは温度管理が大変ですが、常温商品として「ジンギスカンおかき」や「バリバリえび麺」も作りました。新事業と新商品を考えていると、コロナ禍でも前向きになれました。

オリジナル商品の「北海道愛す(アイス)」。外部委託から自社製造に転換し、道内の生産者や企業とコラボレーションして新商品を多数開発中

 そして、11月下旬に思い立ち、実現の道筋ができたのが、クラフトビール「すすきのエール」の製造です。北海道の小麦「春よ恋」で作るホワイトエールで、北海道の雪と小麦の白、そこにコロナ後の「春」を想起させ、みんなを励ます応援歌としたい。すすきのから世界へ“エール”を送ることができれば最高です!

 もちろん、状況は予断を許しません。でも、外部環境は自分たちでコントロールすることができません。僕らができるのは、コロナが収束したとき、どれだけ進化した自分になっているかを追求すること。危機が過ぎるのを、指をくわえて待っているのは企業文化に合いません。困難な状況だからこそ、新しいトライアルはむしろやりやすいのです。

 今、APRグループの事業を継承し、発展させたい気持ちは、以前よりずっと強いです。コロナを乗り越えるため、

 父ともよく議論し、絆も強固になりました。グループ母体が後ろで守りを固めてくれているからこそ、僕が攻めの新事業に挑めている。この環境に感謝しつつ、最大限に生かして、何としてもすすきのの灯を守ります。

 すすきのは、北海道にとって特別な場所。この地で育った企業として、復活に貢献し、必ず活気を取り戻して、世界に“SUSUKINO”を発信したい。そのためにも、自分のビジネス人生をかけて、いい会社を作れるいい経営者になり、いい仕事をしたいと決意を新たにしています。

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