2020/12/29 特集

【PART2後編】前進し続けるリーダーたちの覚悟と戦略 外食業界、それぞれの挑戦 ~激動の2020年から2021年へ~

全国各地で奮闘する飲食店経営者を取材。新型コロナに揺れた2020年を振り返ってもらいつつ、2021年とその先に向けた戦略、展望を聞いた。

URLコピー

加藤 大輔(有限会社坊’s 代表取締役)

コロナ禍で店づくりの方向性が変化。個室での食事会が取れる業態を強化します

1977年生まれ。学生時代に飲食店の開業を志し、愛知・名古屋の居酒屋チェーンに就職し、飲食業のいろはを学ぶ。その後、トラックの運転手をしながら開業資金を貯め、27歳で独立を果たす。名古屋を中心に店舗展開し、2010年には東京にも進出。現在も新規出店の際は、最初に必ず自ら現場に入り、店のベースづくりに注力。社員の意見や提案を柔軟に取り入れながら、事業の多角化も進め、将来は、ホールディングス化を目指す。
有限会社坊’s
●創業:2005年●所在地:愛知県名古屋市中区栄2-4-12 TOSHIN HONMACHIビル 802●出店エリア:愛知(名古屋など)、岐阜(岐阜市)、三重(四日市)、東京(六本木など)●中部地方を中心に、エリアに応じた戦略で居酒屋や鉄板業態などを展開。2020年11月には、既存の鉄板居酒屋の高級業態「PREMIUM 鉄神 名古屋駅店」をオープン。
PREMIUM 鉄神 名古屋駅店
愛知県名古屋市中村区椿町5-10 CORE MEIEKI2F
https://r.gnavi.co.jp/784rn7xr0000/
JR名古屋駅西口から徒歩1分のビル2階にある鉄板料理店。厳選した国産牛を使った「サーロインステーキ」(120g 2,618円)などの肉料理や完全個室を売りに、女子会や記念日利用を獲得。

コストと仕組みを見直し既存店舗の個室数を増強

 2004年に、愛知・名古屋の繁華街・納屋橋に1号店の居酒屋を出店。翌年に法人化し、名古屋市内に「地鶏坊主」「九州小町」「東北商店」など複数のブランドを展開し、2010年には東京にも進出しました。現在、愛知、東京、岐阜、三重で、直営31店舗(8店舗は業務委託)、FC15店舗を運営しています。

 出店エリアの中で、最初にコロナの影響が出たのは、企業が多い名古屋駅周辺の店舗で、3月から予約キャンセルが相次ぎました。その後、徐々に業績が悪化する店舗が増えたため、一部店舗を休業することに。ただ、どのエリアでも必ず1~2店舗は営業している状態にして、社員の働く場所を作りつつ、少しでも売上を生もうと考えました。

 その後、緊急事態宣言が出て、全店舗を休業しましたが、正直この頃はここまで悪い状況が続くとは思っていませんでした。一方で、休業期間中に取り組んだのがEC商品の開発です。もともと2019年から大手ECサイトで自社開発の「坊’sのもつ鍋」(2~3人前3920円)などを販売していたのですが、これに加えて、幹部社員からの発案で開発したメロンプリン「めろりん」(6個2200円)や「自家製煮込みチキン」(3300円)を新たに販売。5月からは、自社のオンラインストアも立ち上げました。売上がそこまで伸びたわけではありませんが、「めろりん」が一番人気になるなど、新商品投入の効果を感じています。コロナ禍のような事態が起こったときに、ECなどで売れる商品を持っていることは重要。軸足は実店舗での営業に置きつつ、今後も商品開発は進めていきます。

 一方、店舗営業の売上については、3月が昨対比8~9割だったのに対して、4~5月は、休業していたこともあり、ほぼゼロに近い数字で、緊急事態宣言解除後に営業を再開してからも、厳しい状況でした。当時は、お客様の入りが読めないこともあり、営業再開後2週間くらいはメニューの数を絞って、食材ロスをできるだけ抑える工夫などもしていました。

 このころには短期の収束はないだろうと見通しを改め、今後の事業展開の大きな見直しをする、2つの決断をしました。1つ目は、これまでの売上の7割で利益を上げられる仕組み作り。具体的には人件費削減のため、注文用タッチパネルを導入しました。1店舗あたり約150~200万円の導入コストがかかるので、全店舗一斉にというわけにはいきませんでしたが、デジタル機器の操作に抵抗がない若い層が多いエリアの店舗から順次導入。1店舗当たりの人件費を約2割削れるので、今後も残りの店舗へ導入する予定です。

 2つ目は、既存店舗の個室を増やすこと。もともと1、2年前から個室需要の高まりを感じていて、会社としても個室を売りにした業態を増やす方向で出店計画を立ててきましたが、営業再開以降、感染への不安などから「個室はありますか?」というお客様からの問い合わせが急増しました。そこで、約3000万円を投入して、夏から秋にかけて11店舗の改装工事を行い、個室の数を増やしました。ほかの店舗についても順次工事を行っていき、全店舗に必ず個室がある状態を目指しています。

食事会の獲得を狙い3つのブランドを強化

 コスト削減など、守りの戦略を進める一方で、昨年から準備を進めてきた新規出店も予定通り行いました。7月オープンの「完全個室名古屋コーチン新鮮魚介地鶏坊主岩倉駅前店」(FC)と、11月オープンの「PREMIUM鉄神 名古屋駅店」です。特に「PREMIUM鉄神」は既存の大衆的な鉄板居酒屋「鉄神」の高級業態で、ニーズが高まっている個室での記念日利用などを狙っています。名古屋駅の西口に出店するのも初めてなので、いろいろな意味で新しい挑戦ですね。

 夏以降、感染予防策も徹底する中で緩やかに客数も戻り始め、6月の売上の昨対が6割、7月には7~8割と回復。ただ、8~9月は再び感染が拡大して5割を切り、10~11月はGoToキャンペーンの効果で、やや戻って7割といった感じで推移しています。

 2021年については、現状ほぼ白紙の状態。1年の終わりに翌年の出店計画が1つも決まっていないのは、ここ10年で初めてのことです。今後は世の中の状況や物件の動きを見ながら判断していくことになると思いますが、飲食業界全体の傾向として、これまでのような大人数での宴会で売上を立てる業態は縮小していくと思います。当社も、これまでは宴会を取れる居酒屋を主力業態として展開してきましたが、今後は女子会や記念日といった食事会に選ばれる業態に力を注いでいきます。特に強化したいと考えている業態は3つ。先ほど紹介した「PREMIUM鉄神」と、天ぷら業態の「天串(TENGUSHI)」、焼肉業態の「GYUJIN」です。「料理がおいしいから」という理由で選ばれる店が生き残っていくと考えているので、メニュー開発を含めてさらに力を入れていきたい。この3つの業態は、客単価が5000円程度。高級店と安価な大衆酒場の中間くらいなので、幅広い層を狙えるのも強みです。既存店の業態変更も進めており、豊田駅前にあった居酒屋「地鶏坊主」は、6部屋だった個室を11部屋に増やした上で「天ぷらとおでん個室居酒屋天串」として、11月にリニューアルオープンしました。今後も、既存店のリニューアルと新規出店を含めて、この3業態を中心に店舗展開をしていこうと考えています。

今後、強化していく主力業態の一つ「天串」では、「名古屋コーチンもも肉天」(748円)など、多彩な天ぷらが楽しめる

 今後の目標として、数年前から、エリアマネージャーを社長にして会社をホールディングス化することと、年商50億円を目標に掲げてきました。ただ、コロナ禍によって、目標達成へのスピードはやや遅くなると思います。一方で、好条件の物件が出てきているので、1つのチャンスでもあります。これからは、物件に一切妥協をせず、好立地&路面の物件で出店を進めていきます。また、飲食以外の事業も始める予定で、今回のような不測の事態があっても簡単には揺らがないビジネスモデルを構築していきたいです。

全4ページ