2020/12/28 繁盛の黄金律

安くていいものはない。変えなくてよいことは、変えない。

看板商品の“磨き込み”を忘れると、来店客数は減少していきます。売れているときは、つい油断をしてしまうのです。味のブラッシュアップは不可欠ですが、素材の質を下げることは厳禁です。その理由を解説します。

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Vol.112

売れ筋メニューも放っておくと、確実に注文数が落ちる

 かつて1日50個も売れていた看板メニューも、時間が経つにしがたって注文数が減少していきます。これはよくあることです。お客様に飽きられたとか、主人(店主。あなたかもしれません)が調子に乗って手抜きをしてしまったとか、いろいろな理由が挙げられますが、そのいずれもが当たっていることが多いのです。新鮮味が薄れて、そこに手抜きが加われば、売れるものが売れなくなるのは必定です。時代が変わった、などの理由を並べて納得しようとしていますが、変わったのは時代ではなくて、あなたです。あなたが看板商品の“磨き込み”を忘れたからですよ、と私は言いたいのです。

 売れているときは、つい油断をしてしまいます。まず、原材料の「見直し」に手を染めます。新しい取引業者の出現。これが危険なのです。この新しい業者が、「うちはこれぐらいの価格でやらせてもらいます」という提案をしてきます。それが現行の業者との取引額の8割だとすると、あなたは心を動かされます。そして、こう尋ねます。「モノは同じなんだろうね」。すると、その業者は、「まったく同じものではありませんが、ほぼ変わりません」と答えます。あなたは早速、その新たに仕入れた食材を使って看板料理を作り、「味はほぼ変わらないな」と感じます。しかし、自分の舌の感覚だけでは危ないので、信頼できる人物にも試食をしてもらいます。その彼(彼女)は率直にこう言います。「うん、ほぼ変わらない。でも、前のほうが質はちょっと上かな。ほんの少しね」。わかりやすいようにイメージを数字で表すと、値段は2割安いけれど、品質は2%低い、ということです。ほぼ変わらない品質で、「2割も食材原価が安くなるのであれば、採用しない手はないな」という判断を下して、新しい取引先の採用を決めたあなた。あなたの店に将来はありません。

 やがてこの2%の差が、致命的な差となって立ち現れてきます。ちょっとした差だと思っていたものが、そうではないことがわかるのです。新たな取引業者を採用した次の日から、お客様の減少傾向が発生し、気がつくと高い頻度で来店してくれていた常連(リピーター)の足がパッタリと途絶えてしまっているではありませんか。

安いものには理由がある

 常連(リピーター)の目(舌)はごまかせません。たった2%の違いを、一口食べただけで見抜いてしまうのです。2%の差について、ここでくだくだと述べるつもりはありません。ただ一つ、次の言葉を心に刻んでおいてください。「いいものは少ない」。少しでも安く、そして少しでもいいものを探し求めることは、経営者の大きな仕事の一つですが、一方で「安くていいものは、この世にはない」という格言も忘れてはなりません。

 業者の中には、こういう行動を取るところもあります。最初の試食品だけいいものを持ってきて、取引が始まると、少しずつ確実に質を下げていくのです。それでは詐欺じゃないかと、あなたは怒りをあらわにするかもしれませんが、世の中とはそういうものです。最初の極上品を出し続けていたら、その業者の経営が成り立ちません。いずれ、帳尻を合わせなければなりません。あるいは、こういうやり方もしてきます。あなたがほしい食材の値は下げるかわりに、“抱き合わせ”で買ってもらっている他の食材の値を引き上げて、帳尻を合わせるのです。

 もちろん、古くからの取引先がいつも良いと言っているわけではありません。昔からの取引に慣れて、より良いものをもっと安く仕入れることを怠っている取り引き業者も少なくありません。ですから、既存の業者にも常に新しい要求を出し続けなければなりません。また、理不尽な高価格を要求してくる業者には、世の中の現状はこうなっているのですよ、という確たる情報を突きつけて、自らが変わってもらわなければなりません。とはいえ、相手側に理不尽な値下げを要求することは絶対にやってはいけません。そのときはしぶしぶ応じても、先ほどの例と同じように、相手はその後にしっかり“損”を取り戻す行動に出ます。

 本当は、あなたと取引先が手を取り合って、より良いものを探す行動を起こさなければならないのです。お互いに切磋琢磨して、もう一つ高いステージを目指さなければなりません。「変える必要のないことは、変えない」。これは人事についてもいえることで、肝に銘じておくべき言葉です。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。