2021/02/26 繁盛の黄金律

QSCの基本に徹すれば、コロナ禍を生き抜くことができる

コロナ禍で外食業は、大変な闘いを強いられています。どんな店が生き残るか、この1年ではっきりしてきました。重要なのは大きく「看板料理」「サービス」「クレンリネス(衛生含む)」の3つです。

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Vol.114

店舗での調理力とサービス力の磨き込みが、生き残るための必要条件

 コロナのトンネルの先に、ようやくうっすらと光が見えはじめてきました。しかし外食業は、大手チェーンも個人店も、生きるか死ぬかの大変な闘いを強いられています。そして、少なくない数の飲食店がすでに閉店に追い込まれています。

 今、大胆な閉店を進めているのが大手チェーンです。年間50店、100店規模で、不採算店を閉めています。特に、町の中心部での撤退が顕著で、空き物件の数が目に見えて増えています。そして、家賃の下落がじんわりと進んでいます。

 どんな店が生き残るか、この1年ではっきりしてきました。まず、看板(=売り)商品がはっきりしている店です。看板料理の質が高くて、価格なりの価値があること。そして、その価値が店舗での調理力の高さによって支えられていること。また、この「店舗(での)調理力(の高さ)」によって独自性が生み出されていること。これが、生き残るための条件です。いくら食材が良くても、価格が安くても、店舗調理力がなければ生き残れません。調理力を日々鍛えることが大切です。

 とはいえ、店舗調理力に支えられた商品の力だけでも足りません。加えて必要なのは、心のこもったサービスです。今、外食業は、大手チェーンも個人店も、雪崩を打ってテイクアウトやデリバリーを手掛けていますが、これによって、イートインのお客へのサービスが低下しがちです。外食業は、イートインのお客に出来たての素晴らしい商品を、心のこもったサービスで提供するところに本質があります。これがすべてだと言ってもいいでしょう。

 ところが、多くの店舗で無意識的に、サービスがないがしろになっています。テイクアウト・デリバリーなどが忙しくなったことと、“人減らし”を強行したことが、主たる理由でしょう。さまざまな事情があるとは思いますが、コロナ禍で十分なサービスができなくなってしまったのです。

混乱の中で、「当たり前」をやる店が激減している

 しかし今、会社や店の大小を問わず、イートインのお客の数を維持している店は、サービスの質を上げている(サービスの質が高い)ところです。もちろん、料理の味や質が一定の基準をクリアしていることは最低条件です。大方の店のサービス力が低下しているときに、サービスの磨き込みに力を入れているところがあれば、際立つのは当然でしょう。そして、そういう店にお客が集まります。そもそも外食とは、料理とともに心のこもったサービスも味わうために存在するものです。来店の主たる目的がここにあるのです。

 「心のこもった」と言っても、抽象的でわかりづらいかもしれませんが、サービスの質は業種、業態、“店格”によって異なります。例えば、ファストフードのサービスで一番大事なことは、早さです。次に正確さです。その次はフレンドリーな笑顔かもしれません。一方、単価の高いテーブルサービスの店になると、丁寧さともてなしの心が第一義になります。そして、客単価が上がれば上がるほど、サーバーには料理や酒の深い知識が要求されます。

 サービスの質は千差万別ですが、重要なことは、我が店のサービスのスタンダードが明確であること。そして、そのスタンダードを守るための育成・訓練の手法と手順がしっかりできていることです。さらに、それらを実践するためのトレーナーが存在していることも大事です。今、生き残れるか否かの境目は、サービス力にあると言っても過言ではありません。店舗調理力はもちろん、サービス力をおろそかにしている店は、生き残ることはできないでしょう。

 もうひとつ、コロナ禍で重要度が一気に高まったのが、クレンリネスです。クレンリネスという概念はもともと、視覚的なものです。清掃が行き届いていて、スカッとしている状態を指す言葉ですが、これに加わったのが衛生です。衛生に気を配っている店なのかどうか、強く問われる時代になりました。世を挙げて、ハイジーン・コンシャス(衛生意識の先鋭化)の時代に入っています。ただ店が小ぎれいなだけでは、来店を促すことはできません。衛生に関して細心の注意が払われていること。そして、お店が衛生に関する具体的な取り組みを行っていて、設備の改善も進めていることに対して、お客は非常に神経質になっているのです。

 ここが“コロナ前”に比べて一番変わったところです。外食業への意識が激変したのです。要するに、衛生に対して強い警戒心を持つようなった、ということです。この警戒心をクリアできる店だけが、生きていける時代に入ったのです。

 ここでもう一度、重要なことを整理し直してみましょう。

・「店舗調理力」に支えられた、価値ある看板商品を持っていること
・業種、業態、“店格”に合ったサービスのスタンダードを持ち、それを実現するための優秀なトレーナーが存在すること
・クレンリネスの徹底。加えて、実践力を伴った強い衛生意識を持っていること

 こうして並べてみると、コロナ禍に負けない「生存の条件」は、基本的には平時と変わりません。しかし、平時の基本をやり通す店が激減し、脱落する店が増えているのですから、ある意味チャンスです。

 耐えに耐えて、我が店のQSCのスタンダードを守り抜く。これに徹してください。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。