2021/03/26 繁盛の黄金律

「from home」のお客が期待できる場所で、店を開こう

町の中心部から飲食店の撤退が目立っている今、今後注目したい立地は「郊外ロードサイド」や「駅前、駅の中、駅近」の2つです。その理由は「from home(家から)」の外食市場が、確実に大きくなるからです。

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Vol.115

中心部のお客はこれからも減る一方

 長引くコロナ禍で、町の中心部から飲食店の撤退が目立ちます。大手外食チェーンもどんどん店を閉めています。それに伴い、良い立地の物件が増えてきました。独立開店を目指す人にとってはチャンス到来です。しかし、エリアにもよりますが、リモートワークの普及もあって、中心部のお客は減る一方です。

 ビジネス客を当てにした商売は苦戦が続いています。「from office(オフィスから)」のお客は減る一方。これを頭に入れておかなければなりません。中心部では商売に向いたベストポイントがありますが、そういう物件は外食チェーンが確実に押さえていきます。また、郊外のショッピングセンターは鬼門です。通常の飲食テナントでもフードコートでも危険です。ショッピングセンターの集客力はこれからどんどん落ちていくと思います。お誘いがあっても、安易に腰を上げてはいけません。

では今後、どんな立地がいいのかと言うと、
①郊外ロードサイド
②駅前、駅の中、駅近

 この2つです。駅といってもこの場合、住宅地に近い駅です。繁華街などの大きな駅ではありません。“家に近い駅”です。今後、「from home(家から)」の外食市場が、確実に大きくなるはずです。郊外も同様です。ファミリーが回転寿司に行く。カップルで焼き肉に行く。いずれも「from home」です。

 ただし、郊外ロードサイドの集客は店のブランド力が大事ですから、チェーングループ向きの立地です。店の名前も売れていないのに、単身で斬り込んでいって、勝てる立地ではありません。また、郊外ロードサイドは、平地にゼロから店を建てることも多く、投資が大きくなり、資本の回収に時間がかかります。

 そうするとやはり、「駅」です。駅と住宅エリアをつなぐルートが有望で、そこが息長く商売を続けられる可能性の高い立地になります。

修業した腕を大衆商売で存分に生かそう

 独立開業で失敗する最大の理由は、「商売が間違っている」ことです。「その場所でその商売をやってはダメ」という状況です。これに尽きます。

 自分の料理の腕を過信し、間違った商売を選択してしまう人が多いのです。例えば、フレンチの有名シェフの下で5年修業したから、自分も同じ業種・業態を選ぶ。日本料理の腕の良い親方の下でみっちり研鑽を積んだから、同じ道に進む。寿司でもイタリアンでも同じです。修業した店の格にこだわったり、同じ客単価を取ろうとしたりする選択は、だいたい失敗が待っています。客単価の高い業態は、お客の数が少ないのです。フレンチでも高級日本料理でも、マーケットは一握りです。その一握りのお客を取るために、熾烈な戦いが繰り広げられているのです。そんな難しい市場に足を突っ込んで勝ち目がありますか。もしないのであれば、駅の近くで、地元の住民を相手にして、息の長い商売をした方が安全です。結果的に実入りも良くなります。

 フレンチの修業をしたからといって、何もフレンチにこだわることはありません。もっとお客の数が見込めるビストロにするとか、洋食屋にするとか、料理の充実したカフェにするとか、立地に合った商売を目指すべきです。日本料理の腕があるのならば、居酒屋、お酒の飲めるそば店や天ぷら店、とんかつ店、という道もあります。ちょっと価格の高い素材にこだわった定食屋もありですね。

 客層はほとんど自腹客(会社宛の領収書を切らない)ですから、低価格である必要はありませんが、リーズナブルでなければいけません。また、ファミリーが入りやすい店でなければなりません。さらに、商圏は限られていて、固定客が中心になりますから、飽きられない深い味、来店頻度が上がるメニュー構成(季節メニューも大事)、そして気軽に来店できる価格、この3つが実現されていなければなりません。

 中でも、特に「来店頻度」が大事です。このメニューだったら、1年間に何回使ってもらえるのか。これを自問自答しながら、主力メニューを決めなければなりません。そして、自店の商圏にライバルが何軒あるかを、きちっとリサーチしなければなりません。

 ライバルというと飲食店ばかりを考えがちですが、スーパーの総菜売り場、総菜や弁当に特化した路面店も、手ごわい競争相手です。彼らは、同じジャンルの商品を持っていますし、外食では考えられない価格で提供しています。彼らの持つ商品と戦って、勝てるだけの独自性を持てるかどうか、が勝負所となります。

 それからもうひとつ。町の年齢を考えなければなりません。高齢者の比率の高いエリアは、人口が多くても外食市場は大きくありません。そして開業後も人口は減り、胃袋は小さくなりますから、ますます市場は小さくなっていきます。

 若年層、特に若いカップルの多い町は、これから子どもが生まれる可能性もあり、人口増加が期待できます。ファミリーの数も増えます。こういう若い人が住むエリアを商圏に持った駅近には将来性があります。ただし、水を注すようですが、そういう立地はあまり多くはありません。大部分の町が高齢化に向かっています。そのことも頭に入れておかなければなりません。


株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。