2021/05/25 特集

好調!焼肉業態に見る これからの飲食業界 成功のキーワード(2ページ目)

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【キーワード4~6】客層&シーン・省人化&DX化・メニュー

【キーワード4】客層・シーンの変化への対応

宴会や接待などのグループユースから1人~少人数のパーソナルユースへ

 コロナ禍による客層や利用シーンの変化も焼肉業態には有利に働いた。二杉氏は「元々、焼肉業態の主な客層は、家族や友人などの小グループ。企業の宴会や接待で選ばれにくい半面、ファミリーの日常使いや記念日などで利用されてきました」と解説する。一方、居酒屋の客層は、ビジネス層が中心。仕事帰りに同僚との1杯といった、少人数の日常使いもあるが、忘年会や歓送迎会などオフィシャルな大人数での宴会の受け皿でもあった。そのため、企業の接待や宴会が軒並み自粛となったことで、一気に集客力がダウン。対照的に、焼肉業態の客層や利用シーンは、コロナの影響を受けにくかったことから、業態間で集客力に大きな格差が生まれる結果になったのだ。

 だが、こうした格差は、実はコロナ以前から徐々に始まっていた。「消費税率が10%に引き上げられた2019年10月、居酒屋業態の売上が前年同月比の水準を下回る一方、焼肉業態は100%以上と好調でした。この背景には、外食の利用動機が、すでにグループユースからパーソナルユースへとシフトし始めており、焼肉業態はこの傾向にいち早く反応し、市場をリードしてきたから」と指摘する。

 象徴的なのが、2018年に出店した1人焼肉業態「焼肉ライク」(株式会社ダイニングイノベーション)だ。各卓に1台ずつロースターを配置して〝1人で焼肉〞という新しい利用シーンの開拓に成功。個食が推奨されるコロナ禍により、さらに注目を集めることになった。また、居酒屋でも同様の傾向は見られた。「コロナ禍以前に、大きな宴会場を持たない少人数向けの大衆酒場『鳥貴族』(株式会社鳥貴族ホールディングス)や、『串カツ田中』(株式会社串カツ田中ホールディングス)が好調だったのも、パーソナルユースのニーズの高まりの表れ」(二杉氏)と言える。

 こうした流れを見れば、今後の飲食業界で、パーソナルユースの重要度はますます上がるはず。二杉氏は「少人数の日常使いをいかに獲得するかという視点が大切になる」と断言。お1人様やプライベートの少人数グループが気軽に楽しめるサービスや業態開発が必要不可欠になりそうだ。

【キーワード5】省人化&DX化

セルフレジや運搬ロボットなど、人手不足対策はさらに重要に

 省人化とDX(デジタルトランスフォーメーション=IT技術やデジタル技術の活用によって製品・サービスやビジネスモデルを変革していくこと)化も、好調な焼肉店に共通する特徴の一つ。「焼肉業態は、メインの調理である〝肉を焼く〞という工程をお客様がやってくれるので、厨房も含めて省人化がしやすい業態」と二杉氏。大手焼肉チェーンの多くがタッチパネルのオーダーシステムを導入するほか、「焼肉の和民」(ワタミ株式会社)は料理提供用の特急レーンや運搬ロボットで省人化を進めている。また、「0秒レモンサワー仙台ホルモン焼肉酒場ときわ亭」(GOSSO株式会社)は、全卓にセルフ式のレモンサワーサーバーを設置し、省人化と来店客のオーダーストレスの解消を実現した。ほかにも、スマートフォンによるモバイルオーダーや、ウエイティングの自動案内、セルフレジなどの導入も、焼肉業態に見られる傾向だ。

 二杉氏は「生産性を上げて収益率を最大化することは、飲食企業にとって不可欠な命題となっており、そのために省人化などを推進する企業が増えるのは自然な流れ」と強調する。しかも、以前であれば「省人化=サービスの質が下がる」と受け取られかねなかったが、今は省人化による非接触サービスをポジティブな要素として捉える消費者が増加。加えて、提供スピードのアップなどのメリットもあり、「今後、コロナ禍が落ち着き、経済活動が活発になれば、人材採用が難しくなり、飲食業界がさらなる人手不足に陥る可能性も高い。そうした将来も見越して、今こそ省人化などに本腰を入れるチャンス」と、二杉氏は呼び掛ける。

 もちろん、業態や店の規模によって取り組める範囲に差があるのは当然。例えば、高齢者の来店が多い店で一気にDX化を進めれば、客離れを引き起こす原因にもなりかねない。自店の現状に合った対応が必要だが、「それも過渡期特有の現象」と二杉氏。「消費者への浸透が進めば、オペレーションコストは一気に下がり、新たな収益構造が見えてくるはず。まずは、可能な部分だけでも取り組んでいただきたい」とアドバイスする。一方で、人がやることで外食の価値を感じてもらえる部分があることも事実。省人化などで収益性を高めつつ、どこに人材を配置し、どんな価値を生み出すのかを追求していくことも重要になるだろう。

【キーワード6】メニューのコストパフォーマンス

お得感は依然強い引きに。SNS映えなど、視覚的な訴求も効果的

 好立地に店を構え、客層・利用シーンの変化に対応したとしても、来店客の満足度が低ければ再来店の可能性は下がってしまう。飲食店にとって常に問われるのが、〝料理やサービスで、いかに価値を感じてもらうか〞だ。「今は外食の機会が減っているため、コストパフォーマンスの良さやエンタメ性、希少性などがないと選ばれにくくなっている」と二杉氏。この点においても、焼肉店はメニュー開発に力を入れてきた。

 例えば、「焼肉きんぐ」(株式会社物語コーポレーション)は、ランチで焼肉とソフトドリンク食べ飲み放題(100分、2178円)を提供。幼児は無料、小学生は半額、60歳以上は300円引きにして3世代の心を捉えた。また、「焼肉ライク」は肉の部位や量を選べる1人用のセットメニューで1人客のニーズをキャッチ。「0秒レモンサワー仙台ホルモン焼肉酒場ときわ亭」は、レモンサワーのセルフサーバーを各テーブルに設置して外食の楽しさを感じてもらい、ファンを獲得した。さらに、「かみむら牧場」(ワタミ株式会社)は、鹿児島県の和牛生産者・カミチクグループとタッグを組み、上質な和牛の安定的な供給と、高いコストパフォーマンスを実現した。

 こうした取り組みは、簡単に真似できるものばかりではない。しかし、外食の頻度が少なく、消費者の財布のひもが固い今、「お得感を感じてもらうために、原価をかけるべきメニューには、しっかりかける」(二杉氏)といった工夫が必要だ。二杉氏は「今は家賃交渉がしやすく、省人化などを進めれば生産性の向上も見込めます。これまでのやり方に捉われずに、食材に原価をかけた上で利益もしっかり出る収益構造を構築することは可能」と語る。もちろん、低価格だけに価値があるわけではない。安価な居酒屋でも高級店でも、いかに期待値を上回る料理やサービスを提供するかという戦略が重要だ。

 また、焼肉店で記念日の肉ケーキや階段盛りなどを出す店は増えており、「若い層を中心に、依然としてSNS映えに代表される〝視覚的にわかりやすい価値〞も重要」と二杉氏。いずれにしても、さまざまな角度から来店客に外食の価値や楽しさを感じてもらう工夫が求められているといえる。

二杉氏が考える「これからの飲食業界に求められるもの」とは?

テイクアウトや“二毛作”など、変化に対応できる業態開発を!

 今、飲食業界では、他業態から焼肉業態への転換が増えています。成長市場に参入することは“時流適応”の一つ。有効なアクションではありますが、焼肉業態は調理工程がシンプルで参入障壁が低いので、競合店が一気に増加するかもしれません。参入者が増えると、衛生管理のレベルが低い店も現れ、食中毒などの問題が発生したときに焼肉業態全体のイメージダウンにつながる可能性もあります。安易な業態替えではなく、売りをしっかり作り、収益性の高い経営基盤を確立して地域の一番店になる戦略が必要。そうでなければ、自粛などで「7割経済」と呼ばれている今の市場では生き残っていけません。

 この1年、飲食業界は一つの事業だけに注力する危うさを、嫌というほど思い知りました。店内営業だけでなく、さまざまな販売チャネルを持つなど、事業全体を見直すことが大切です。そこで、私たちが提案している業態が、住宅地での“二毛作”です。ポイントは、昼は食堂とテイクアウト、夜は大衆酒場という2つの顔を持っていることです。この業態のいいところは、店内飲食に制限がかかると、自然と売上の軸がテイクアウトにシフトし、逆に経済が動き出すと、テイクアウトが減る代わりに店内飲食が増えていくという点。状況に応じて、商圏に住む人々の日常的な食事ニーズを、昼も夜も取り込むのが狙いです。また、物販やネット通販に参入するのもおすすめ。現在は、こうした事業再構築には国から補助金も出るので、新しい事業を始めやすい状況です。

 加えて、これからは、スマートフォンが販促における中心的なデバイスになっていくはず。販促のみならず、オーダー、決済、顧客管理、情報発信などを一元化していく流れになるでしょう。LINEをはじめ、その種のアプリの開発は進んでいますから、導入を検討するのも一案です。

 コロナの収束について、まだ出口は見えません。今は守りを固め、キャッシュフローを管理するとともに、スタッフの雇用を守ることが大切。一方で、現在は、数年来のチャンスともいえます。いい物件が空き、人材採用もしやすい。補助金などの支援も、平時では考えられないような条件で受けられます。目の前の危機だけに目を向けず、10年後の未来を明るくするために、前に進んでいただきたいです(二杉氏)。

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