2021/05/24 挑戦者たち

株式会社SMILE SOL 代表取締役 小川 宏 氏

北海道・札幌で居酒屋業態を中心に展開する株式会社 SMILE SOL。2020年度以降も新規出店をコンスタントに重ね、“筋肉質な経営”により、今般の難局の突破を図る。中長期的な展望も含め、代表の小川宏氏に聞いた。

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お客様を笑顔にする接客力こそ、最大の強みだと再確認しました

――高校を卒業後、調理士専門学校に進んだきっかけは何ですか?

 実は料理人を目指していたわけではなく、なりたかったのはプロのスノーボーダー。調理師免許があれば、スキー場近くのホテルなどで働きながら練習に打ち込める、という発想で選択しました。実際に専門学校を出た後、ニュージーランドに渡り、スノーボードに明け暮れたのですが、3カ月で見切りをつけて帰国。以降はスノーボードショップやアパレル販売などさまざまな仕事を経験し、25歳のとき、札幌で居酒屋を展開する飲食企業に社員として入りました。

 初めて身を置く飲食の現場は大変でしたが、今までの仕事にはない楽しさも実感しました。それまでは個人の売上目標を追求してきたのですが、飲食業では誰か一人が頑張るだけでは店の売上増や顧客獲得にはつながらず、常にチームとして結果を出すことが求められます。その難しさとやりがいを知りました。特に管理職になってからは、自分の働きかけで店の雰囲気が良くなったり、スタッフの成長を後押しできたりする場面が増え、仕事がさらに面白くなりました。そして入社から2年後、店長を務めていた店舗を譲り受けて独立。スタッフもそのまま引き継いで雇用でき、恵まれたスタートだったと思います。その店が「粋な北海道酒場あいよススキノ店」で、続けて「あいよ」をもう2店舗買い取り、現在もFCとして運営しています。

――その後に出店した串揚げ業態が初のオリジナル店舗ですね。

 2015年オープンの「大衆串横丁てっちゃん都通店」です。物件選びで重視したのは、店全体に目が行き届く30坪程度の路面立地であること。また、コンセプトとして週3日の頻度で気軽に使ってもらえるよう大衆感を打ち出し、客単価は2500円に設定しました。この背景には、「てっちゃん」を出す前に400席の大箱を共同経営で出店し、失敗した苦い経験があります。自分たちが目指すワイワイにぎやかな店づくりや、きめ細かな接客サービスを実現するには、大箱の店は向かないということがはっきり分かりました。こうした立地や客単価の設定は、その後に出店した「大衆酒場さぶろう」も含め、現在まで居酒屋業態の全店舗で貫いているポイントです。

 接客サービスの方針として、スタッフ全員が明るく元気な接客を行うことはもちろん、お客様とのプラスαのコミュニケーションを意識しています。例えば料理を提供する際、食材や味の特徴についてなど、必ずひと言添えるようにし、それがきちんと実施できているか定期的にチェックも行います。実はここ数年、店舗拡大に伴うオペレーション効率化の中で、会社としてこうしたひと手間のコミュニケーションを省く方向に進んでいました。ですが今回のコロナ禍で、明るく元気で細やかな接客力こそが、自分たちの最大の強みであることに改めて気付きました。接客レベルが高く、リピーターが多い店ほど、客足の戻りが早かったからです。そのため、お客様と直接関わる部分は省力化せず、むしろブラッシュアップしていく考えです。

Hiroshi Ogawa 1980年、北海道生まれ。札幌市内の調理師専門学校を卒業し、さまざま な仕事を経験した後、25 歳で飲食業界へ。店長を務めていた居酒屋を譲り受ける形で独立し、2010 年に会社を設立。現在、札幌市中心部で居酒屋、ラーメン、スイーツなど多様な業態の15 店舗を経営する。

――昨年、今年と出店を重ねていますが、その経緯や戦略を教えてください。

 昨年12月にオープンした「札幌タンメンMEN-EIJI」は、札幌の有名ラーメン店とFC契約を結んでの出店です。昼メインの業態を自社に加えて、人材獲得を進めやすくする狙いもあります。また、コロナ禍で高まったテイクアウト需要に応えるため、薄皮焼き芋あんぱん専門店「夜の鶴、月の芋。」、ショコラテリーヌ専門店「鶴亀」など、スイーツにも参入しました。 こうした昼業態やスイーツについては、ノウハウがほとんどなかったため、開発に当たってはほかの飲食企業とも積極的にコラボしています。お互いが得意な部分を補い合い連携することも、飲食業界がこの難局を乗り切る上で大切だと思います。さらに昨年は、すすきのの一等立地の物件を契約できたので、10月に大衆酒場「NEON COLOR【ネオンカラー】」を出店しました。装飾や照明も含め、居心地の良さを徹底的に追求した空間づくりを行っています。

 直近では今年4月、札幌・円山の商業施設「マルヤマクラス」に「鶴亀」など3店舗をオープンしましたが、これ以降は新規出店にはひと区切りをつけ、既存店の売上アップに専念する考えです。コロナ以前に回復するにはあと2~3年はかかると見ています。それまでは売上ではなく利益目標に基づき、そこから逆算してコストをコントロールする必要があり、筋肉質な経営に向けた財務に注力します。

――店舗の数や業態が増える中で、人材育成や評価についての方針は?

 業態を問わず、店長や従業員に求めるのは、いかにしてお客様を喜ばせられるかを考え、行動すること。社名にスマイルが入っているように、会社のモットーは「笑顔と元気、ノリと愛嬌!」。全てはお客様に元気と感動を提供するためで、来店いただく一人一人を喜ばせることだけが自分たちのプライドです。この基本姿勢を徹底しようと、「お客様を喜ばせること」を店舗のKPI(重要業績評価指標)に設定しています。具体的には、おすすめメニューの注文数やLINE公式アカウントの登録数、覆面調査の結果などを指標として点数化し、評価に反映します。一方で、売上を店長の評価に結び付けることはしません。立地や業態で左右される要素によって評価が決まるのは、フェアではないと考えるからです。

 スタッフの育成に関しても、会社として接客の基本方針やマニュアルは用意していますが、それを現場にどう落とし込むかは店長に任せています。以前はその点も厳密に管理していましたが、それではかえって個々人の良さや持ち味が出にくいと気付きました。お客様を喜ばせるというゴールは明確なので、その方法については、お客様の反応や状況を見て、現場が柔軟に変えることも大切だと思います。

5年前に趣味のサーフィンでハワイを訪れた際の写真。会社の理念同様、常に楽しみ、笑顔でいることを心がけている

――既存店を磨き込んだ先の、中長期的な展望を教えてください。

 「大衆串横丁てっちゃん」「大衆酒場さぶろう」の両業態をさらにブラッシュアップして、FC展開につなげることが目標です。加えて、「てっちゃん」の串揚げで、スーパーなどの中食にも参入したいと考えています。

 今後も追求していきたいのは、コロナ禍であっても、収束後の日常においても、変わらず支持されるような魅力ある店づくりを続けること。中でも主軸の居酒屋への思い入れは強いですね。お酒を片手に、普段は口にしづらい話で盛り上がったり、職場のストレスを発散したりして、また明日から頑張るエネルギーを得て帰る。そうした居酒屋の文化は、やはり世の中になくてはならないものであり、その一端を担えることに喜びを感じます。

 BGMがなくても、お客様のにぎやかな笑い声や乾杯の音でいつも活気あふれる場をこれからも提供し続け、飲食を通じてより多くの人を笑顔にしたい。その思いが原動力です。

Company Data

会社名
株式会社SMILE SOL

所在地
北海道札幌市中央区南4条西1丁目15番2 栗林ビル402号

Company History

2008年 開店時から携わる「粋な北海道酒場 あいよ すすきの店」を譲り受け独立。その後、「あいよ 北6条店」「あいよ 大通店」も買い取り運営
2010年 株式会社 SMILE SOL設立
2015年 「大衆串横丁 てっちゃん 都通店」オープン、「大衆酒場さぶろう」オープン
2018年 「夜の鶴、月の芋。」オープン
2020年 「NEON COLOR【ネオンカラー】」、「札幌タンメン MEN-EIJI」オープン
2021年 商業施設マルヤマクラス内に「大衆串横丁てっちゃん 円山横丁」など、3店舗オープン

大衆酒場 さぶろう(北海道・札幌)
https://r.gnavi.co.jp/kvxajjvy0000/
寿司、刺し身、焼き鳥などをリーズナブルに提供。北海道産の地酒も提供し、活気ある開放的な雰囲気で多くのリピーターを獲得する。
大衆串横丁 てっちゃん 時計台通り前店(北海道・札幌)

串揚げの衣は卵を使用せず、長イモと牛乳でヘルシーに仕上げている。甘みと酸味のバランスが絶妙なオリジナルソースも人気。