2021/06/22 特集

今こそ、攻めの戦略 新規出店、業態開発、事業多角化ー。ピンチをチャンスに変える!

いまだ出口の見えないコロナ禍にあっても、ニーズの変化に合わせて、業態の開発や事業の多角化、店舗展開などに積極的に取り組んでいる企業がある。その取り組みの狙いや効果、新時代のビジネスモデルなどに迫る。

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不動産オーナーと共同で、新しい収益構造の業態に挑戦!

BIRTH DINING by plein 【東京・麻布十番】

独立を志す若手シェフに経営を任せるスタイル

 2017年9月、東京・表参道に週休2日の「Bistro plein」を出店し、繁盛店に成長させた株式会社PLEIN(プラン)。その後も店舗展開をしつつ、食を通した他業界とのアライアンス(提携)事業にも注力する中、昨年は新型コロナによる集客減に直面。代表取締役の中尾太一氏は「それまで作った企画書の多くを破り捨て、戦略を練り直しました」と語る。

 コロナ禍でも収益が上がる業態として打ち出したのが、「michiru(ミチル) by plein UEHARA」(2020年7月オープン、東京・代々木上原)だ。「この店はいわば実験店」と中尾氏。すでにEC用の商品とし開発していたスパイシーカレー、キッシュ、シャルキュトリーを活用し、ランチでスパイシーカレーを提供し、テイクアウトとデリバリーも手掛けるほか、店頭で物販も実施。「トライ&エラーを繰り返し、コロナ禍での〝勝ちパターン〞を探りました」と語る。さらに、今年3月には客単価5000円のアフタヌーンティー専門店「Atelier(アトリエ) plein EBISU」(東京・恵比寿)を出店。昼営業&ノンアルコールながらアッパー層を集客できる高級業態で、新たな道を拓いている。

新業態を積極的に出店

●「michiru by plein UEHARA」(2020 年7月オープン)
東京・代々木上原駅の近くに、コロナ禍でも収益の上がる業態研究を目的として出店。「農家のスパイスカレー」(1,000円)などを売りに近隣住民を集客。テイクアウトや物販にも力を入れている
●「Atelier plein EBISU」(2021年3月オープン)
東京・恵比寿の住宅街にオープンしたアフタヌーンティー専門店。スイーツやセイボリー(軽食)をティースタンドに飾り、アフタヌーンティーとともに5,000円で提供し、アッパー層を獲得している

 そして、次なる一手が、複合型レジデンス「BIRTH IN-RESIDENCE 麻布十番」の1階にあったレンタルキッチンスペースを活用して今年4月にオープンした「BIRTH DINING by plein」(東京・麻布十番)だ。この店の特徴の一つが、ビルオーナーと共同で出店したこと。「コロナ禍で不動産業と飲食業は、貸主と借主の関係から家賃交渉の面で対立しやすく、その解決法を考えていました」と中尾氏。そんな折、中尾氏は旧知の仲だった株式会社髙木ビルの代表取締役社長・髙木秀邦氏から、同ビルのキッチンスペースの利用頻度が少ないことを聞き、飲食店として活用すれば、マンションの利便性や価値が上がることを伝えた。これに髙木氏が賛同し、髙木ビルがハード面(物件や設備)を、PLEINがソフト面(食材や人材)に関する出資を担当し、家賃も売上に応じて変動する仕組みにした。これにより、外出自粛などで店の売上が落ちれば家賃も比例して下がり、人気店に成長すればビル側が想定した以上の賃料収入を得られる枠組みを構築した。

ビルオーナーとタッグを組み、家賃変動制などを実現

  • 「住むオフィス」×「働く住まい」がコンセプトの「BIRTH IN-RESIDENCE 麻布十番」。その1階のレンタルキッチンスペースを活用して出店
  • 中尾氏と共同で「BIRTH DINING by plein」を出店した株式会社髙木ビルの代表取締役社長・髙木秀邦氏

 そして、もう一つの特徴が、独立を目指す若手シェフに学びと活躍の場を与えていることだ。コロナ禍で独立するシェフが減っていることを憂慮した中尾氏。「独立半歩前プロジェクト」と銘打ち、店のシェフに29歳の竹内誉弥氏を起用した。昼は「michiru」と同じスパイシーカレー専門店、夜は竹内氏が手掛ける創作イタリアンを提供する〝ネオ食堂〞という二毛作に。PLEINと竹内氏は2年の専属契約(更新あり)を交わして、メニューやドリンクの内容、食材調達、販促、収支管理など、店舗の経営は竹内氏に一任しており、売上の一部をPLEINに支払う仕組み。PLEINの系列店からスタッフを派遣したり、PLEINの持つブランド力を生かせるなど、資金面や集客面での支援を受けながら、経営を実地で学べる構造になっている。

若手シェフに機会創出する「独立半歩前プロジェクト」

  • PLEINが専属契約を交わしたシェフに物件や設備、人材を支援する一方で、経営は任せるスタイル。独立を目指す若手に活躍の場を与え、業界を盛り上げるのが狙い
  • 「前菜10 種盛り合わせ」(写真1,100 円)など、ディナーは竹内氏が手掛けるイタリアンベースの創作料理を提供している
「BIRTH DINING by plein」シェフ・竹内誉弥(よしや)氏が語る「独立半歩前プロジェクト」のメリット
「中尾さんは、調理師学校の同期。卒業後、私は複数の店舗で修業しながら、そろそろ独立をしたいと考えていたのですが、コロナ禍で二の足を踏んでいました。そんなときに、株式会社PLEIN が打ち出したプロジェクトを知り、応募しました。出店における物件や設備、人材に関わる準備資金がほとんど必要ないことが最大の魅力。加えて家賃が売上に連動するのでリスクも低く抑えられます。また、料理はもちろん、食材の仕入れなども自由に行えるので経営についても学べるのがメリットです」

 オープン後は、ほぼ毎日来店するマンションの入居者も多く、近隣住民の中には週4日通う常連もいる。テイクアウトやデリバリーも順調で、この店が気に入り入居を希望する人が増加するなどビル側にもメリットが生まれている。またシェフの竹内氏にとっては、外出自粛で売上が下がっても、家賃が変動制であることから負担が軽く、堅実な運営が実現できている。

 中尾氏は今回の店舗をモデルケースに、不動産を含むさまざまな業界とのアライアンス事業を進める考えで、「若手シェフたちが活躍できる場を増やしたい」と意欲に燃えている。

BIRTH DINING by plein 【東京・麻布十番】
東京都港区三田1-2-20 BIRTH IN-RESIDENCE 麻布十番1F
東京・麻布十番駅近くにある、コワーキング機能を備えたマンション「BIRTH IN-RESIDENCE 麻布十番」1 階に、2021 年4 月オープン。店内はスタイリッシュな空間で、コンセプトは“ ネオ食堂”。
株式会社PLEIN 代表取締役 中尾 太一氏
調理師学校でフレンチを学び、株式会社星野リゾートなどを経て、2017 年に「Bistro pleinOMOTESANDO」で独立。他業界と飲食業をつなぐアライアンス事業にも力を入れる。

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