株式会社エイムカンパニー 代表取締役 佐藤 慎吾 氏

北海道・帯広で、十勝を中心に道内の食材を活用したさまざまな業態を展開している株式会社エイムカンパニー。トレンドにアンテナを張りつつ、人材育成にも力を注ぐ代表取締役の佐藤慎吾氏に話を聞いた。

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帯広でのドミナント経営と、状況に合った“選択”と“集中”で成長していきたい

――飲食業に入るきっかけを教えてください。

 高校2年生の時にバブルが崩壊して、その余波で事業が立ち行かなくなった父親が失踪。周囲が進学する中、家族を支えるために就職することに。地元である北海道・帯広で設計事務所、住設機器メーカーなどで勤めましたが、どこも長続きしませんでした。そんな折、先輩から経営しているバーで働かないかと言われ、飲食の道へ。そこで、接客の楽しさを知り、自分に合っていると感じたんです。

 その後、別の飲食店でも働き、23歳の時にパブ「ジェイルハウス」で独立。10人も入ればいっぱいになる小さな店で、当初から経営は順調でした。さらに、26歳の時には女性を連れていきたくなる品の良い割烹居酒屋を目指し、約16坪の「和鮮食場一心」をオープン。この店が「一心」という当社のブランドの始まりですが、現在のような「十勝の魅力を世界へ発信する」といった明確な理念があったわけではありませんでした。

1976年北海道帯広市生まれ。高校卒業後、地元企業に勤務した後、飲食の世界へ。23歳で独立し、メンズパブを開業。2007年に株式会社エイムカンパニーを設立し、「一心」ブランドの居酒屋など多様な業態でドミナント戦略を展開し、2019年には札幌に進出。高級食パン専門店など新たな業態にもチャレンジしている。

――いつごろから現在の理念が生まれていったのでしょうか。

 飲食業の先輩のアドバイスで地元である十勝産の食材を使い始めてから、「和鮮食場一心」の業績が徐々に伸びていったんです。当初、月の売上は250万円ほどでしたが、最終的に900万円を売り上げる人気店になりました(2019年に諸事情で閉店)。生産者との交流の中で農家さんの情熱や考え方に刺激を受け、「こういう方々と地元で一緒にやってきたい」と思うようにもなり、道内の生産者さんを訪ねて、いい食材を探すようになりました。

 地元の農家さんを紹介してくれた先輩には、帯広で開催された「居酒屋甲子園」にも誘っていただき、そこで従業員教育の大切さを実感しました。地元の食材のすばらしさや「居酒屋甲子園」を知ったのが10年ほど前。私にとって経営者としてのターニングポイントだったといえます。

女性を連れていきやすい割烹居酒屋として2002年にオープンした「和鮮食場一心」。先輩のアドバイスで地元の食材を前面に打ち出したことで人気店に成長した

――会社設立が2008年。その前後から、毎年のように出店を続けていますね。

 朝まで営業している飲食店を作りたいと、2007年にオープンした「ラーメン拾丁目食堂」を皮切りに、「ふらり寿司蝦夷の漁」「居酒屋ぼーの帯広店」「だしタコ たこ焼 とろたこ屋」など、さまざまな業態を帯広で展開してきました。帯広という決して大きくない商圏でドミナントを進めながら、カニバリゼーション(共食い)を起こさせない戦略です。

 どの店舗にも共通しているのは、十勝をはじめ、北海道の食材を積極的に使っていること。2016年には「十勝北海道生産者直送 宴の一心」という居酒屋で、農家の方々が定期的に店内で自分たちの野菜の特徴やこだわりを伝える企画を実施。この店を出店するにあたり、クラウドファンディングを実施し、その資金で大型モニターなどを設置、食材を紹介する映像などを流しています。また、2019年には、初めて札幌にも進出。現在、札幌市内で「大衆食堂十勝居酒屋 一心」のほか、立ち飲み業態など4店舗を運営しています。

――順調に店舗を展開する中で、コロナ禍が発生しました。

 通常営業ができない状況に危機感を覚え、2020年5月に各店舗でテイクアウトをスタート。加えて、地元のタクシー会社と連携した「ジモタク」という宅配サービスも開始しました。タクシー業界も厳しい状況だったので、相乗効果でWin-Winの関係が築けると考えたんです。専用のアプリを開発し、セントラルキッチンを活用してゴーストレストラン8店舗を運営しています。

 また、9月には北海道産小麦を使った高級食パン専門店「大地はドラムと優しい麦」をオープン。インパクトのある店名も評判となり、売上が伸び続けています。2021年5月には、この高級食パンを使ったフルーツサンド店「大地はドラムと楽園の果実」も立ち上げ、好調です。

  • 2020年9月、帯広にオープンした高級食パン専門店「大地はドラムと優しい麦」。北海道産の小麦粉やバター、牛乳などを使用した食パンなどを販売し人気店に成長
  • 2021年5月に帯広にオープンした「大地はドラムと楽園の果実」。高級食パンと新鮮フルーツをたっぷり使用したフルーツサンド専門店として早くも話題に

――人材育成にも力を入れていますね。

 「居酒屋甲子園」に出合う前は、「人は辞めたら補充すればいい」というような考え方でした。しかし、それでは会社を長く安定的に運営していくことはできませんし、何より私自身の中で「これでいいのか?」という思いは常にありました。現在は、「居酒屋甲子園」やさまざまな経営塾に参加して学んだノウハウを基に、スタッフには接客など営業にかかわる研修を定期的に実施。一人ひとりの夢や目標を軸に指導やアドバイスを行うなど、メンタル面でもサポートするよう取り組んでいます。教育という部分では、スタッフとともに農家さんで収穫を体験し、食材の大切さを学ぶ機会や、上質な接客に触れるため、誕生月のスタッフをハイクラスな店に連れて行くという取り組みもしています。

 また、以前から児童養護施設で子どもたちにさまざまな職業を体験してもらう取り組みを主催しているのですが、飲食業の先生として社員にも参加してもらい、子どもたちと触れ合ってもらっています。飲食業の仕事内容や魅力などについて、子どもにわかりやすく伝えることは決して簡単ではありません。毎回、「うまく伝えられた要因は何か」「うまくいかなかった理由は何か」と成果や課題を実感し、それが接客の質の向上や、会社としての組織力・チーム力の向上にもつながっています。そのほか、1年以上の店長経験者に対して独立を支援する制度も設け、これまでに5人の社員が独立の夢をかなえました。独立後もグループとしてのサポート体制を整えており、相互にメリットがあると感じています。

帯広を中心に、畜産や農業などの生産者のもとを訪れて生産現場を体験する企画を定期的に開催。スタッフにとって、生産者の思いやこだわりをインプットすることが、接客時のトークなどのアウトプットにつながっている

――現在19店舗を展開していますが、今後の目標は?

 これまでは20店舗・10億円という目標を掲げてきました。店舗数の達成は目の前ですが、コロナ禍を通して考え方が変わってきました。店舗数や全体の売上規模ばかりを追うのではなく、店ごとに、いかに利益を出せる体質を強化するかということです。具体的に注目しているのが「二毛作業態」で、ランチは海老ラーメン専門店、夜は中華料理店という業態開発に着手しています。新たな投資をせず、ランチである程度の売上を確保できる仕組み・業態を作ることが狙い。将来的には、海老ラーメン専門店はFC化し、ランチ営業をしていない飲食店にFCとして導入してもらうというビジネスモデルも描いています。今年の下半期は、カフェを業態変更して食べ放題の焼肉店にする予定。加えて、高級食パンを使った総菜パンを売るベーカリーカフェの出店も計画中です。

 また、新規出店した高級食パンやフルーツサンドの専門店に手応えを感じているので、キッチンカーなどでの移動販売も始めたいと考えています。そのほか、以前から行っていた通販事業では定額制でさまざまな惣菜パンを販売するサブスクサービスの準備も進めています。興味を持ったことは取り組み、検証していくのが私のやり方。遠方から働きに来る社員の住まいを確保するため不動産業を始めたり、人手不足に備えて人材紹介業も行っていますが、すべての中心にあるのは飲食業。飲食を通じて生産者や消費者に喜んでもらい、かつ自分たちも成長するために、コロナ禍において何を選択し、何に集中すべきかを常に考え、実行していきたいです。

リーダー×一問一答

■経営者として一番大切にしていること
スタッフとの関わりを大切にしています。月に1度の面談やアルバイトも含めた研修など「人」があっての飲食企業であると考えています。また、情報収集も大切にしています。コロナ禍でさまざまな業界が変化しています。さまざまな業界の情報を集め、飲食業に生かせることは最速で取り組み実行する事を大切にしています。

■愛読の雑誌や書籍、Webサイト
飲食業に関するWebサイトをチェックするほか、Instagramでトレンドや商品開発、業態開発などについてキーワード検索をしています。

■日課、習慣
朝一で冷たい風呂に入ってからメールチェックをしています。

■今一番興味があること
飲食業におけるトレンドや動向、非接触や無人の業態。

■座右の銘
一石二鳥

■尊敬している人
西山知義氏(株式会社ダイニングイノベーション代表取締役会長)

■最近、注目している店舗・業態
「BLUESTARBURGER(ブルースターバーガー)」
非接触の業態であり、イートイン、デリバリー、テイクアウトの営業が可能で、低価格で商品クオリティーも高いと感じている。
「挽肉と米」
脱アルコール業態で、見せ方や商品提供の仕方などが素晴らしいと感じている。

■COMPANY DATA
株式会社エイムカンパニー
北海道帯広市大通南9丁目10番地1 Aim Bld.2F
https://www.aimcompany.info/
設立:2007年
ブランド・店舗数:7業態・14店舗
従業員数:約140人(社員56人)