2021/09/24 繁盛の黄金律

店舗調理は外食業の命。鍛え上げれば生き残れる

コロナ禍でも強いチェーン店は、店内での調理を重視しています。個人店も店舗調理を大切にしつつ、調理技術の均一化などに注力することで、より足腰の強い店を作ることができます。

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Vol.121

店舗調理を重視しているチェーンは、堅調を保っている

 コロナ禍でも強い外食チェーンというと、ファストフードではKFC、ファミリーレストランではロイヤルホスト、ラーメンでは山岡家や丸源、中華では餃子の王将、ハンバーグではフライングガーデンの名が挙がります。

 これらのチェーンに共通していることは、何でしょうか? サービスのレベルが上がっている。それは確かに共通していますね。でも、もっと大事な共通点があります。それは、店舗調理力を重視している点です。

 チェーングループは面倒くさいことを嫌がりますから、真っ先に店舗調理を簡略化して、キッチンのオペレーションをシンプルにしようとします。店舗調理は店ごとにバラつきが出る原因にもなりますから、商品の均質性を重視するチェーンでは、どうしても外部化しようとする力が働きます。また、店舗調理を全て店で抱えていると、生産性が上がらず、利益が出しづらくなります。先の好調チェーンでも、何から何まで店の調理でやろうとしているわけではありません。集中化、外部化を進めながらも、「この部分は肝だよな」と思われる調理を、店に残しています。

 「肝」の部分は、この調理を外すと、決定的な競争力を失ってしまう部分です。例えばKFCのチキン。毎日全店でスタッフが粉まみれになってチキンの粉づけをやっています。その手順は厳密に決められていて、完璧なマイスターになるには相当の修業を要します。ロイヤルホストには、全店にレベルの高い料理長がいますし、餃子の王将にも本部の調理道場で鍛えられた調理技術者がいます。山岡家でもスープは、毎朝各店で、店長か技術を持った調理人が作ります。

 店で作って、即お客様に提供するのが、外食業の本来の姿ですから、これらのチェーンは外食として当然のことをやっているのに過ぎないのですが、その当たり前のことをやめてしまっている外食チェーンが多すぎるのですね。

 フライドチキンやからあげは、スーパーの総菜売り場でもコンビニでも、どこでも手に入ります。外食からの参入も増える一方です。それでもKFCが断トツに強いのは、肝になる店舗調理を捨てていないからです。そして、スキルの磨き上げをやり続けている。その結果、KFCでしか食べられないフライドチキンを持ち続けていられるのです。外食が外食として強くあり続けるためには、「肝」の店舗調理を手放さないこと。これが必須条件になります。

肝の部分に高い技術が掛けられている店は、生き残る

 そう考えると、これから強くなるのは、高い調理技術を持った個人店だということになります。しかし、個人店の調理技術にも欠点があります。その1つは、何でもかんでも店でやってしまうことです。それでは労働環境は良くなりませんし、第一生産性が上がりません。儲かりません。

 大事なことは、お客様に提供するメニューの品質なのですから、品質を左右しない調理は外部化したり、集中化したりして、店でやる調理の領域を限定しなければなりません。こう言うと、「セントラルキッチンが必要なのか」と言われそうですが、営業時間前に店で仕込みを集中的に行うことも、1つの外部化なのです。

 もっとも、刺身を全部切っておくとか、サラダを事前に作ってしまうとかは、メニューの品質を大幅に下げることになりますから、やってはいけないのは当然です。やってはいけない仕込みはあるのです。

 もう1つ、均質ということに無頓着な個人店が多すぎます。技を持つ人と持たない人とでは、出来上がりに天と地の開きが出るのは当然ですが、未熟な技術者(新米)への技術指導が体系的でありません。場当たり的なのです。それが定着率の悪さにつながり、技術の獲得に時間がかかり、いつまで経ってもメニューの均質化が達成されないことになります。

 調理範囲の限定、仕込みの手順化、調理技術の体系的な教育・訓練、これに注力するだけでも、あなたの店の売れ筋メニューの価値は驚くほど上がります。劣悪なキッチン環境をそのままにして、気まぐれの調理指導を続けていたのでは、あなたの店の評判は落ちる一方です。

 お客様は、今はテイクアウトや宅配に流れていますが、実はイートインで出来立ての料理を、良いサービスを受けて食べたくてうずうずしているのです。コロナが終わったら一斉に出来立ての料理を求めて、飲食店に足を運ぶことでしょう。では、どの飲食店も等し並みに息を吹き返すのか。とんでもありません。外食でなければ食べられない質の高い料理を出している店にだけ、お客様は足を運ぶのです。コロナ後は、選別の眼はとても厳しくなります。

 自店の料理が厳しい選別の眼にかなうレベルに到達しているのかどうか。その検証が今こそ大事になってきています。調理の肝の部分に、高い技が掛けられている店は、必ず生き残ります。スーパーやコンビニの商品とどんぐりの背比べをやっているような店には、将来はありません。外食ならではのメニューを出せている店だけが、生き延びられるのです。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

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