2021/10/05 繁盛の法則

故郷で慣れ親しんだ味をベースに独自のメニューで勝負するうどん店とは

東京・新大塚駅近くにある「まがり」は、福岡の「筑後うどん」の店。福岡産小麦などを使い4日間熟成させて作る平打ち麺と、上品かつ滋味深い味わいのつゆが特徴。1日に70~80人をコンスタントに集客している。

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まがり

Key Point

  1. “故郷の味”であるうどんに着目
  2. 福岡産小麦粉など厳選した国産素材を使用
  3. 都心での営業に合うメニューに改良

1年かけて試行錯誤し、4日間熟成させる製麺法を確立

 福岡県南部の筑後地方では、地元産の小麦粉で打つうどんが親しまれており、数あるうどん店には終日客足が絶えないほど、うどん好きの人が多い。福岡県大川市出身の大曲明氏もその1人で、“故郷の味”であるうどんを東京で提供したいと、2020年1月、地下鉄新大塚駅近くの商店街に「まがり」をオープンした。

 「あえて“筑後うどん”と呼ぶようになったのは、最近のことではないかと思います。地元では単に“うどん”と呼びますから。また、麺の太さや柔らかさはそれこそお店によってまちまちで、それぞれが自分の好みのお店に食べに行きます。そのため、筑後うどんとはどんなものかと定義付けるのは難しい。当店のうどんも、私が1年かけて試行錯誤しながら作り出してきた独自の味なのです」と大曲氏は説明する。

 同店のうどんは、筑後地方産の小麦粉「チクゴイズミ」を100%使い、熊本産の「天草の塩」と軟水器を通した水を加え、4日間熟成させて製麺する。やや細めの平打ち麺で、しなやかさ、なめらかさと、ほどよい噛みごたえをあわせ持つのが特徴だ。だしは北海道・羅臼産の昆布、熊本・牛深産のイリコ、長崎・平戸産のアゴ、熊本・枕崎産のかつお節でとる。福岡産淡口しょう油と国産天然塩で、上品かつ滋味深い味わいのつゆに仕上げている。やや薄味にしているのは、大曲氏の「つゆも全部飲み干して欲しい」という思いからだ。

うどんメニューは「素うどん」(480円)、「ごぼ天肉月見うどん」(990円)など計9品目に絞り込んでいる。写真は「ごぼ天肉うどん」(910円)で、スティック状に切ってアク抜きし、薄い塩味で下茹でしてから揚げたゴボウの天ぷらと、優しい甘辛味に煮た牛バラ肉をのせたもの。ご飯ものとして用意している「かしわめし」(220円)は、鶏肉とゴボウ、うどんつゆを加えて炊き込んだもの。また、酒類を提供すると客層が変わる可能性があることから、当初から酒類は提供せず、夜も安心して子どもを連れて来店してもらえるようにしている

幅広い客層の誘引を目指し、イタリアンからうどんに転進

 大曲氏は1980年生まれで、子どもの頃から料理に関心を持ち、いずれは飲食業で独立したいと、20歳で福岡・大川市内のイタリア料理店で修業を開始した。7年ほど勤めた後、2009年に上京し、イタリア料理店、大手飲食企業などで働き、独立開業への準備を着々と進めた。東京で結婚した大曲氏は、生活の拠点が都心に移ってきたため、福岡に戻ってイタリアンで独立するという構想を転換し、2019年1月に都内で筑後うどんの店を出店しようと決意した。「何をやりたいかと改めて考え、2つの理由でうどん店に決めました。私は小さいときからずっとうどんを食べてきたので、自分が飽きずに食べられるもの、というのが1つ。もう1つは、たくさんのお客様を相手にしたかったからです」と大曲氏は話す。

 まず福岡に戻り、以前からの行きつけのお店や、好きなお店を訪ねては、「教えて下さい」と指導を仰いだ。中でも一番多くを学んだのは福岡・大木町の「土俵うどん」。田んぼの真ん中にあり、“横綱級” と称されるほどの超極太でありながら柔らかいうどんを提供する繁盛店だ。また、並行してネット検索なども含め、都内各地での物件探しを開始し、2019年9月に見つけたのが現物件だった。新大塚駅から徒歩1分と近く、付近には企業もあれば住宅も多い。18坪の細長い物件の奥に製麺室を設け、客席はカウンター席のみ17席とし、忙しい時間帯では2人で、コアタイム以外なら1人で営業可能な造りとした。

 個人的には50分茹でる「土俵うどん」のような太いうどんが好みという大曲氏だが、そのスタイルで都内で営業するのは不可能と考え、オープン時は25分茹でる麺を使用。それでもランチタイムなどは提供に時間がかかり過ぎ、徐々に改良して現在の14分茹での平打ち麺に落ち着いた。

 また、朝打ったうどんをその日のうちに売り切る筑後地方の人気うどん店のようにはいかないだろうと、4日間熟成させることでロスが出ないように製麺量を調整するとともに、しなやかで切れにくい麺を開発。また、筑後うどんならではの具材である「ごぼ天(ゴボウの天ぷら)」は、細いスティック状に揚げて丼に盛り、上の部分はサクッとし、下の部分はつゆを含んで柔らかくなり、それぞれの食感を楽しめるようにしている。客単価は800円で、麺は茹で上がりで1人前200gだが、大盛り300gは追加料金なしとしているため、お客の半数以上が大盛りをオーダーしている。

 同店が福岡発の筑後うどんの店として都内で健闘している要因は、以下のようになるだろう。

  1. 故郷で子どもの頃から親しんできたうどんに着目している。
  2. 福岡産の小麦粉をはじめ、厳選した国産素材を使用している。
  3. 都心での営業スタイルに合うようメニューを改良している。

 オープン後1カ月ほどで新型コロナウイルスの影響が出始め、これまでに当初の予定通りに営業できたのは数カ月に過ぎないが、時短営業の中でも1日平均70~80人をコンスタントに集客している。客層は狙い通り幅広く、家族連れや、女性の1人客も多い。「自分自身がそうだったように、子どもの頃からずっとうどんを食べてきて、ずっとこの店に通っている、という思い出に残るうどん店になりたいです」と、大曲氏は縁のあった現在地での息の長い営業を目指している。

(Text and Photo by Food Biz

まがり
住所
東京都豊島区南大塚2-25-11
TEL 03-5810-1913
営業時間
11:30~15:30、17:30~21:00、日曜日・祝日11:30~16:00(変更の場合あり)
定休日
月曜日

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