2021/12/24 繁盛の黄金律

テイクアウト、宅配に背を向ける生き方もある

テイクアウト、宅配などのオフプレミスを手掛ける店が増えていますが、本気でオフプレミスをやるのか考えなければいけない時期に入っています。今こそイートインのお客様を大事にする営業に立ち返ることが大事です。

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Vol.124

本来の外食業からどんどん離れていっている

 個人店とチェーン店との戦いが繰り広げられていて、個人店がチェーンに押されているように思われていますが、そんなことはありません。チェーンも生き残るために必死なのです。チェーングループが今やっていることは、一言で言うと、脱外食業です。
 
 一つは、店舗調理とフロアサービスをシンプルにして、人件費の削減を図ります。大手チェーンの一部がロボットを積極的に導入しているのも、その端的な表れです。もう一つは、オフプレミスの強化です。オフプレミスとは、「店外売り」です。テイクアウト、宅配、ドライブスルーなどがオフプレミスになります。この売上を高めることで、店内売り(イートイン)の減少をカバーしようとしているのですね。
 
 でも、外食業は丹精込めて作った料理をきれいな盛り付けにして、素早くステキなサービスでお客様のテーブルに届けるビジネスですよね。店でなければ味わえないものです。だから、テーブルサービスレストランという言葉になるのです。

 もっとも、テイクアウトや宅配を前提にした外食業もあります。ファストフードやテイクアウト専門店がそれですが、こちらはイートインが、むしろはおまけです。あくまでもオフプレミスが主力のビジネスなのです。

 しかし今、イートインの外食業もこぞってオフプレミスへとのめり込んでいっているのです。本来の外食業からどんどん離れていっているのです。個人の店も多くのところがテイクアウトと宅配に力を入れて、イートインの客数減を補おうと必死です。チェーンと同じことをやっているのです。結果としてどうなっているかというと、本来のイートインのお客の減少が止まらなくなってしまっています。

「イートイン一本」の店は減る一方

 この生き方でいいのか。そのことを今、本気で考えなければいけない時期に入っています。私は、もう一度イートインのお客様を大事にする営業に戻るべきだ、と考えます。さらに言えば、「うちはテイクアウトや宅配は一切やりません」という姿勢を鮮明に打ち出してもよいでしょう。

 「そうは言っても、テイクアウト、宅配のお客様も増えているから、やめるわけにはいかんよ」とおっしゃる個人店の経営者の方も、たくさんおられるでしょう。気持ちはよく分かります。

しかし、テイクアウトや宅配注文の対応で、イートインのお客様に迷惑をかけていませんか。提供が遅れていませんか。盛り付けがメチャクチャに崩れてはいませんか。料理の温度が下がっていませんか。サービスがぞんざいになっていませんか。お客様の食事中にテーブルに通う回数が減っていませんか。テイクアウトや宅配注文に対応していると、以上のどれかが必ず起こります。常連の中にも、「もう二度とこの店に来ないぞ」と決意しているお客様がいるはずです。

 もう一つ、テイクアウト、宅配で購入したお客様が満足しているかどうかです。温度が下がっています。料理は荷崩れして原型をとどめていません。汁物は半分こぼれ出しています。オフプレミスのお客様もこういったことを多々経験し、不満と怒りが蓄積しているのです。こちらのお客様も「もう二度と頼まない」と決意しているケースが多いのです。どういう形状になっているか、どういう状況で食べられているのか。あなたは一度でもお客様の家に出向いて検証したことがありますか。あなたの知らないところで、店の評判がガタ落ちになっていることがあるのです。

 外食業全体がテイクアウト、宅配に向かっていることは事実です。こられからは、イートインの市場が縮み、オフプレミス市場が大きくなることには間違いありません。だから「うちもやる」ではなくて、こういう時代だからこそ、「うちはやらない」。わざわざ食べに来てくださったお客様を大事にする。外食の醍醐味をたっぷり味わっていただく。つまり、イートインに徹するのも、一つの生き方ではないでしょうか。

 イートインに徹する店が日を追って少なくなっている今、新しいチャンスの到来かもしれません。店でしっかりしたサービスを受けられ、極上の料理とお酒を楽しむことを、今のお客様は渇望しています。ところが、そういう店が少なくなっている。そこで、「オフプレミス断固拒否!」の店が現れたらどうでしょう。待っていましたとばかりに、その店にお客様は集まってきます。そして、外食本来の価値が高く評価されるところとなるでしょう。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

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