2022/01/28 繁盛の黄金律

営業時間、メニュー、販促に大ナタを振るうチャンス

食材が高騰しているからといって、仕入れ業者へ強引な交渉はせず、例えば半額セールの日をやめる、利益につながらないランチをやめるなどを考えましょう。どんな価値を提供するのかを根本から考え直す時です。

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Vol.125

仕入れ先に過大な要求をすると、必ず食材の質が落ちる

 この連載の前々回のタイトルは「値上げの上手な店になろう」でしたが、反響が大きかったです。価格を守る努力はしなければなりませんが、ほとんどの食材の価格が上がって、さらに人件費が跳ね上がっているのですから、外食業は値上げを回避できないところまで追いつめられています。でも、お客様への衝撃度が少ない値上げの方法はあるよ、場合によっては値下げして実(じつ=客単価アップ)を取る方法もあるよ、ということを述べました。

 ベーシック商品の価格は守って、周辺メニューの値上げで衝撃度を弱める方法もある、ということも書きました。ベーシック商品の値上げは、客数減に即つながりますから、現行価格の維持が理想です。他店は価格を上げてきますから、今の時代、価格維持の効果は非常に大きいのです。ベーシックの価格を守るためにどういう戦術があるのか、その効力について、前々回お話ししました。

 価格は守ったけれども、品質が下がった、ポーションが小さくなった。これはいちばんやってはいけない「最悪手」です。例えば、価格を維持するために、食材の取引先に圧力をかけることがあります。「この価格で食材を入れてくれなければ、取引先を変えるぞ」などと言うこともしばしばあるでしょう。

 しかし、これは絶対にやってはいけません。取引先との関係でいちばん大事なのは信頼です。困ったときにこそ、相手の立場に立って、より深いコミュニケーションを取らなければなりません。仕入れ価格などについての無理な要求は、一旦は飲んでくれたとしても、必ずしっぺ返しを受けます。いつの間にか食材の品質が下げられていたり、本当に品薄になったときに供給を止められたりもします。もちろん、相手の言い分を丸ごと飲んでいいわけではありません。正々堂々とまっとうな要求をし続けることは大事です。要は、ちゃんとした商品と相場の知識を持っていることです。

 食材を丸ごと業務用問屋にお任せという経営者がたくさんいますが、こういう人がいちばんのカモです。月々の支払額だけを気にしていて、品質の変化(劣化)に気が付かないことが多いのですから。

 頭に入れておかなければならないことは、「いいものは少ない」ということ。そして「いいものは高い」ということ。いいものは、たくさんあるわけではないですから、いつも奪い合いです。「安くていいものはない」と思っておいた方がよいでしょう。

やめたい販促、下ろしたいメニュー、カットしたい営業時間にメスを

 今は価格を守ることよりも、品質を守ることに力を入れるべきです。食材不足と価格高騰の中で品質を守ることが困難になっているからです。こういう時代は放っておくと食材の品質は下落するのです。そして繰り返しますが、無理な値下げ、あるいは価格維持の要求は、ワンランク下の食材納入という形で跳ね返ってきます。今は、売り手市場なのだ、という認識を持っておかなければなりません。

 お客様も経営する側の苦境をある程度理解し、同情していますから、こういうときにしかできない大英断を行うべきです。例えば、長年設けていた特定日の半額セール(金券でキャッシュバック)などは、やめるのに勇気がいります。大事な顧客が離れてしまうのではないか、という不安があります。平時では顧客離れは避けられませんが、有事や混乱期では影響度(客数減)が緩和されます。負担の大きい販促は、こういうときにしかやめられないのです。断固やるべきです。

 また、ほとんど利益が出ていないサービスランチなども今こそやめるべきです。ランチは売れてもちっとも儲からないという店が非常に多いですが、経営の中での位置付けを考え直し、儲かる時間に変革しなければなりません。場合によっては、ランチをやめてしまうという戦術も考えられます。あるいは、営業時間そのものを考え直すべきです。朝から深夜までダラダラやっていては、今の世の中生き残っていけません。売り物を明確にして、営業時間をコンパクトにすることを考えなければなりません。

 要するに、店はどういう価値を提供するのかを根本から考え直す時なのです。そして価値と無用な部分、不要な部分をどんどん切り捨てていかなければなりません。ということは、やはり主力商品の価値(価格を含めて)に行きつきますね。その価値が明確であれば、どういう営業が最適なのか、それがおのずと表れます。

 主力商品の価値と役割がはっきりしていないことが、結局、商売の不振の原因になっているのです。商品力も価格も保持されても、調理力、サービス力が落ちたら元も子もありません。それを含めてトータル価値なのですから。その一角が崩れたら、あっという間にお客様は逃散(ちょうさん)してしまいます。

 食材の質を落とすな、店舗調理力も落とすな、人件費を削るな(サービスの質を落とすな)。これは、いかなる改善をする場合でも、絶対に守らなければならない鉄則中の鉄則です。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

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