2022/02/25 繁盛の黄金律

その改装で商品とサービスの質が上がるの?

店舗を改装するケースが増えています。改装するときには、商品も働く人もグレードアップしていなければお客様は失望してしまいます。オペレーションを見直し、より少ない労働時間で効率的な働き方を目指しましょう。

URLコピー

Vol.126

人も商品もリフレッシュしなければならない

 コロナの嵐は依然吹き荒れています。イートイン主体の店は、総じて大打撃を受けています。こういう時期に一旦店を閉めて店舗の改装をしようというところが増えています。そのこと自体は間違いではないのですが、やり方が間違っている経営者があまりに多いので、今回は「改装の間にやっておくこと」について述べておこうと思います。

 改装中の10日間なり半月の間、営業はできません。一般的にパート・アルバイトを雇い止めにすることが多いですが、これが「いちばんやってはいけないこと」です。新装開店したらまた働いてもらいます、ということで、改装中の売上が上がらない時期のパート・アルバイトの人件費を浮かそうとしますが、とんでもない間違いです。改装中にやるべきことがあるのです。

それは、パート・アルバイトの再教育・再訓練です。そして店長の意識改革です。働く人のリフレッシュも必要だということです。

 店ばかり新しくなって、商品も働く人(の意識と能力)も改装前と同じであったらお客様はどう思うでしょう。「前と変わらないな」と思ってくれたらまだいいのですが、そうは思ってはくれません。商品と働く人が前のままだと「なんだかショボい店になったな」と思ってしまうのです。皆さんもそういう体験をしたことがあるでしょう。店ばかりがピカピカして、従業員は昔のままでやる気なし。これでは失望感は倍化してしまいます。

 店のリフレッシュも大事ですが、それ以上に働く人が見違えるように生き生きとして商品も生まれ変わったようにグレードアップ、そちらの方がよほど大事なのです。

長年の悪い習慣は一掃すること

 まずは人材のリフレッシュですが、その前に今までのオペレーションでいいのか、この検証が必要です。というよりは、店舗改装はオペレーションの根本的な見直しと連動していなければなりません。改装の規模にもよりますが、厨房の機器の配置と道具の変化が伴っていなければなりません。そこでの目標は働きやすさとより高い生産性の実現です。より少ない労働時間で、よりスムーズで効率的な働き方ができないものか、改装の目標をそこに設定しておかなければなりません。

 厨房ばかりではありません。客席フロアの動線も「今のままでいいのか」を改装では念頭に置いていなければなりません。複雑な動線ゆえにサービス負荷が高くなっていて、人員数が適正以上に増えていたりしているものです。それを改善しなければなりません。

 客席でもう一つ注意しなければならないのは、客席数です。経営者は席数をもう少し増やせないものかと考えがちですが、増やせばいいというものではありません。2人席を無理に4人席にしても、その席に2人客が座ったら同じことです。客席稼働率が高まらなければ、意味がありません。むしろ客席を減らし居心地を良くして、その結果、客席稼働率が高まる(客数が増える)ことだってあるのです。

 従業員の再教育、再訓練ですが、まずは「悪しき習慣の一掃」をしなければなりません。ちゃんとしたマニュアルがあるのに、働きやすさを優先して別の「裏マニュアル」が横行しているケースがしばしばあります。これは調理についても言えます。本来の手順と全く異なるやり方で調理が行われ、それが定着しているものです。一言で言えば、手抜きです。それも改装時にあるべき形、手順に戻さなければなりません。

 従来のやり方への否定が伴いますから、現場からの抵抗が必ず起こります。この抵抗に断固立ち向かわなければなりません。妥協は許されません。場合によっては、キッチンのボス、フロアの古狸をたたき出さなければなりません。ここで経営者の不退転の覚悟を見せなければなりません。こういう強い意思が貫かれて、初めて改装効果が表れるのです。

 調理工程も考え抜いて構築した本来の手順に戻すことができれば、同じ食材を使っても質が上がります。味は変わらないけれども、質は上がる。これが大事なのです。

 メニューについて、もう一言加えるならば、この際、邪魔物メニューを排除するべきです。この一品によってほかのメニューの提供の足を引っ張っているお邪魔メニューがあるものです。そういうメニューの摘発も改装時の大テーマです。改装を機にもう少し凝った高いメニューを提供しよう、メニューをもう少し増やそう、と考える経営者がいますが、それは失敗につながります。メニューは減らしながら、多様性と豊かさをどのようにして提供するか。ここに主眼が置かれなければならないのです。

 パート・アルバイトについても悪い習慣を捨てさせ、基本動作をもう一度ゼロから身に付けさせることが大事です。

 現状の否定。そしてあるべきサービスの形をもう一度、指し示さなければならないのです。それに抵抗するような従業員がいたら、去っていただくよりほかはありません。

 アメリカの外食業の教科書を読むと「figure」(フィギュア:姿・形)という言葉によくぶつかります。これはとても大事な言葉です。まさにあるべき姿、形です。青写真、想像図と表現してもよいかもしれません。経営者が改装にあたってどういう店にしたいのか、どういう姿、形に変えたいのか。この予想図がはっきりと描かれていなければなりません。そのフィギュアに基づいて料理も刷新、サービスも一新、楽しさ豊かさも倍増。課題は多いのです。改装は、そういう店に切り替えるための基盤づくりなのです。

 料理とサービスのレベルを上げることを目標に据えていない改装は、金をドブに捨てるような行為だ、ということを頭に叩き込んでおかなければなりません。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

■飲食店経営の明日をリードするオピニオン誌「Food Biz」

「Food Biz」の特徴
鍛えられた十分な取材力、現場を見抜く観察力、網羅的な情報力、変化を先取りする予見力、この4つの強みを生かして、外食業に起こっている変化の本質を摘出し、その未来を明確に指し示す“主張のある専門誌”です。表層的なトレンドではなく、外食業に起こっていることの本質を知りたい人にこそ購読をおすすめします。読みたい人に直接お届け!(書店では販売しておりません)

購読のお申し込みはこちら
年間定期購読: https://f-biz.com/nenkei/
単号購読: https://f-biz.com/tango/
詳しい内容は: https://f-biz.com/mag/

発行:株式会社エフビー
〒102-0071 東京都千代田区富士見2-6-10 三共富士見ビル302
HP https://f-biz.com/ TEL 03-3262-3522