「立呑み 焼きとん 大黒」で培った“接近戦”とDXの融合で飛躍を期す~光フードサービス株式会社 代表取締役 大谷光徳氏

愛知・名古屋を中心に「立呑み 焼きとん 大黒」などを展開する光フードサービス株式会社の代表取締役・大谷光徳氏。立ち飲みにこだわりつつDX化を進めるなど、時代に合った店づくりに注力する背景や効果を聞いた。

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目次
19歳で結婚し、20代前半で焼き肉企業の役員に
“接近戦”を武器に、立ち飲み不毛の地・名古屋で「大黒」がヒット!
コロナ禍を踏まえた、接近戦×DXの新業態が好調
売上1,000億円、外食企業トップ10入りを目指して
「リーダー×一問一答」&「COMPANY DATA」

長期目標は売上1,000億円企業。外食企業トップ10に入りたい

 愛知・名古屋を中心に、東京や宮城などで立ち飲み業態の居酒屋を運営する光フードサービス株式会社。「立呑み 焼きとん 大黒」「立呑み 魚椿」など、5業態53店舗を展開しており、10坪前後のコンパクトな店舗を中心に、スタッフや来店客同士が会話が楽しめるような接客を強みに成長を続けてきた。若くして飲食企業の役員を務め、27歳で同社を立ち上げた代表取締役社長の大谷光徳氏に、「接近戦での接客」という自社の強みを生かしてコロナ禍に立ち上げた新業態や、売上1,000億円企業という大きな目標に向けて、どんな青写真を描いているのか聞いた。

――飲食業界に入ったきっかけを教えてください。

 19歳で結婚し、子どもが生まれたこともあり、とにかく収入を得るために、当時、マーケットが広がっていた飲食業界を選びました。働けば働くほど稼ぐことのできる労働集約型の飲食業は、若くて体力に自信があった私に向いていると考えたからです。高校卒業後、最初に就職したのは自宅に近いインド料理店。当時は珍しかったナン食べ放題のランチバイキングを企画するなどして売上アップに成功し、数カ月で店長に昇格しました。さらに、面白い取り組みをしている店として地元誌にも取り上げられ、記事を読んだ焼き肉店を経営する会社の役員の方から、「名古屋にオープンする新店舗の店長をやってみないか」と、スカウトされたのです。

 こうして20歳で焼き肉店に転職したのですが、このころは生活が苦しく、借金もあったので、ひたすらハードワークを重ねていました。家族を守るためでなければ、あれほどがむしゃらにはなれなかったでしょう。そういう意味では、家族への責任感が原動力になっていましたし、負けず嫌いの性格も大きかったと思います。

 毎日、夜は店に出て、昼は法人営業。焼き肉店が入居していたビルにはボーリング場があったので、ボーリングと焼き肉をセットにした宴会プランを提案したら、これがヒット。同時に、ぐるなびでのインターネット販促にいち早く力を入れました。月商を倍以上に伸ばし、23歳で役員、25歳で取締役に選任されました。この会社で食材の仕入れから店舗運営、マネジメント、人材育成など経営のノウハウを学び、今日の礎を築いたといえます。

1980年、愛知県生まれ。高校卒業後、インド料理店で働き、そこでの企画が評判を呼び、スカウトで焼き肉店の店長に。取締役を務めた後、27歳のときに独立。名古屋市の繁華街に「立呑み 焼きとん 大黒」をオープンし、“立ち飲み不毛の地”といわれた名古屋で店舗数を増やし続けている。

――2008年、27歳のときに地元・名古屋で「立呑み 焼きとん 大黒」を立ち上げましたね。

 もともと飲食業界に入った時から独立したいという思いはあったのですが、現実的に独立できると考えたのは、借金を返済して、貯金が600万円に到達したとき。これを独立資金に、10坪の物件で立ち飲みの店を立ち上げました。

 当時、名古屋には立ち飲みの店が少なく、地域に根付いた業態ではありませんでした。そのため、立ち飲み業態で独立すると言うと両親を筆頭に周囲からは猛反対を受けましたが、繁華街で当時勢いのあった「和民」さんのような大手チェーンに勝つために考え抜いた道だったので、意思は固かったです。私が考えた「和民」さんに負けない武器とは、小規模店舗ならではのお客様との距離感でした。近い距離でコミュニケーションやサービスを行うことで満足度を高める「接近戦」は、創業時から今日に至るまで、当社の強みになっています。

 「接近戦」をする上で、特に力を入れたのが、お客様同士とスタッフの三者をつなげる「トライアングル戦略」です。これは、お客様同士が仲良くなれるように、スタッフが共通の話題を投げかけ、自然に会話が生まれるきっかけを作るようにするもの。この戦略を浸透させるために、独自の評価制度も設けました。「お客様同士の会話のきっかけを作る」など、接客時に目標とすべき項目をいくつか設定しておき、日々、達成できたら自己申告でスタッフがリストにチェックを入れていきます。その達成数を人事評価にも組み込み、地道に続けたことでお客様同士がつながり、店の外でも連絡を取り合うような「顧客コミュニティー」が形成されるようになっていきました。

 この「顧客コミュニティー」は店舗ごとにあり、リピート率向上につながっています。また、新店がオープンすると、近いエリアにある別店舗の顧客コミュニティー内で「新しい『大黒』が開店するらしい」という情報が広がり、オープン時から別店舗の常連で賑わうというケースも多いです。

 こうした接近戦の強化以外に、「大黒」が軌道に乗った要因と考えているのが、焼き肉店勤務時代に得た肉についての知識や生産者とのネットワークです。前職では生産者の元へ足を運び、食材の勉強をしたり、より良い肉を作るための飼料の配合を一緒に考えたりして関係性を構築してきました。「大黒」では、「価格が高い=いい肉」という基準ではなく、付き合いのある生産者から「本当においしい肉」を仕入れて提供。そのストーリーを接近戦でお客様に伝えたことがファンづくりにつながったと思います。

 出店はドミナント戦略をとっていて、既存店と同一商圏に集中的に展開。例えば、モツを提供する「立呑み 焼きとん 大黒」の近くには、刺身などを提供する「立呑み 魚椿」を出店しています。開店時には、同一商圏の顧客コミュニティーが来店する流れができており、コロナ禍の前まで売上は順調に推移していました。

  • 「立呑み やきとん 大黒」では、「串焼き5種盛り合わせ」(写真715円)などの人気が高い
  • スタッフが来店客同士の会話を生む、トライアングル戦略による接客が「顧客コミュニティー」を生んだ

――コロナ禍ではどんな取り組みをしたのでしょうか。

 協力金や雇用調整助成金などの活用、銀行からの融資、店舗家賃の減額交渉などで、損益分岐点を少しでも下げるように努め、休業中はスタッフと社内SNSでしっかりとコミュニケーションを取るようにしました。

 また、営業ができる時期は、「大黒」と「魚椿」で昼飲みニーズの獲得を狙ってランチ営業を始めました。結果として、売上の創出はもちろん、夜の営業とは別の客層を獲得するなど、効果があったと感じています。テイクアウトやデリバリーは先行企業に勝つのは容易ではないと考えて採り入れませんでしたが、2020年も2021年も2019年と比べて7割程度の売上を上げることができ、赤字にはなっていません。

 一方で、この先コロナ禍が続いたとしても企業として成長していくために、新業態を2つ立ち上げました。1つ目が、2021年10月、住宅が集まる愛知県江南市のロードサイドにオープンした焼き肉店「焼肉デラックス」です。当社としては初めての大箱店で、食べ放題コース(2,618~4,378円)がメインで、客単価は約3,000円。ファミリーを中心にリピーターを獲得しており、月商は1,000万円と好調です。

 「焼肉デラックス」では、Webでの事前受付システムや特急レーンでの提供など、DX化にも力を入れています。当社が大切にしている「接近戦」をオフラインではなく、オンラインで実現すべく、店のLINE公式アカウントを開設して2022年4月現在、6,000人以上の登録者に対してメニュー情報などを発信。さらに、誕生日に来店した方には、サプライズで、特急レーンを使ってケーキを運ぶサービスをするなど、顧客満足度の向上に努めています。

  • 愛知県江南市のロードサイドにオープンした約100坪の大箱店「焼肉デラックス」。焼き肉食べ放題を武器に、FCを含めて店舗展開していく予定
  • 「焼肉デラックス」では、Webでの事前受付システムや特急レーンでの提供など、DX化にも力を入れている

 2つ目の新業態が、2022年2月に名古屋駅西口にオープンした「立喰い寿司 魚椿」です。既存の「立呑み 魚椿」に隣接させており、スペースはわずか5坪。アルコールはセルフサービスで、ネタが大きい王道の握りを提供。モバイルオーダーとセルフレジを導入するなど、「焼肉デラックス」同様にDX化に力を入れています。

 こちらも滑り出しは好調で、初月の客単価は2,800円。時短営業ながら月商300万円を達成したので、通常営業に戻れば月商500万円、つまり坪月商100万円も可能だと考えています。

名古屋駅西口の既存店「立呑み 魚椿」に隣接する元魚屋の5坪の物件を利用し、2022年2月にオープンした「立喰い寿司 魚椿」。初月から時短営業にもかかわらず月商300万円を記録するなど、上々の船出を切った

――今後の展望を聞かせてください。

 短期的には、今年、「立呑み 焼きとん 大黒」を中心に、名古屋と東京で7店舗の出店を予定しています。以前は100店舗を目標に掲げていましたが、1つの節目、通過点として捉えています(2022年4月現在、53店舗)。

 長期的な目標は、売上1,000億円、利益100億円、時価総額1,000億円の企業にすること。この実現のためには、「大黒」と「魚椿」を各300店舗まで拡大したい。そのためにこれまでドミナントで店舗展開してきたエリア以外への出店も必要になってくるはずです。そのときに先陣を切る業態として期待しているのが、新たに開発した「立喰い寿司 魚椿」です。理由は、特別な厨房設備が不要な軽飲食の店である上に、5坪あれば出店できるので物件の選択肢が多く、家賃が高い超一等地にも出店しやすいから。「立喰い寿司 魚椿」で顧客コミュニティーを作り、エリア分析をして勝算があれば、「大黒」「魚椿」を出店していく戦略を描いています。

 ただ、「大黒」「魚椿」の店舗展開にも限界があるので、売上の上限は両業態合わせて300億円と見ており、目標には700億円足りません。そこを補うのが「焼肉デラックス」です。まずは名古屋市郊外のロードサイドから攻めて、他県にも進出し、600店舗を目指します。この目標を成し遂げて、いずれ外食企業トップ10に入りたいと考えています。

リーダー×一問一答

■経営者として一番大切にしていること
大きな志を持つこと。信念を曲げないこと

■愛読の雑誌や書籍、Webサイト
SNS全般。経営書全般

■日課、習慣
適度な運動、食事、睡眠

■今一番興味があること
コロナの終息時期

■座右の銘
10坪のイノベーションを起こす

■尊敬している人
西山知義氏(株式会社ダイニングイノベーション創設者)

■最近、注目している店舗・業態
特になし

■COMPANY DATA
光フードサービス株式会社
愛知県名古屋市中村区則武1-10-6 ノリタケ第1ビル101
https://hikari-food-service.jp/
設立:2009年
ブランド・店舗数:5業態・53店舗
従業員数:233人(社員109人)※2022年2月末現在