“あげたて”のからあげでデリバリー市場を席捲。2025年までにバーチャルレストラン3万店を目指す~株式会社Globridge 代表取締役 大塚 誠 氏

東京・高田馬場でもつ鍋居酒屋を創業し、国内外に店舗を展開する株式会社Globridgeの代表取締役・大塚誠氏。「あげたて」などのバーチャルレストラン「ご近所キッチン」のFC展開での成功や今後の戦略などを聞いた。

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目次
コンサルティング会社、ベンチャー・リンクで経験を積み起業へ
もつ鍋居酒屋で独立し、独自の集客戦略で飛躍
コロナ禍に先駆けて始めたからあげのデリバリーがヒット!
「to order」という非効率な強みが外食産業の生きる道
3年後までに「ご近所キッチン」3万店を目指す
「リーダー×一問一答」&「COMPANY DATA」

「to order」という強みをいろいろなビジネスと融合すれば、外食の可能性はさらに広がる

 コンサルタント会社で培った経営ノウハウを生かして、株式会社Globridgeを立ち上げた大塚誠氏。もつ鍋居酒屋からスタートし、順調に店舗展開をしてきたが、コロナ禍で一転、ほとんどの店舗を閉業することに。そこで起死回生の一手となったのが、従来から進めていたデリバリー事業だった。今、飛ぶ鳥を落とす勢いの「東京からあげ専門店 あげたて」をはじめとするバーチャルレストラン事業のポテンシャルや将来の事業構想などについて話を聞いた。

――20代半ばで建設会社からコンサルティング会社に転職。そこでの経験が今につながっているとお聞きしました。

 転職を決めたあたりから、経営者になりたいと思うようになり、コンサルティング会社であれば経営ノウハウを学べると考え、株式会社ベンチャー・リンクに転職しました。

 ベンチャー・リンクの理念「企業家の輩出」には、「人生を自分で企てろ」という意味が込められています。社員に当事者意識を持たせると同時に、責任も権限も与えられ、社員が主体的に動く社風でした。

 ここで12年間、中古車販売店やゴルフ用品店、焼き肉店など、さまざまな業界のコンサルタントを行い、経営を軌道に乗せました。その後、会社全体が業績不振に陥って、当時ぼくが所属していた飲食事業部も売却することに。これを機に転職を考え始めたのですが、同じ部署のメンバーに「一緒に仕事をしたい」と言われて、独立を決めました。

 独立にあたって、飲食業を選んだのは偶然の流れでした。もともと、ぼくは車関係のビジネスが得意だったので、中古車販売の事業で起業を第一候補として考えていたんです。ただ、たまたま知り合いに紹介された飲食店向けの物件を見て、その場の勢いで契約してしまったことから、飲食業で独立することに。とはいえ、前職で何年も飲食業のコンサルタントを経験していましたし、自信はありました。

1971年3月生まれ、千葉県出身。大学卒業後、建設会社に就職し、2年後、株式会社ベンチャー・リンクに転職。中古車買取・販売を皮切りに、飲食を含めたさまざまな業種の店舗再建を手掛ける。2008年、独立して飲食業を開始し、5年で100店舗以上の出店に成功して注目を集める。2019年、デリバリー事業に参入し、事業を拡大している

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――起業から5年後には直営85店舗、FC30店舗と急成長します。

 1号店は、東京・高田馬場に出したもつ鍋居酒屋「せかいち」。「世界一になる」という目標を込めて命名しました。店舗展開をゆっくり行う気はなかったので、2年目、まだ2店舗のときに新卒採用を開始して、どんどん出店しました。どの店も毎月の営業利益が200~300万円と絶好調でした。

 成功した要因の1つは、店の前を通る人に店の存在を知ってもらう取り組みを徹底して続け、来店の母数を増やしていったから。

 飲食店経営者の中には、「おいしい料理を出していれば、お客様は来てくれる」と言う方もいますが、ぼくの考えは違います。もちろん、おいしくなければ論外ですが、一定のレベル以上であれば、あとは好みの問題になるので、決定打にはなりにくい。むしろ、いかに店の存在に気付いてもらえるかの方が重要です。なぜなら、飲食業はほかの小売業と違って“入店した時点で高確率で購入が確定するビジネス”だから。お客様は店の外で購入するかどうかを決めているのだから、店の中に閉じこもってメニューを磨いているだけではなく、店の外でアピールしたほうが客数は増えるはずと考えました。

 そこで、ぼくは大きな看板を持って店の前の道を半分近くふさぎながら声を掛け、道を歩いている人にアプローチしたんです。やり方は今思えば大胆でしたが、当時は客引きについて寛容な時代でしたし、効果は絶大で創業時から客数は伸び続けました。

 さらに、もう1つのポイントとして幅広いメニュー構成があります。当時、繁華街で居酒屋を探すのはたいていグループで、彼らが探しているのはメンバー全員が楽しめる店。例えばもつ鍋専門店は「もつが苦手」という人が1人でもいたら選ばれません。業態として尖れば尖るほど、マーケットは縮小するということです。そこで、もつ鍋を売りにしつつも、お客様から求められるものは何でも提供する総合居酒屋の方向に進んでいきました。簡単に言うと、グループのメンバーの誰かに「この店がいい」と思われる店ではなく、メンバー全員が「この店でいいんじゃないか」と思えるような間口の広い店づくりをしたんです。

 結果、5年目には100店舗を超え、6年目には最高年商48億円に達しました。これだけの急成長を支えるためには、それぞれの店の従業員が指示待ちではなく自ら店づくりを進めていく“当事者意識”を持つことが不可欠だと考え、現場の責任と権限を拡大し、店づくりを完全に任せたんです。ただ、その結果、それぞれが現場で好きなように店づくりをするようになり、予想以上に多業態化が進んで、3年後には65業態70店舗というカオスな状態になってしまいました。現場が権限を与えるのはよかったのですが、それぞれの店舗責任者が根拠もなく、ただ「やってみたい店」に変えてしまったため、ほとんどのブランドが失速していきました。

 その後は、現場に権限を与えつつも、しっかりぼくの方でジャッジをしていくラインを明確にし、仙台牛たんが名物の食べ放題焼き肉店「一心たん助」やチーズ料理専門店「CCC Cheese Cheers Cafe」などにブランド数を絞っていきました。さらに、ぐるなびなどのインターネット販促の効果を分析。ネットで集客できる業態を開発するとともに、ネット販促を支援するコンサルティング事業も始めました。

  • 「一心たん助」。名物”大判仙台牛タン”をはじめ赤身肉寿司や、人気のタン刺し、A等級国産リブロースなどが食べ放題で楽しめる
  • 「CCC Cheese Cheers Cafe(チーズチーズカフェ)」。ダイナミックな滝のように目の前で流れるラクレットチーズや特大のグラナパダーノチーズ、定番のピザ、パスタまでありとあらゆる料理を「チーズの体験」というテーマで表現

――コロナ禍ではデリバリー事業に参入して、好調を維持しています。

 コロナ禍になり、早い段階でキャッシュフローが回らなくなると感じたので、2020年3月に75店舗中50店舗を閉める決断をしました。

 一方で、デリバリー事業はコロナ禍以前から海外事業の一環としてオーストラリアで取り組んでいたため、社内にノウハウは蓄積されていました。また2019年に、ある店舗の責任者が売上改善策として「デリバリーをやりたい」と言ってきたので、ぼくがサポートに入ることにしたんです。そして、さまざまなブランドを試していく中で、コロナ禍の直前にからあげのデリバリーがスマッシュヒットを記録。これが、今のバーチャルレストラン(飲食店が行うゴーストレストラン)業態「東京からあげ専門店 あげたて」の原型になりました。

 「東京からあげ専門店 あげたて」の業態開発において、もっとも苦心したのが商品力でした。「遅い」「冷めている」という不満を解決し、調理から30分後に最高到達品質がくるように徹底的に研究を重ねました。さらに、ユーザーの声を聞くためにアンケートを実施したところ、予想に反して利用者の半数以上が若い女性だということが分かったのです。そこで、ボリュームやパッケージデザインを女性向けに変えるとともに、味変が楽しめるように数種類のディップを付けるなどマイナーチェンジを繰り返しました。冷めてもおいしいからあげを開発して差別化し、デリバリーで把握しづらいお客様の声を拾い上げて商品やサービスに反映したことが、「あげたて」の成功につながったと思います。

 現在、デリバリーブランドは「がっつりハンバーグ」「韓国屋台momoチキン」「ネギトロ一本勝負」など約20あります。「ご近所キッチン」と総称して、さまざまな飲食店にFC加盟していただいています。すでに直営とFCを合わせて約1,600店舗。業績も好調で、実店舗の営業に加えてデリバリーブランドを複数運営している店舗では、毎月200万円以上がイートインの売上にプラスされています。デリバリー市場は今後3年以内に5~6倍になると見込んでおり、今期中(8月まで)に5,000店舗まで広げたいと考えています。

コロナ禍の直前にスタートしたバーチャルレストラン業態「東京からあげ専門店 あげたて」がヒット。調理から30分経過しても“あげたて”のおいしさが楽しめるように、調理工夫を重ねて商品力を高めたことが差別化につながった

――デリバリー市場の拡大で外食のマーケットが縮小しているという声もありますが、飲食店にとってネガティブな要素ばかりではない、ということですね。

 コロナ禍によってデリバリー市場は一気に拡大しましたが、コロナ禍が収束しても縮小はしないと思います。以前は、「出来たてで、おいしい料理」は、外食の大きな価値でした。しかし、Uber Eatsをはじめとするデリバリーサービスの普及や時間が経っても劣化しにくい商品の開発などにより、出来たてでおいしい料理を楽しむための選択肢が増えて、消費者がそのメリットに気付いたので、ますます拡大していくと思います。

 こうした流れの中で、飲食店がバーチャルレストランを運営してイートイン+デリバリーの2軸で売上を創出するビジネスモデルは今後も広がっていくと思います。飲食店の売上は「席数×客単価×回転数」ですから、どうしても席数に縛られてきました。しかし、デリバリーはこの縛りを取り払うことができます。席数にかかわらずに売上を上げられますし、複数のブランドを運営できるのもメリットです。

 一方で、ライバルが多いので競争もし烈です。飲食店やデリバリー専門店だけでなく、「自宅で手軽においしい料理が食べられる」という意味では、スーパーマーケットの冷凍食品なども競争相手になりえます。

 こうした相手に飲食店がデリバリーで勝っていくために大切だと思うのが、「to order」という価値です。スーパーマーケットの惣菜もコンビニエンスストアの弁当も全て「計画生産」、つまり作り置きで、「to order」のような非効率なオペレーションは排除されてきました。一方で飲食店は、注文を受けてから作りますし、注文に応じて味付けや量などを変えて作ることもあります。これはある意味非効率な作業なのですが、そこが外食企業の強みになる時代になると思います。工場で大量生産した“食べ物”を届ける「フードデリバリー」ではなく、キッチンで料理人が手作りした“料理”を届ける「レストランデリバリー」の価値を追求していくことが、デリバリー市場で飲食店が勝ち抜いていくために必要不可欠。逆に言えば、「to order」という非効率だけど魅力的な強みをいろいろなビジネスと融合すれば、デリバリーに限らず、外食の可能性はさらに広がると思います。

  • ハンバーグ専門店のバーチャルレストラン「がっつりハンバーグ」。「がっつりハンバーグ弁当」(写真1,180円)などが売り
  • 「Theネギトロ丼」(写真990円)などを販売する、バーチャルレストラン「ネギトロ一本勝負」も好調

――今後の展望、目標をお聞かせください。

 実店舗での飲食業は、店舗数こそ縮小させましたが、売上規模はデリバリー事業(月商1億円強)より多く、今後も事業の軸であることに変わりはありません。「CCC(チーズチーズカフェ)」「一心たん助」「魚バカ一代」など、好調なブランドを中心に店舗展開を続けていきます。

 また、デリバリー事業については、厨房設備のあるコンビニと提携するなどして、3年後までに「ご近所キッチン」の加盟店を3万店にしたいと考えています。そのほか、アメリカで普及しているフードコート型ドライブスルー(1カ所のドライブスルーで、複数の店舗のメニューをテイクアウトできる業態)にも注目しており、日本に持ってくればヒットすると考えているので、その実現に向けて構想を練っています。

リーダー×一問一答

■経営者として一番大切にしていること
正義であること

■愛読の雑誌や書籍、Webサイト
「7つの習慣」(フランクリン・コビー)

■日課、習慣
格闘技、家族との時間

■今一番興味があること
自分の可能性

■座右の銘
企業家輩出

■尊敬している人
株式会社ベンチャー・リンク時代の恩師
関わっていただいているすべての経営者

■最近、注目している店舗・業態
メタバース内のビジネス(既存の飲食店のやり方ではもう通用しないので)

■COMPANY DATA
株式会社Globridge
東京都港区赤坂2丁目14−11天翔オフィス赤坂701
https://www.globridge.co.jp/
設立:2008年
ブランド・店舗数:40業態 約1000店舗(FC店舗・VR店舗含む)
従業員数:1,000人(社員141人)