2022/05/27 繁盛の黄金律

一人の店長に複数店を管理させてはいけない

新規出店を検討している、複数の店舗を展開しているオーナーが考えなければならないのは、新店を任せられる人員が確保できているか、人が育っているかです。一人の店長が管理するのは1店舗が原則です。

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Vol.129

人を育てないで新しい店を出してはいけない

 新しい店を出した。でも、任せる店長がいない。さあ、どうするか。

 ここで一番やってはいけないことは、既存の店の店長に兼任させることです。必ず失敗します。新しい店も軌道に乗らないばかりか、既存店も売上を落とします。気がついたら、両店が赤字に転落、ということになってしまいます。

 新しい店、既存店にかかわらず、一人の店長に複数の店の管理をさせていてはいけないのです。

 例えば 戦国時代(と、急に話が昔に飛びますが)、一つの山城を死守するために全力を出し切っているときに、「隣のもう一つの山城も、お前が守れ」と命ぜられたらどうなりますか。「かしこまりました」と、武将はまなじりを決するかも知れませんが、心の中では「こりゃ、あかん」と叫んでいるでしょうね。力が半減することは目に見えています。両方の山城も敵の猛攻を受けて、敗退することになります。複数の店を一人の店長に委ねる、ということは、まさにこういう無謀なことを強要しているのです。勝てるはずの戦さも勝てなくなります。

 競合店と激しい戦いをしている中で、店長は調理力を高め、従業員を鍛え、ホスピタリティを高め、日々店のパワーを上げています。1店で踏んばっているからこそ、コツコツと実力を蓄え、顧客を呼び込み、満足度を高められているのです。そこで、「あっちの店も頼むぞ」などと言われたら、緊張の糸がぷっつりと切れてしまいます。ちょっと考えれば、そんなことは理の当然なのですが、背に腹は替えられず、ついやってしまうのですね。

 繰り返しますが、一人の店長に複数の店を任せてはいけません。そもそも人を育ててもいないのに、新しい店を出すこと自体が、愚挙です。

2号店を出すよりは大きな店に引っ越しした方が失敗しない

 一人の店長に複数の店を任せているケースは、非常に多いです。その大きな理由は、1店の売上が小さすぎることです。ざっくり言って、月商500万円以上の規模であれば、本部を置いて正社員の店長を置くこともできると思いますが、現実には、500万円を超えられない店はたくさんあります。いや、500万円以下の店の方が多いでしょう。では、そういう店は、どのように管理したらよいのか。

 まずは、特定の曜日の特定の時間を担当する時間帯責任者を育成することです。正社員の店長も休日は取らなければなりませんから、この時間帯責任者の育成は、店を運営するにあたって必須です。何人の強い時間帯責任者を持っているかで、店の命運が決まってしまう、と言っても過言ではありません。

 店長の最大の仕事は、強い時間帯責任者をつくることです。その時の店長の自らに課す動機は「週に1日は、店の心配をしないでゆっくり休みたい」です。これを目標に据えれば、励みにもなりますね。

 次に店を任せられるパート店長の育成に入ります。パート店長は、長期に(できれば、定年になるまで)働いてもらわなければなりません。だから、学生では困ります。できれば、地域に在住していて、自らが長期にわたって家族を養っていかなければならない人であってほしいです。さらに、料理に興味があって、店を愛している人であるべきです。

 それから地域の人に愛される資質を持った人でなければなりません。地域密着型です。地域の人とは断絶していたりしたら、いくら意欲があって、仕事に前向きでも、ちっともお客様は増えません。店長と同じ働きをするのですから時給をちょっと上げるくらいの待遇では納得してもらえないでしょう。準社員としてボーナスももらえ、有休も取れる待遇にしなければなりません。

 「それじゃ、正社員の店長と費用は同じじゃないか」と言われるかも知れませんが、その通りです。コスト的にはほとんど変わりません。大きな差があっては、長く働いてもらえません。転勤がない、というのが一番の違いかも知れません。

 だから言ったでしょう。正社員の店長を地道にコツコツ育てていくのが本来の道です。そうすると月商500万円の壁が大きく立ちはだかることになります。

 あなたがもし、繁盛店のオーナーであるとしたら、そしてチェーン構想を持っていないとしたら、2号店を出すことを考えるよりも、店の規模を大きくすることを考えたほうが、成功率が高くなります。近くの大きめの店にリロケーション(移転)するのです。小さな繁盛店を大きな繁盛店に転換するのです。これならば、既存店の店長をそのまま新しい店の店長に据えることができます。商圏も同じですし、これまでの店の顧客も確保できます。

 ただし、ここで注意が必要です。大型化すると、当然新しい能力が求められます。小型船をうまく操縦できても、その人が大型船の船長になれないのと同じですね。ひと皮むけて、大型船の船長になれるかどうか。本人の資質も大事ですが、それを育てるベースが作られていなければなりません。それを提供するのは、オーナーの仕事です。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

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