2011/07/12 挑戦者たち

株式会社エスエルディー 青野 玄氏

アートとのコラボレーションで、飲食業の新フィールドを開拓。カフェ&ダイニング業態を中心に、20~30代の女性を惹き付け、東京、横浜で急成長を遂げている株式会社エスエルディー。オリジナリティ溢れる提案力で飲食業態を立ち上げているが、初期の事業は飲食ではなく、船上ライブのプロデュースだった。

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アートとのコラボレーションで、
飲食業の新フィールドを開拓

カフェ&ダイニング業態を中心に、20~30代の女性を惹き付け、東京、横浜で急成長を遂げている株式会社エスエルディー。オリジナリティ溢れる提案力で飲食業態を立ち上げているが、初期の事業は飲食ではなく、船上ライブのプロデュースだった。音楽やアートの発信と飲食業を結び、空間の活性化を理念に掲げる同社。代表執行役社長の青野玄氏に、その原点と展望を聞いた。

青野 玄 氏「デザイナーズ和ダイニング‐瓦‐ kawara DINING 渋谷 宇田川」にて

――大学卒業後、まもなく株式会社エスエルディーを
設立しました。その経緯を教えてください。

大学時代の4年間、ライブやコンサートのプランニングやプロデュースを手掛け、同時に、寿司屋でアルバイトもしていました。何の関係もないようですが、私のなかでは、音楽も飲食も「人が集まって楽しむ空間」という点で、同じ土俵です。

就職先を決めるときも、飲食業か音楽関係に絞り、飲食業の会社から内定をもらいました。ところが、「大きな会社では店と本社との価値観がずれたとき、新人の自分がそれを埋めようとしても難しいだろう」と考えて断念。卒業間際に路線を変更して、音楽プロダクションに入社しました。

その会社ではプロモーションビデオの制作や海外ロケなどの貴重な経験をしたのですが、自分の将来を考える機会があり、起業すれば「何かできるのではないか」と思うようになったのです。ちょうどベンチャーブームで、株式会社設立も資金が少なくてできるなど、起業のハードルが下がったことにも後押しされ、大学時代の友人4人と株式会社エスエルディーを設立しました。

始めはどんな会社にするのか、何も決めていませんでした。もちろん飲食業は候補に入っていましたが、資金もありません。また、専従できるのは私だけで、まだ大学に残っていた友人や、就職せずにアルバイトをしていた友人などの気楽なメンバーでした。

――初期の事業は、飲食業ではなく
船上ライブのプロデュースでした。

自分たちができる事業で、資金がいらないものといって思いついたのが、船上ライブのプロデュースでした。実は船上ライブは大学時代に実現させた経験がありました。ライブハウスやコンサート会場には、その音楽が好きな人しか足を運びませんが、クルージングとセットなら、音楽の好き嫌いに関係なく人が集まると考え、企画したのです。これが好評を博し、会社としては一過性のイベントではなく、船舶会社とタッグを組んで継続的な事業として展開することに決定しました。

私の狙い通り、本来なら船が眠っている時間帯にライブ会場として稼働させることで、新たな収益を生み出し、音楽やクルージングに対する新しいニーズの掘り起こしにもつながりました。

この成功がなければ、今日のエスエルディーは存在していないかもしれない。当社のコンセプトである「デッドスペースの運用」という理念も、このとき始まったと言えるかもしれません。

――飲食業への進出は、どのように果たしたのでしょうか。

船上ライブやコンサートのプランニングなどと並行して、飲食店のメニューブックのリニューアルや、売上の不振な飲食店の再生事業などを請け負っていました。そんなとき、たまたま出会った空き物件がカフェビルの一画で、ビルそのものにお客さんがついている珍しい立地だったのです。数店のカフェに囲まれたこのスペースを、どのように企画したら新しいニーズにつながるかを考え、初めて直営店のプロデュースをしたのが「デザイナーズ和ダイニング kawara 渋谷 神南本店」でした。

周囲のカフェに埋没しないよう考えた末に思いついたのが、両親の実家がある山口県下関市の郷土料理「瓦そば」でした。熱した瓦の上で具とソバを炒める素朴な料理ですが、東京では珍しいのと、ビジュアルもなかなかのインパクトがあります。カフェとのミスマッチを承知のうえで、あえて看板メニューに組み込むことで、他のカフェとの差別化を図りました。

その流れで瓦のイメージを軸に、ロゴや皿にも瓦を使った和テイストの「kawaraブランド」を構築したのです。

――次々と自社ブランドを開発しています。
ブランド作りのポイントはどんなことでしょうか。

kawaraカフェの次に、もつ鍋屋を続けて出店しました。女性でも入りやすくおしゃれなもつ鍋屋で、今も好調です。さらに「HiKaRi」は高層階からの眺望を売りにした洋食の業態、ほかにはイタリアンの「ballo ballo」、ハワイアンの「hole hole」などがあります。

でも、実のところ、業態を開発しているつもりはあまりないのです。一つひとつの物件を吟味し、ここにどんな店があったら行きたいと思うか、どうしたらそのスペースが活性化するかを考えた結果です。私たちは何か特別なノウハウを持っているわけではないし、飲食業界での経験もわずかしかありません。ですから、自分のニーズが他の人の中にもあると確信し、「こうすればそのニーズが満たされるのではないか」と思えたとき、それを理論に据え、整備して組み立て、実践してきました。いわば「完全顧客視点」です。そうすることで、顕在化していないニーズをつかみ、スペースを活かすことができたと思っています。

――音楽やアートとの関係が密接な点に、
他の飲食店にはない特徴があります。

大学や音楽プロダクション時代の交遊のおかげで、デザイナーやアーティストに多くの知己ができました。彼らは自分の作品を見てもらいたいという気持ちがあるので、店作りに参加してもらうと、見事な店内壁画を描きます。結果として一店一店、個性的な内観が実現しています。

これは当社の強みの一つです。音楽やアートの発信の場と飲食がコラボレーションするような事業では、私たちの力が役立つ場面は少なくないと思います。例えば劇場の場合、公演がないときは人がいませんが、カフェがあれば〝普段からのにぎわい〝を創出できます。サブカルチャーと飲食との融合で、新しいフィールドが描けるし、それはぜひ手掛けていきたいと考えています。

――6年間で社員80人の企業に成長しました。
どんな会社作りを意識してきたのでしょうか。

飲食業でもイベント会社でも大切なことは、来てくれた人たちにいかに喜んでもらうかです。その目標を貫き通すためには、徹底した現場主義が必要だと考えてきました。

飲食業でいえば、フランチャイズのように全店舗が個人店であり、各店舗の店長はオーナーと同じという状態がベストです。本部はスケールメリットの確保や情報の共有など店にとってプラスになることを考え、その他はできるだけ現場の判断や裁量にゆだねることを意識的に追求してきました。

エリアが違えばニーズも違うのですから、均質感よりもそれぞれの店の個性が光ったほうが、フレキシブルでスピーディな店作りができます。それは、小さい会社ならではの荒削りな良さといえるものかもしれませんが、会社の規模が大きくなっても失いたくない持ち味だと思います。

そのためにもボトムアップ型を貫きたいですね。役職を飛び越えて意見を言える場を持つように努めていますが、本当の会社作りは、まだ始まったばかりだと思っています。

――最後に今後の目標をお聞かせください。

直営店の出店には今後も取り組み、スペース運用企業として実績を積み上げます。

同時に、カフェなど当社が実績のある業態で、他の外食企業と連携し、芸術施設や商業施設、公共施設のプロデュースなど、大きなプロジェクトも手掛けていきたい。そうすることで仕事の幅が広がり、また新しい方向も見えてくると思うのです。

デザイナーズ和ダイニング‐瓦‐ kawara DINING 渋谷 宇田川
(東京・渋谷)http://r.gnavi.co.jp/a418506/若者でにぎわう渋谷の一画。アーティスティックな内観が魅力的で、若い女性グループが次々に来店。活気を呈している
夜景が望めるダイニング HiKaRi DINING -光- 渋谷本店(東京・渋谷)http://r.gnavi.co.jp/a418508/HiKaRiブランドは、ビルの上層階で都心が見渡せる立地で、都内に4店舗を展開。「太陽と月の光」をテーマに、夜と昼の都会の魅力を満喫できる。料理はスパニッシュ系を軸としたニュースタイルの創作料理。空間の斬新なアートワークも魅力の一つで、若い女性客に圧倒的に支持されている。
隠れ家×個室×デザイナーズダイニング hole hole DINER ‐穂‐ 新宿東口(東京・新宿)http://r.gnavi.co.jp/a418522/3階建て南国コテージ風一軒家で屋上テラスもある店舗。東京の新宿駅から徒歩3分の立地ながら、都会の喧噪を忘れさせる。メニューは和とハワイアンを融合させた創作料理。自家製サングリアも楽しめる。店内壁画はアートユニットgravity freeのプロデュース。各種宴会のほか100名規模の貸切パーティも可能。

Profile

あおの たかし

1980年

福岡県生まれ

1999年

横浜国立大学マルチメディア文化学科入学。各種の音楽イベントをプロデュース

2003年

大学卒業。音楽プロダクションに入社

2004年

同社を退社。株式会社エスエルディーを設立。船上ライブを企画

2005年

東京・渋谷にライブハウス青山LOOP、渋谷区神南に「デザイナーズ和ダイニング kawara 渋谷 神南本店」を開店。以後、カフェ業態を中心に東京、横浜で出店

Company Data

会 社 名

株式会社エスエルディー

所 在 地

東京都渋谷区桜丘町22-14 NESビルN棟1階

店 舗 名

「デザイナーズ和ダイニング kawara 渋谷 神南本店」「夜景が望めるダイニング HiKaRi DINING -光- 渋谷本店」「デザイナーズ隠れ家個室ダイニング ‐離‐ HANARE 銀座」「新和空間×新和食ダイニング かわら坐 kawara-za 渋谷」ほか

※本記事の情報は記事作成時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報はご自身でご確認ください。

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