2013/04/02 挑戦者たち

株式会社オー・エム・フードサービス 代表取締役 山本 義之氏

「従業員が心底楽しんで働ける環境を作り続けていく」。それが山本氏の変わらぬ想いだ。名古屋市を中心に着実に事業を拡大しほぼ全店で異なるブランドを経営。“ぶれない”山本氏の信念について伺った。

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飲食業界で1番給与水準の高い会社にし、終身雇用を目指したい

「従業員が心底楽しんで働ける環境を作り続けていく」。それが、株式会社オー・エム・フードサービスの山本義之社長の変わらぬ想いだ。2006年に起業後、愛知県名古屋市を中心に着実に事業を拡大。昨年から今年にかけては一層、精力的に出店戦略を展開し、現在は全16店舗、ほぼ全店で異なるブランドを経営する。“ぶれない”山本氏の信念について伺った。

――以前は不動産会社に勤めていたそうですね。なぜ、飲食業界で独立しようと?

高校生の頃から、漠然と「独立したい」とは考えていました。でも、具体的にどのような仕事が自分に向いているかわかりませんでした。高校卒業後、建設会社と不動産会社でそれぞれ約4年間働くなかで、「仕事を通じて家族のような仲間を作りたい」「多くの人に喜ばれる仕事がしたい」と考えるようになったのがきっかけだったように思います。

不動産関連の仕事では、主に営業を担当していました。この仕事は規模も、動かすお金も莫大です。その点では大きなやりがいがありましたし、社会人として成長することができました。ただ一方で、周りの人たちと常にライバル関係でいることに、違和感を覚えるようにもなりました。私は、職場の仲間と家族のような間柄になって、一つのものを作っていきたいのだと、気が付いたのです。

そんなとき、友人と一緒によく通っていた飲食店で、ふと働く人たちを眺めてみると、とてもイキイキとしていて、みんな楽しそうに見えました。スタッフはまさに家族のようで、彼らは街中の人々をお客様にしている。従業員とお客様がこれほど密接に結びつく仕事はほかにないのではないか。そう感じて、すぐに飲食業界に飛び込みました。

――まったく未経験の状態から、どのように飲食店開業までこぎ着けたのですか?

独立を見据え、視察していた飲食店の一つの創作和食店にアルバイトとして入り、すぐに社員採用していただきました。そこでキッチン3年、店長1年半の計4年半、イロハを学んだのです。

ここで学ばせていただいた4年半は、非常に大きかったですね。料理の技術はもちろんですが、店長という仕事を通じて、飲食店で一番大切なことを教わりました。それは、この仕事を心底楽しんで働く「人材」です。「人材」と「おいしい料理」、この2つが揃えば、店舗は着実に成長するという強い確信を得ることができたのです。

そして、意を決して2006年7月、オー・エム・フードサービスを設立し、9月には名古屋の中区・錦に和食店「しゃなりしゃなり」を出店。オープンにあたっては、徹底的にシュミレーション・リサーチを行い、失敗の確率は0%といえる程の準備で臨んだため、平日でも満席状態が続きました。2号店を考え出した時に2階のテナントが撤退したので、そこを借り受け増床しました。ここ最近は出店のペースも早まっています。昨年は4店舗、今年は4月に、同じビル内の3フロアでそれぞれ異なる業態3店舗をオープンします。

1975年 愛知県名古屋市生まれ/1993年 高校卒業後、建設会社に入社/1997年 不動産会社に転職/2001年 株式会社イー・フィールドに転職/2006年 株式会社オー・エム・フードサービスを設立して独立。1号店「お座敷和食しゃなりしゃなり」をオープン/2012年 「魚河岸酒場 丸八水産」「LEONESTA」など4店舗オープン/2013年 同じビルの3フロアで3店舗同時オープン

――着実に成長していますね。異なるブランドを展開し続けていますが、その意図は?

弊社では経営効率の観点から、ドミナント戦略を貫いています。私自身の地元であり、土地勘のある名古屋市名駅から栄までの2キロほどのエリアに集中して出店し、そのなかで客層が重ならないようにしています。

どんなお店にするかは、各物件の立地や特徴から判断しています。ですから、物件選びは慎重です。基準は人通りの多さ。特に独立後2~3年は、名古屋中の不動産屋を巡り、これだと思える物件に巡り会えるまで決して妥協しませんでした。

また、様々な業態を出店することで、多様な人材に能力を発揮してほしいという狙いもあります。燻製肉が売りの「LEONESTA」は、イタリア料理のシェフと出会い、一緒に業態を考えたものですし、「ACミランカフェ&リストランテ」には、パティシエやソムリエが常駐しています。

各店舗の個性を際立たせるために、物件の広さは50坪程度という目安があります。ある程度の大きさの店舗にすることで、店長にしっかり権限を委譲しながら、従業員とのチームワークで店舗を築いてほしいと考えています。

――経営の根幹に、常に「従業員の働きがい」という視点があるように感じます。

その通りです。私は飲食業のQSC(商品のクオリティ、サービス、クレンリネス)の起点は、すべてES(従業員満足度)だと考えています。多店舗化も業態開発も、それ自体が「目的」ではなく、活躍できるフィールドを増やすための「手段」。当たり前の発想かもしれませんが、この当たり前のことをやり続けることが大切だと考えています。

飲食業界は、まだまだ就労環境が十分に整っているとは言えません。それが、この業界の地位向上のボトルネック(妨げ)にもなっている。実際、私自身もかつて大切な社員から「結婚するので退職したい」と告げられたことがあります。就労時間や経済的な要因から、結婚を機に飲食業を辞めようと考えるスタッフがいる。「従業員を幸せにしたい」と考えて会社を興したのにも関わらず、それが実現できていないことを強く恥じました。当たり前のことを続けることこそ、従業員もお客様も幸せになれる方法なのだと痛感したのです。それ以来、「給与水準の高い会社」「社会保障の整った会社」を目指して、取り組み続けています。

特に意識しているのは、たとえアルバイトであっても、会社の考え方をきちんと理解して働いてもらうこと。その一環として職場の定期的なローテーションを行っています。様々な店や人に触れ、私たちが大切にしていることを理解してもらうようにしています。結果、当社の社員は全員、アルバイトからの登用か、社員の紹介です。明確な目的意識を持って入社した社員たちは、細かく指示を出さなくても自分の頭で考えて行動してくれます。

ただ、それぞれの個性を発揮するだけでなく、会社として方向性は一つに向かわせる必要もあります。そこで定期的にミーティングを行うほか、月に一度は全店舗での交流会を開催し、年に一度はアルバイトも含めた全スタッフで旅行にも出かけます。

よく「お客様は神様」と言いますが、お客様に満足していただくためには、まず、やりがいを持って働く従業員の存在が不可欠です。私は従業員が幸せに、一生働き続けられる会社にしたいと思っていますし、それが人を雇用する立場である経営者の責任だと思っています。

「関わる全ての人の幸せの最大化」を理念に掲げる同社では、会社の方向性を共有するためにも、スタッフが交流する機会を頻繁に設けている。ある店舗スタッフは、山本社長をこう語る。「社長とは思えないぐらい身近な存在。相談をもちかけるといつでも親身に聞いてくれる。本当に尊敬しています」

――最後に今後の展望と、この仕事にかける意気込みをお聞かせください。

名古屋で一番、給与水準が高い飲食会社にしたい。そのために、結婚したスタッフや女性がもっと働きやすくなるよう、今後は昼の時間帯をメインに営業する店舗を増やし、数年後には昼と夜の店の割合を半々にしたいですね。また、店舗のエリアも拡大したいと考えています。すべて、従業員のモチベーションを上げる一環です。

実は私は、この仕事を“仕事”と思ったことがありません。店舗で働くこと自体が大好きですし、仲間に喜んでもらえることが単純に嬉しい。ある年の誕生日に、社員からもらった色紙は忘れられません。「一生の付き合いになりますのでよろしくお願いします」と書いてありました。喜びとともに、経営者としての責任も強く感じました。これからも終身雇用の会社を目指し、従業員の喜びをお客様の喜びにつないでいく努力を続けていきます。

LEONESTA(名古屋市・中村区)
http://r.gnavi.co.jp/n613911/
薫製した様々な肉料理を楽しめるバル。気軽な食事だけでなく、2階は団体客向けに着席で最大60名まで対応するスペースを用意している
しゃなりしゃなり(名古屋市・中区)
http://r.gnavi.co.jp/n613900/
地下鉄伏見駅から徒歩1分のオフィス街に立地。同店の自慢は、素材から出汁、火入れまで徹底的にこだわった職人手作りのおでんと、新潟の名酒・八海山。鮮魚は、料理長自ら仕入れるほか、八海山との相性を考え、料理にも新潟の素材を用いるなど、工夫が満載。夏には夏季限定の純米原酒も楽しめる。
ACミランカフェ&リストランテ(名古屋市・中区)
http://r.gnavi.co.jp/n613909/
イタリア・セリエAの名門ACミランの、世界で唯一のクラブ公式レストランとして注目を集める。料理はイタリアで修行を積んだシェフによる本格派。もちろん、セリエAやチャンピオンズリーグなど、ACミラン関連の試合を店内で放送し、サッカーファンからイタリア料理ファンまで幅広い客層に親しまれている。

Company Data

会社名
株式会社オー・エム・フードサービス

所在地
名古屋市中区錦1-20-6 高木ビル2F

Company History

2006年 株式会社オー・エム・フードサービス設立
     1号店「しゃなりしゃなり」オープン
2008年 「NIPPON 遊宴 しゃなり庵」オープン
2011年 「韓国厨房ソウルドラゴン」オープン
2012年 「ACミランカフェ&リストランテ」オープン
     「BAR LEONE」オープン
     「魚河岸酒場 丸八水産」オープン
     「LEONESTA」オープン
2013年 名駅3丁目に「八海山 越後屋」「博多 赤虎」「BASARA」を同時オープン予定

※本記事の情報は記事作成時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報はご自身でご確認ください。

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