2026/04/03 特集

渋谷の老舗「BAR BOSSA」に学ぶ、個店が危機を乗り越え「唯一無二」であり続ける秘訣

東京・渋谷駅から徒歩10分足らずの奥渋谷の一画に、1997年にオープンした「BAR BOSSA(バール ボッサ)」。ボサノバをテーマにワインバーとして30年近く愛され続けているカウンターに立つのは、店主の林 伸次 氏。リーマンショック、東日本大震災、コロナ禍など数々の危機を乗り越えてきた、小さな個店の取り組みを林氏に聞いた。

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数度の危機を救ったのは、唯一無二の存在感

  • 「BAR BOSSA」の外観。白壁と木の扉や窓枠がどこか懐かしさを感じさせる佇まい
  • 控えめな店名看板がクール

「BAR BOSSA」は、渋谷駅前の喧騒から離れた閑静な一画にやや控えめに佇んでいる。近隣のビジネス層だけでなく、遠方や海外からも「目指して来る店」として知られ、客層も20代から50代を中心に幅広く、常連客もグループ利用もある。

ハイチェアーのカウンターは6席。外の通りを望める、開放感のある造り
13坪ほどの店内にはテーブル8席と半個室(6席)を配置。デートからグループまで広く利用可能

テーマは「ボサノバ」と「ワイン」。この軸を貫きつつ、時代の荒波をかわしたり、流れに乗ったりしながら閉店の危機を幾度も持ち堪え、30年もの間、店を守り続けた秘密に迫る。

【店舗Data】
BAR BOSSA(バール ボッサ)

業態:ワインバー
席数:20席(カウンター、テーブル席、半個室)
客単価平均:2,500円台
客層:20~50代を中心に幅広い。遠方からの目的来店(国内外)
ビジネス層・カップル・グループ
住  所:東京都渋谷区宇田川町 41-23 第2大久保ビル 1F
アクセス:JR・地下鉄渋谷駅ハチ公口より徒歩15分
営業時間:17:00~24:00
定休日 :日曜日・祝日
https://r.gnavi.co.jp/d9ef36vc0000/
https://www.instagram.com/barbossahayashi/

目次
1.【コンセプト】音楽と執筆を軸にした企画と発信
2.【メニュー】リーズナブルな価格と尖りすぎない構成
3.【接客】一人一人に合った居心地の良い距離感

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1.【コンセプト】音楽と執筆を軸にした企画と発信

ガラス越しに見える店内の風景。談笑する店主の林氏

最初の危機は2000年代の半ば。カジュアルなワインバルがブームになり、「当店のようなオールドスタイルは次々に閉店していきました」と林氏は振り返る。2008年のリーマンショックの影響も加わり、近隣のビジネス層の足が遠のいていった。そんな苦境のなか、店を支え、再び活気をもたらしたのは「ボサノバ」の存在だった。

実は林氏、店主の傍らボサノバの音楽サイトを運営するほどの愛好家。もともと店もボサノバ愛がベースで、店内にはボサノバの曲が流れ、中古レコードの販売も手掛けていたのだ。こうした店としての個性が音楽サイトを通じて広がり、次第にミュージシャンらの来店が増加。音楽という文化が店継続の原動力となっていった。

その後も2011年東日本大震災、2020年新型コロナウイルス感染症の拡大、現在の円安・物価高と抗いがたい大波が襲う。震災後の不安の中で2011年に始めたのがFacebookでの執筆活動。初めはボサノバとワインをテーマにしたエッセイだったが、店で感じた恋愛模様なども書き始めたことで読者が増え、執筆依頼も舞い込んできた。「おかげで音楽関係者以外にも店が知られるようになり、新規客が増えていきました」(林氏)。

  • レコードでボサノバをかけるバーは珍しく、訪日観光客からは「日本ならではの魅力的なスタイル」と評されている
  • 棚にあるボサノバのレコード。右側がブラジルの作曲家・演奏家・歌手として名高いアントニオ・カルロス・ジョビン

そして、コロナ禍を経た現在、「BAR BOSSA」は感度の高い若者や外国人たちに、唯一無二の存在感を放っている。「渋谷は世界でも有名なレコード都市。その文化を愛する人々が当店にも足を伸ばしてくれます」。今では、ワインを片手にボサノバのレコードを聴く至福のひとときを求めて、世界中から「行きたい店」として熱い視線が注がれている。

こうして振り返ると、開店から現在までの歩みは、店を語る企画を積み重ね、それをインターネットで発信し、圧倒的な差別化を維持してきた歴史と言ってもいいだろう。

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2.【メニュー】リーズナブルな価格と尖りすぎない構成

ワインのセレクトは、J.S.A.ソムリエ・エクセレンスでもある林氏の妻・ミキさんだ。最初はフランスワインのみだったが、近年の円安による輸入ワインの高騰に対応するため、日本ワインをラインナップに加えている。若い世代を中心に日本ワインへの人気が上昇していることも背景にある。

ブラジル料理2品とフランスの赤ワイン、日本の白ワイン
  • 「リンギッサ(2本)」(1,300円)。ブラジルの濃い肉汁たっぷりのソーセージ。右はブラジルの万能野菜ソース「モーリョヴィナグレッチ」
  • 「ムケッカ(ライス付き)」(1,200円)。アフリカ料理によく使われるココナッツとやし油、ポルトガル料理のバカリャウを使ったシチュー。ライスにかけて食べるのはブラジル・ネイティブのキャッサバにシチューをかける風習のなごり
写真右は木谷ワイン(奈良県)がつくるナチュラルワイン「Take Orange Easy」(オレンジワイン)。同左はフランスのピトン・パイエ(ドメーヌ)による「St Nicolas de Bourgueil(サン・ニコラ・ド・ブルグイユ)2018」(赤ワイン)

驚くべきは、ワイングラス1杯1,000円の価格設定。「予想よりも若干安いと再来店しやすい」(林氏)からだ。一方、フードは定番のバーメニューのほか、ボサノバつながりでブラジル料理を2品提供。客層を狭めないため、「ブラジル料理の専門店にならないことにも気を配った」と林氏は説明する。

“軸を持ちつつ尖りすぎない”店づくりも、長く愛されるポイントの一つかもしれない。

  • 定番のミックスナッツや季節のチーズのほか、ブラジル料理、デザートもある
  • ワインは赤、白、スパークリング、オレンジ、ロゼを取りそろえ、グラス1,000円はかなりのお値打ち。デザートワインもある
ワインはすべて林氏の妻・ミキさん(J.S.A.ソムリエ・エクセレンス)のセレクト
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3.【接客】一人一人に合った居心地の良い距離感

バーにとってバーテンダーの接客術は、居心地の良さの要と言える。林氏が心がけるのは「一人一人に合った距離感」だ。

中古レコードを販売。実際に手に取りながら選ぶワクワク感はネット購入ではかなわない楽しみ

例えば、「再来店のお客様でも、そのことに気付いてほしい人もいれば、気付かれたくない人もいます」と林氏。それぞれが快適な時間を過ごせるように、「この話題なら大丈夫という確信がないうちは、たとえ天候のことでも僕から持ちかけたりしません」という。ちょうど良い距離感は人によって千差万別。林氏が測るこの繊細な距離感は、「BAR BOSSA」の“誰にとっても居心地の良い空間”の重要な要素となっている。

こうした一人一人の「個」を尊重する姿勢をベースにしながら、一方で林氏は、店を舞台にした新たな交流のあり方にも意欲的だ。数年前より、BAR空間を出会いと交流の場として「婚活パーティー」を企画。そのほか手作り雑貨のフリーマーケットも開催するなど、店主としての目配りを土台に、多角的なアプローチでファンの層を広げている。

  • 2〜3カ月に一度、婚活パーティーを開催し、出会いと交流の場をプロデュース。他にフリーマーケットも開催
  • 林氏の最新刊「世界はひとりの、一度きりの人生の集まりにすぎない。」(2026年1月幻冬舎文庫)

現在、店は週末を中心に満席が続くが、本やnoteなどでの執筆業も順調な林氏は、著述1本に絞ることも考えたそうだ。「でも、この店があるからこそさまざまな人と知り合うことができ、物書きとしての幅が広がっています」と二刀流の継続を決意。そして、いずれ直面する課題として「酒の健康リスク」を挙げ、「WHO(世界保健機構)は健康のためにはお酒を飲まないことを推奨していて、日本でもすでにノンアルコール・バーが登場しだしています」と紹介する。禁煙に次いで禁酒がスタンダードになるかもしれない未来。それを見つめるまなざしは深く、そして冷静である。

オーナー 林 伸次 氏
1969年、徳島県に生まれ、大学進学のために上京。中古レコード店、ブラジル料理店、ショット・バーに勤めたのち、1997年、渋谷に「BAR BOSSA」をオープン。物書きとしても活躍中で、ワイン、ボサノバ、バーの日常や恋愛模様などを中心にエッセイや小説などを執筆し、著書も多数。

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