2017/09/12 特集

リーダーでチームが変わる、店が変わる! 店長は「指揮官」

飲食店は、店長次第で空気が変わり、売上が大きく伸びるケースもある。店長とは本来どんな存在で、どんな役割があるのか。目指すべき店長の姿をコンサルタントに聞くとともに、大阪の“できる店長”を訪ねた。

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飲食店は、店長次第で“空気”が変わり、売上が大きく伸びるケースも珍しくない。では、店長とは本来どんな存在で、どんな役割があるのか。そして、そのために何をしたらいいのか。年末の繁忙期を控えた今、目指すべき店長の姿をコンサルタントの中西敏弘氏に聞くとともに、“できる店長”を大阪に訪ね、これまで取り組んできたこと、大事にしていることを紹介する。

中西フードビジネス研究所代表 中西敏弘 氏
1970年、奈良県生まれ。大学時代のラーメン店でのアルバイトをきっかけに、飲食業界に興味を持つ。卒業後、半導体専門販社に就職するが、飲食業への想いが強く、外食コンサルタント企業へ転職。居酒屋の現場を経験後、コンサルタントとして接客研修、店長教育などを個人店・中小飲食企業を対象に展開。その後、大手焼肉チェーンを経て、フードビジネスコンサルタントとして独立。2003年、中西フードビジネス研究所を設立する。

店長の役割とは?プレイヤーではなくリーダー。 戦略と作戦を立て、実行する!

店のコンセプトから、“あるべき姿”を深める

「店長はプレイヤーではなくリーダー、あるいはプレイングマネージャーでなければいけません」。フードビジネスコンサルタントの中西敏弘氏は、こう断言する。しかし、実はこれが意外と難しい。多くの飲食店の店長はプレイヤーとして優秀なので、スタッフに指示を出す前に、つい自分自身が動き過ぎてしまうケースが多々あるのだ。

中西氏は、「店長がプレイヤーになってしまうと、その場はうまくいくかもしれませんが、店内のほかの場面で起きていることを見逃してしまい、“店全体を見る”というリーダーとしての役割が果たせなくなります」と指摘する。

では、リーダーとしての店長の役割とは何なのだろうか。「常に“店のあるべき姿”をしっかりと意識しながら、現実の店の状況も正確に把握する。そして、“あるべき姿”と現実のギャップを埋めるための戦略を練り、作戦を立て、スタッフと共有して実行することが、店長の仕事」と、中西氏は定義する。「店のあるべき姿」とは、「元気で明るい店」といった抽象的なイメージではなく、「どんな客層に、どういうシーンで、どんな商品(料理・ドリンク)を、どう接客して提供するのか」という店のコンセプトのこと。これを実現し、客に満足してもらう店にすることが、店長の役割と言える。

例えば、「40~50代のサラリーマンに九州の郷土料理と酒をゆっくりと楽しんでもらう」ことをコンセプトとする店の場合、接客が明るく元気で、店内が賑やかすぎたりすると、常連の満足度が下がり、全体の客層が変わって、その結果、売上が下がってしまうことがある。そんなとき、店長が厨房に入りっぱなしだったり、ホールスタッフとして忙しく動き回っていたりすると、店全体が見えず、客層と接客のズレに気づくことができない。店長には、料理・接客・内装などすべての面で、こうしたズレをなくすことが求められるのだ。

店を俯瞰(ふかん)して問題点を見つけ、分析し、改善するための作戦を立て、実行する――。そのために必要な力を、中西氏は「考動力(こうどうりょく)」と呼ぶ。店長にこの力をつけてもらうためには、社長やオーナー、マネージャーは、指示を出すだけでなく、店長が自ら考えて動くように促すことも大切。例えば、店の現状を知るためには、「客の満足度」を把握することが必要だが、本部が調査した結果を伝えるだけではなく、店長自身に把握させることも有効になってくる。

その「客の満足度」は、何を指標にすればよいのか。中西氏が挙げるのが、「客単価」だ。宴会客の客単価はほぼ一定なので、なかでも注目すべきはフリー客の客単価。売上票を見てフリー客の客単価が下がっていたら、下の6つをチェックして原因を突き止め、対策を立てる。

また、店の売上目標は本部が立てる場合もあるが、店長が立てられるようになるのが理想的だという。「過去の売上実績から売上予測が立てられます。そこに、店長の“ここまで頑張って達成したい”という気持ちをプラスしたのが売上目標です」と中西氏。ただし、気持ちばかりで高い目標を立ててしまうと、F(材料費)やL(人件費)にムダが生じてしまう可能性があるので、注意が必要。「昨年対比だけでなく、直近の実績や周辺状況など流れを読み取り、根拠と気持ちを持って売上目標を立てることが、店長に期待されていること」と、中西氏は語る。

かつて、外食市場が右肩上がりに成長していた頃は、店長は来店客を効率よくさばき、FLなどの数字をしっかり管理するだけで十分だった。しかし、人口が減少して競争が激化し、ニーズも多様化した現在、飲食店は客に選ばれなくては生き残れない。だからこそ、「店のあるべき姿=コンセプト」を深め、満足度を上げる。そのために、店内のあらゆることに対応できる指揮官であることが、店長には求められている。

アルバイトスタッフの指導・育成について成長のゴールを店長が設定し、日々の課題と目標を示す

「なんとなく働く」ではなく目標を意識させること

飲食店にとって、アルバイトスタッフはなくてはならない存在。彼らをいかに戦力にするかも、店長の大事な仕事。「そのためには、彼らの成長の"ゴール"を、店長が示さなくてはいけません」と、中西氏は言う。ゴールをイメージすることが、アルバイトの成長と達成感を確かなものにするからだ。そのときに大事なのが、「店のあるべき姿」に近づけるため、アルバイトスタッフそれぞれのゴールを決めること。そして、決めたゴールから逆算して、1カ月の目標や毎日の目標を示すことである。

例として、年末の繁忙期を考えてみよう。まず、店長は「店のあるべき姿」から、年末商戦の売上目標を立てる。次に、それを達成するためには店がどうなっているべきかをイメージ。そして、イメージした店になるために、アルバイト一人ひとりの能力や経験に合わせ、いつまでに、どの状態まで成長してほしいという「ゴール」を決め、共有する。さらに、ゴールに到達するため日々の営業でも成長できるよう、毎日、個別の目標・課題を設定する。

毎日の目標・課題は、「指示を受けるのは3回まで。自ら動こう」や、「宴会が重なる時間帯は、バッシングのフォローにも入る」など、店長がその日の営業状況を想定して、具体的に示す。「なんとなく働く」のではなく、目標を意識して働くことが成長の近道なのだ。

閉店後には毎日、それぞれ自己評価をしてもらうとともに、その日の目標がクリアできたかだけでなく、それぞれの「ゴール」と照らした評価を、店長がフィードバックする。それによって自らのゴールを意識し、年末には確実に戦力になる。今年の忘年会対策として、取り組む価値があるだろう。

最近の店長のなかには、アルバイトを叱れない人も多いという。「普段から相手の成長を考えコミュニケーションが取れていれば、気持ちは伝わるはず」と中西氏。臆せず、店長の役割を全うすることが必要だ。

店長が目指すべきオペレーションとは?「来店客の満足」が目標。店長は全体が見えるポジションに!

店長は“ランナー”として全体を見ながらフォローも

毎日の営業で店内のオペレーションをスムーズに回すことは、店長のもっとも基本的な仕事。ただし、オペレーションの目標を、「効率よく回すこと」と捉えてはいけない。中西氏はオペレーションの“あるべき姿”を、「お客様に満足してもらうこと」と断言する。「効率よく回すことは、店側の視点。お客様が喜んでいるかどうかという視点から考えないと、満足度が落ちていても気づかず、危険です」と警鐘を鳴らす。

こうした「お客様視点」を貫くためには、店長が全体を見渡せる、最前線のポジションに立つことが不可欠だ。店の規模や業態にもよるが、30席以下なら、店長がホールスタッフの1人として動いても、全体を見渡すことは可能。ただし、厨房に入りっぱなしになってはいけない。中西氏は、「どれだけ小さな店でも、料理をしながら店全体に目配りすることは難しい」と説く。調理スタッフを育成し、店長がホールに出られるようにするか、小料理屋の女将のような役割のスタッフが必要になる。

一方、60席以上のいわゆる大型店の場合、中西氏が提案するのが、「ランナー」というポジションの設定。大型店の多くは、ホールを「エリア担当制」にしてスタッフを配置しているが、料理を運んだり、食器を下げたりするときなどにデシャップへ移動するため、自分のエリアから離れることもある。そこで、「ランナー」が料理や食べ終わった食器の運搬などを担当。加えて随時、各エリアのフォローも行い、「サッカーと同じようにポジションを徹底させる」(中西氏)ことで、オペレーションが飛躍的に改善するという。

また、「ランナーは店長(社員)が担当すべき」と中西氏。ランナーの人数は店の規模によるが、そのうちの1人を店長が担当することで、オペレーションのフォローをしながら、店全体を把握することができる。ホールスタッフも自分の担当エリアに集中できるので、きめ細かい接客ができるようになるうえ、動く範囲が狭くなるので疲労度が軽減されるというメリットもある。

さらに、中西氏は「想定とシミュレーション」の必要性を説く。「あるエリアで仕事が重なったときを想定し、誰がフォローに入るのか、ほかのスタッフはどう動くのかなどを、営業前にホワイトボードなどでシミュレーションしておくといいでしょう」。ちょうど、サッカーで試合前にホワイトボードを使い、作戦やポジションを確認するのに似ている。飲食店もこれを積み重ねることで現場での対応力が高まり、オペレーションの質を上げることができる。

そして同時に、オペレーションの優先順位を全員で話し合い、共有しておこう。料理の提供、電話応対、来店客の出迎え、会計などが同時に発生したとき、前もって優先順位を決めておかないと、混乱してしまう。意思統一ができていれば、スタッフ同士のアイコンタクトで乗り切れるはず。これは繁忙期ほど重要になるので、忘年会シーズンの対策として検討したい。

ちなみに中西氏は、忘年会コースとして、「値段でなく体験を売る」ことを提案する。「例えば、コースの価格を1つにして、『肉満載コース』『アジアン満喫コース』など、ある種、食の“体験”をアピールするのもおすすめです」(中西氏)。忘年会に向けて様々なことをスタッフと大いに話し合い、イメージを膨らませて年末商戦に挑んでほしい。

繁盛店をつくり出す“できる”店長に学ぶ!オペレーションの改善に成功。来店客の満足度も上がった!

店長 田仲 賢(まさる) 氏
1980年生まれ。子どもの頃からの料理好きが高じて、美容師から飲食業界へ転身。客として「炭焼笑店 陽 北堀江」に通ううち、天満店の立ち上げに際して誘われて、入社。2015年冬以降、天満店の店長として奮闘する。

売上の低迷から脱却し、スタッフの離職も激減!

「炭焼笑店 陽 天満」の苦戦が明らかになったのは、オープンから3年が経った2015年の夏ごろ。それまでスタッフとして働いていた田仲賢氏も、「売上は下がり、辞めるスタッフも多い。なにより店に活気がなかった」と、当時を振り返る。そこで、本部から立て直しのためにやってきたのが、「頭マネージャー」の馬渡雄二氏だった。間もなく馬渡氏は、新たな店長に田仲氏を指名する。「彼の中に熱いものを感じました。店をよくしたい、もっとできるはずと、以前から強く思っていたのだと思います」と、馬渡氏は語る。

店長となった田仲氏がまず考えたのは、「店の雰囲気をガラッと変えること」だった。それまでは、言われた仕事をなんとなくこなすだけで、スタッフ間の人間関係も決して良好とは言えなかったという。どこかギスギスしたネガティブな雰囲気があり、楽しくない。「これではいけない。店長として"スーパースター"になるのではなく、スタッフみんなを"スーパースター"にしようと考えました」と田仲氏。すべてのスタッフが、「自分も主役なんだ」と感じることができれば、店で働くことが楽しくなり、より自発的、能動的に仕事と向き合ってもらえると考えたのだ。

また、スタッフを立て、平等に評価し、誰とでも積極的にコミュニケーションをとった。「実際は、強い言葉で指摘することもあります。でも、叱ったあとは必ずちょける(=ふざける)ようにしています」(田仲氏)。そうすることでスタッフは気持ちを切り替え、前向きになれる。今ではスタッフ全員が親しみを込めて、「田仲店長はちょける天才!」と、口をそろえる。店の雰囲気は確実に変わり、離職も激減。店内には笑顔と活気が目に見えて増えていった。

ほかにも、オペレーションの改善や人員配置の見直しにも取り組んだ(次ページ参照)。毎日、15時に出勤し、17時の開店までにその日の予約やシフトを確認。不備が見つかれば、すぐに手を打つ。「スタッフが自主的に動けるようにすることが、店長の役割。店長が何もしなくても、店が回ることが理想」と田仲氏。売上も上々で、昨年対比はプラスを計上し続けている。

紀州備長炭を使った炭火焼が売りの店。JR天満駅近くに、2013年オープン。店内はテーブル席、掘りごたつ席などがあり、約60席
大和地鶏の「もも肉あぶり焼き」(写真 1,274円)は、「せせりあぶり焼き」(1,058円)と並ぶ看板メニューで、初来店の人に必ず食べてもらいたい一品

店内の人員配置を見直し、「フリー」を設定して成功

「店長として、売上を欲張るのは大切。でも、自分はお客様とスタッフの満足度を上げることを欲張りたい」と、田仲氏は話す。来店客とスタッフ、みんなの満足度が上がれば、必然的に売上アップにもつながるもの。店長の仕事を「みんなの満足度の向上」とするところに、田仲氏の"店長観"が覗く。

その気持ちで取り組んだことの1つが、オペレーションの改善だ。天満店は入口から奥に細長い構造が特徴で、厨房が店のほぼ中央に位置する(下の店内間取り図を参照)。入口手前にテラス席があり、店内に入ると、すぐ右に掘りごたつの座敷席、その奥が厨房で、厨房の前にカーブしたカウンター席、さらに奥にテーブル席、半個室、ロフト席などがあり、全部で約60席。一番奥の半個室やロフト席は、厨房や入口付近からは死角になり、十分な接客をするためには、スタッフの配置と動線を工夫する必要があった。

【テラス席】店頭にはテラス席を設置。ワイルドな木のテーブルと、切り株風のイスでアウトドア気分に
【掘りごたつの座敷席】靴を脱いで足を伸ばせる座敷席。ゆっくりと寛げるので、企業の宴会などに人気だ
【カウンター】厨房の前にあるカーブしたカウンター。1人で気軽に利用でき、スタッフとの会話も弾む
【テーブル席】ロフト席の下にある床がやや下がった空間。おこもり感があり、少人数の集まりに最適
【ロフト席】店内が見渡せる半個室のロフト席。秘密基地のような雰囲気で、予約で埋まる人気席
【テーブル席】ログハウス風の明るいテーブル席。デートから女子会、宴会など、幅広いニーズに対応する
【テーブル席の半個室】店内の一番奥にある半個室。3面を木の壁に囲まれ、落ち着いた温もりのある空間が好評

以前の通常営業時の人員は6人。厨房は焼場、コンロ、板場、ドリンカーの各ポジションに1人ずつで計4人、ホールは2人で、入口近くに出迎え業務のほか、テラス席と掘りごたつ席を担当するスタッフが1人、それ以外のエリアを残る1人が担当する体制だった。ただ、ホールの2人は持ち場が離れており、互いにフォローし合うのは難しい状況。加えて、スタッフ同士のコミュニケーションが乏しく、連携する場面はあまり見られなかったという。

ほかにも改善すべき点があった。「当店のつくりだと、どうしても奥のテーブル席へお客様を案内したくなります。テーブル席の方が座敷席より早く着席できますし、ドリンカーからも近いので、ファーストドリンクが早く提供できるからです」(田仲氏)。そのため、外から見える掘りごたつの座敷席は、空いている時間が長くなる。その結果、店の前を歩いている人たちに賑やかな雰囲気をアピールできず、フリー客に選ばれにくい店になっていたのだ。

そこで、まず、来店客を掘りごたつの座敷席から埋めていくことに。また、入口付近で出迎えるポジションには、店の第一印象を決定づける重要な役割もあるので、声のよく通る元気な女性スタッフを配置した。

さらに、1人だった奥のホールスタッフを、平日は2人に。週末はもう1人増やして3人にし、店全体では最大計8人で運営することに決定。増員したホールスタッフは「フリー」とし、各スタッフのフォローはもちろん、店全体に目を配る役割と位置付けた。

これらの改善策が的中。「オペレーションの問題点のいくつかが解消しました」と田仲氏。入口付近のホールスタッフは、来店客の出迎えと担当エリアである掘りごたつ席の接客に集中できるようになった。それだけでなく、元気な声での出迎えが店を明るくし、来店客の期待感とスタッフのモチベーションを引き上げた。賑わう掘りごたつ席の様子が外へのアピールとなり、フリー客の集客にもつながっている。

また、ホール全体の人員を増員したことで、奥の半個室やロフト席にも目が届くようになり、接客の質が向上。自分の持ち場が忙しくなったときは、「フリーの人にお願いしたり、スタッフ同士でフォローし合うこともできるようになった」(田仲氏)。オペレーションが改善され、スタッフが安心して仕事に臨めるように。フォローし合えることがわかれば、コミュニケーションも活発になり、信頼関係が育つ。当初から求めていた来店客とスタッフの満足度、その両方が高まったことは言うまでもない。

現在、天満店では、スタッフ全員がどのポジションもこなせるよう、シフトを組んで、経験を積ませている。もちろん、フリーのポジションも全スタッフがこなせるようになっているのだが、実際は田仲氏がフリーにつくことが多い。それは、このポジションが最初に"異変"に気づけるからで、「お客様の様子がよく見えるので、改善点や新たなチャレンジのアイデアを思いつきます。忘れないようにメモを取り、後で計画を立てています」(田仲氏)。「物事は結果から始まる」が田仲氏のモットー。「改善による結果を想定し、逆算して計画し、実行に移す」。そこに、店長の役割とやりがいがあるようだ。

“できる”店長のつくり方

株式会社 炭焼笑店 陽 頭マネージャー
馬渡雄二 氏1987年生まれ。辻学園TEC日調を卒業後、焼鳥店、イタリアンなどを経て2012年8月、株式会社 炭焼笑店 陽に入社。現在、難波アムザ店の店長兼マネージャーとして、店長育成などに尽力。

優秀な店長を育てて、今後の会社の発展につなげたい

飲食店における理想の店長とは、お客様の笑顔を創造し、そのために自分の店がどうあるべきか、自分たちに何ができるのかを考え、様々なことに取り組める人だと思います。私自身、店長として新店を立ち上げ、軌道に乗せてから次の店長に引き継いでいるのですが、自らが理想の店長を目指すと同時に、優秀な店長を育てることが、会社の発展に欠かせないと痛感しています。なぜなら、お客様が店に求めているものは立地によっても違いがあり、それをキャッチし、対応できるのは、現場の店長だけだからです。

マネージャーとしては、しっかり店舗づくりができているかどうかの点検や、店長へのアドバイスは不可欠です。入店時の第一印象、ドリンクやフードの提供スピード、BGMのセレクト、空調管理、クレンリネスなど、店の基本については厳しく指導します。飲食店を経営するうえでの大前提ですから。

ただ、お客様が喜ぶことについては、店長が先頭に立って、どんどん自分たちで動いてほしい。本部としても口を出しすぎないように気をつけています。本部やマネージャーの役割は、店長が自ら考え、それを行動に移せるように支えることだと思っています。

そのために私たちは、店長を含めた全社員が集まる全体会議を月2回開き、数字の共有やスキルアップ研修なども行っています。さらに最近は、店長が仕事についての考え方を学ぶ幹部ミーティングも、月1回のペースで始めました。メニュー、人材育成、接客などについて学ぶもので、店長としての思考を一歩深めるための時間です。こうした取り組みを通して、店長の成長を後押ししすることも本部の役目です。

「炭焼笑店 陽 天満」は、田仲(賢)が店長になる前は低迷が続いていて、彼は、「なんとか店を再生させたい」という熱意を人一倍強く持っていました。しかし、当時の天満店では、彼の熱い想いをみんなで共有できていなかったかったのです。そこで、私が店に入ってからは、「一生懸命」や「本気」という言葉を、彼にたくさん発信しました。一生懸命になれば、人は変わるし、店も変えられることを伝えたかったのです。彼はもともと、ポジティブな性格なので、店長になってオペレーションの改善、メニューのブラッシュアップ、仕事の段取りの見直しなど、様々な改革に前向きに取り組んでくれました。同時に、とても人間性豊かで表現力も抜群。スタッフに対しても叱った分だけ必ず笑わせるので、たちまち信頼を勝ち取り、店の雰囲気を明るくすることにも成功しました。売上もしっかり残していますが、なかでも、スタッフが辞めなくなったことは、いちばん大きな成果と言っていいと思います。

今後も、各店の店長をサポートしながら、会社をさらに発展させたい。その手段の1つが、情報の共有と「気づき」です。SNSを使って、毎日、各店長とやり取りをしていますが、文面などから、店長の悩みや異変を察知するのもマネージャーである私の仕事。そうすることで、店長自身もスタッフの異変にいち早く気づくことができるよう、育ってほしいですね。

馬渡氏と各店の店長たちは、毎日LINEで情報を共有。店長は、その日の店の目標を連絡する。その文面などから、店長の異変に気づくこともあるという