2019/03/12 特集

飲食店店長のためのチームマネジメント5つのポイント

人材が入れ替わると、店のチームづくりを一から始める必要がある。では、店長はチームをどうマネジメントしていけばいいのか。飲食店コンサルタントの山川博史氏に、チームづくりの5つのポイントを聞いた。

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更新日:2023.11.23

目次
Lesson1「自己分析」:求められるリーダー像を理解し、自分自身や店の現状把握を!
Lesson2「コミュニケーション」:よい“伝え方”“聞き方”を意識。会話のルール設定もアリ
Lesson3「ミーティング」:いい雰囲気を作るためのルール作りを
Lesson4「目標設定と評価」:小さな目標から段階的にレベルアップ
Lesson5「業務の委任」:小さな作業に分解して教えるのが◎

 人材が入れ替わると、店のチームづくりを一から始める必要がある。では、店長はチームをどうマネジメントしていけばいいのか。飲食店コンサルタントの山川博史氏に、「自己分析」「コミュニケーション」「ミーティング」「目標設定&評価」「業務の委任」という5つのフェーズに分けて、チームづくりのコツを聞いた。

一般社団法人これからの時代の・飲食店マネジメント協会 代表理事 株式会社オフィスヤマカワ 代表取締役 山川博史 氏
23歳で飲食業界に入り、27歳で独立。東京・大阪を中心に居酒屋業態などを10店舗展開。その後、本格的にコンサルティング事業を開始し、現在は複数の会社経営に携わり、クライアント店舗数も300店舗を超える。また飲食経営者や幹部がコンサルタントとしても活躍するためのパーソナルキャリアプロジェクト「一般社団法人これからの時代の・飲食店マネジメント協会」の代表理事として、飲食店経営者の飲食店コンテンツ事業展開やコンサルティング事業構築出版プロデュース・監修を行っている。近著に「これからの飲食店マネジメントの教科書」、監修書「これからの飲食店集客の教科書」(ともにDO BOOKS)がある。

Lesson1「自己分析」 求められるリーダー像を理解し、自分自身や店の現状把握を!

新メンバーを迎える春は、チームを見直すチャンス!

 春を中心に、飲食店では定期的にスタッフが入れ替わる。主力メンバーだったベテラン社員が異動や退職で店を離れることもあれば、転職や新卒採用などで、新たにチームに加わる人もいる。学校の卒業に伴って店を“卒業”するアルバイトがいたり、経験を積んだスタッフに替わって、「アルバイト自体が初めて」という新人が入ってくるケースも少なくない。そういう意味で、チームの力がもっとも不安定になる時期といえる。

 しかし、「この時期は逆にチャンスともいえます」と語るのは、飲食コンサルタントの山川博史氏。「新しいメンバーが入るこのタイミングに、チームマネジメントの方法を見直すことで、これまで以上にスタッフが成長し、意欲的に働けるチームを作ることも可能だからです」。では、そもそも「チームマネジメント」とはどういうものか。山川氏は、「常識や文化の違う人の集まりに対して、それぞれの特徴をつかみ、計画的なコミュニケーションのもと、同意を取りながらひとつのプロジェクトを達成させること」と定義する。特に飲食店は、社員よりアルバイトの割合が多いことも珍しくなく、それぞれの仕事への意欲や目的もさまざま。「年代も価値観もバラバラのスタッフをまとめなくてはならない店長には、高いレベルのマネジメント能力が求められるのです」(山川氏)。

 にもかかわらず、「多くの店長がマネジメントのノウハウを学ぶ機会を与えられていません。そのため、どうやってチームづくりをすればいいかわからず、自分が受けた指導法や経験を頼りにするケースがほとんどです」と、山川氏は断言する。それでも、かつては店長の自己流のやり方でもついてこられる人がほとんどだった。「“見て覚えろ”というスタイルだったとしても、スタッフは受け入れましたし、店長のやり方についていけずにスタッフが辞めても、代わりの人材はすぐに採用できました。でも、今はそうはいきません」(山川氏)。近年の深刻な人手不足によって、飲食業の採用は厳しさを増している。せっかく採用した人が店になじめずになじめずに辞めてしまうと、代わりの人材は簡単には見つからない。「チームを成長させつつ、意欲を引き出し、定着させる力が不可欠です」と、山川氏は力説する。

まず、自己分析をし、店の現状を把握しよう

スタッフのやる気を引き出す店長の要件
①技術=仕事のスキル
②考え方=物事を前向きに捉える力
③伝え方=わかりやすく伝える力
④聞き方=相手への理解を示す力
⑤人間性=感情のコントロール
⑥容姿=清潔感や身だしなみ
⑦忍耐力=成長を待つ粘り強さ

 では、店長がマネジメントを見直そうと考えたときに、何から始めたらよいのか。山川氏は、「まずは“スタッフのやる気を引き出す店長の要件”(上記)を基に、自己分析をしてみてほしい」と言う。その要件とは、

「技術」(仕事のスキル)
「考え方」(物事を前向きに捉える力)
「伝え方」(わかりやすく伝える力)
「聞き方」(相手への理解を示す力)
「人間性」(感情のコントロール)
「容姿」(清潔感や身だしなみ)
「忍耐力」(成長を待つ粘り強さ)

の7つ。「仕事はできるのに、すぐ感情的に怒鳴ってしまうなど、どれか一つが欠けても、よいリーダーとは言えません。すべてが秀でている必要はありませんが、7つのバランスが重要です」と、呼びかける。この7つについて自分の得意分野や弱点を客観的に見つめ直し、日々の業務のなかで改善する意識を持つことが大切だ。

 次に山川氏は、「店の現状を把握するために、スタッフの人物相関図を作ることをおすすめします」と語る。各スタッフがどんな関係か、誰が発言力を持っているかなど、漠然と感覚で把握しているものを実際に書くことで、チームをまとめるためのキーマンなどが見えてくる。「自分が普段どれだけスタッフを観察できているかを知る機会にもなります」(山川氏)。

 そして、この相関図を基に考えたいのが、「チームをまとめていく際に自分をサポートしてくれる『バディ(相棒)』を見つけること」と山川氏は言う。「チームのマネジメントは、自分一人でやろうとしてもうまくいきません。リーダーをフォローしてくれるバディを探し、協力体制をとることが肝要です」。課題が出たときも1人で悩むより、バディに相談して複数の視点からアプローチしたほうが効果的。バディの人選の基準は、「リーダーと価値観が似ていること」「スタッフへの発言力があること」などとともに、ただの「イエスマン」ではなく、リーダーの勇み足や間違いを指摘できる人物であることも、重要なポイントになる。

チーム作りでまず行いたい準備項目
●セルフチェック
上記の「スタッフのやる気を引き出す店長の要件」について、自己分析する。
●スタッフの相関図を作る
既存スタッフの人間性や関係性を相関図に書いてみて、チームづくりの土台として活用。
●バディにする人物を見つける
店の方向性を共有できる人をバディにして、協力体制を作る。イエスマンはNG。

 自分の弱点の克服にしても、マネジメントの方法にしても、いきなりすべてを変えるのは難しい。「春からマネジメントの方法を変えても、効果が現れるのは半年後くらいと考え、“忍耐力”を持って取り組んでください。まずは、自己分析をして自分や店の現状を把握するのが第1歩です」と山川氏。その上で、これから紹介する「コミュニケーション」「ミーティング」「目標設定と評価」「仕事の任せ方」など、具体的なマネジメントのノウハウを理解し、年末の繁忙期に向けてチーム力を最大化できるよう、チームづくりに取り組んでほしい。

■ワンポイントアドバイス
いい雰囲気で新人を迎え入れる準備を!


 せっかく新人を採用できても、最初の対応を間違えると、早期離職につながりかねません。新人の迎え方もマネジメントの大事なポイントです。

 大切なのは「なじみやすい環境づくり」。新人の中には「大変そう」「高い意欲がないと、浮いてしまいそう」と感じると、尻込みする人もいるため、いかに「働きやすさ」「なじみやすさ」「楽しさ」を感じてもらえるかが、重要です。

 そのための第1歩が「挨拶」。もし、「挨拶は、新人や後輩から先輩にするもの」という風潮が店にあるなら、すぐにあらためるべき。先輩から笑顔で挨拶するだけで、安心感を与えられるものです。ただし、目だけの挨拶や、首を動かすだけのおざなりな挨拶では、“ウェルカム感”を伝えられません。そこでおすすめなのが「分離礼」。相手の目を見て「こんにちは、山川です」と自己紹介をしてから礼(おじぎ)をする方法で、相手に気持ちが伝わりやすく、好印象につながります。

 また、新人が疑問に思うであろうことを事前に想定しておき、「○○については●●さんに聞いてね」などと伝えておきましょう。質問することで自然に先輩との会話が増え、チームの輪に入りやすくなります。既存スタッフにも「○○について教えてあげてね」と伝えておき、一人ぼっちにさせないことが大切です。先輩からの声かけや分離礼が定着すると、いい雰囲気や定着率アップにもつながるのでチャレンジしてみてください。

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Lesson2「コミュニケーション」 よい“伝え方”“聞き方”を意識。会話のルールを設けるのもアリ

店長のコミュニケーション能力でチーム力に差がつく

 日々の業務で店長は、スタッフに対して「情報を共有する」「教える」「ほめる」「注意する」など、さまざまなコミュニケーションを取る必要がある。「こうした日常的なコミュニケーションをいかに上手に行うかが、マネジメントにおいて重要です」と山川氏は指摘する。しかし、高圧的な物言いでスタッフを萎縮させてしまったり、逆にスタッフに嫌われたくないために注意できない店長も少なくない。「よいコミュニケーションがとれない人は、“相手のコミュニケーションスタイルに合わせること”ができていない場合が多いです」(山川氏)。具体的には、会話のテンポやテンションを合わせたり、“相手が今どんな状況か”を意識しながら会話をすること。「これは、接客のときにやっていることなので、意識すればできるはず。『自分は店のトップだから、スタッフが合わせるべき』という意識では、雰囲気は悪くなる一方です」(山川氏)。逆に、店長のコミュニケーションが上手だと、スタッフが自然と店長の会話を真似し、スタッフ間のコミュニケーションも円滑になり、さらに働きやすい環境が醸成されていくという。

「伝え方」「聞き方」そして、「忍耐」も重要

 では、具体的にどんなことを意識すればよいのだろう。山川氏は、「7つの要件の『伝え方』『聞き方』『忍耐』が重要」と言う。

 「伝え方」で大切なのが、わかりやすく伝えられているか。「よく、『ちゃんとやって』と言う人がいますが、“ちゃんと”の意味は人それぞれ。何をどうすることが“ちゃんと”なのかを、具体的に示さなければ、伝えたことにはなりません」(山川氏)。

 また、注意をする際は「お客様目線」を使うのも有効。「お客様が不便に感じるから、○○には注意してね」と言うのと、理由も言わずに指摘したり、「ルールだから」と言うのでは、スタッフの納得度がまったく違う。

 一方で「聞き方」にも工夫が必要。スタッフが仕事に関する提案をしてきても、すぐに「ちょっと違うな」「それはうまくいかないよ」と否定から入るのはNG。まず、「なるほど」などと言ってうなずき、スタッフの意見に一定の理解を示すことが重要。そのうえで、実現が難しい提案であれば、別の方法を一緒に考えるなどすれば、意見が通らなくても、スタッフには“聞いてもらえた”という感覚が残るはず。この聞き方を習慣化させると、次第にちょっとしたことでも店長に相談する雰囲気や話し合う気風が育ってくる。逆に「店長に言っても無駄」と思われると、誰も相談しなくなり、チームをよくする提案を聞く機会を失ってしまうのだ。

 また、相手に伝えるタイミングを見極める「忍耐力」も重要。すぐに注意したくても、相手が余裕のない状態のときは、時間をおくほうが聞く耳を持ってくれる場合が多い。

 こうしたコミュニケーションのノウハウは一朝一夕に身に付くわけではない。ときにはバディの協力を得たり、自分よりコミュニケーションが上手な人に伝えてもらうのも有効だ。

■ワンポイントアドバイス
“報・連・相”の徹底には、SNSの活用も有効!


 直接言葉で伝えることも重要ですが、内容によっては文書で伝えたほうがよい場合もあります。特に業務連絡などの「報告・連絡・相談」は、同じ情報をスタッフ全員に共有する必要があります。そういったときに活用したいのが、LINEなどのSNSです。SNSを活用すると、全員が集まらなくても、必要な情報を共有することが可能で、「言った」「言わない」という状況がなくなりますし、チャットのようにやり取りすれば、意思決定を迅速に行うことも可能です。社内イベントなどのプロジェクトを進行させるときも、とても便利です。

 ただし、「ルール」は不可欠。不適切な画像や動画を送信することは問題外ですが、誹謗中傷をしない、長文は控える、深夜には送らない、などのルールを決めておくことが大切です。

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Lesson3「ミーティング」 メモを取る・足を組まないなどいい雰囲気を作るためのルールを徹底。チームづくりの初期段階では、スタッフの価値観を知る機会に

目標などを共有しつつ、全員の同意を得るのが目的

 日常的なコミュニケーションとは別に、定期的に行うチームミーティングも大切なマネジメントの場といえる。「店の目標を共有するとともに、課題を解決するためにはどうしたらよいのか、新しく取り組むキャンペーンを成功させるためにはどんな工夫が必要か、といったさまざまなテーマについて話し合い、スタッフのコンセンサス(同意)を得るのがミーティングの目的」と、山川氏。月に1回開催するのが理想的だが、難しい場合は朝礼を少し延長して話し合う時間に充てるのも手だ。

ミーティングをいい雰囲気で進めるためのルール例
●メモを取る
●足や腕を組まない
●発言をするときは必ず
 「はい!」と手を挙げる
●相手の言葉に被せず、
 最後まで話を聞く
●お客様を主語にして考える

 だが、せっかくスタッフのスケジュールを調整して時間を確保しても、“やらされミーティング”になってしまっては意味がない。スタッフが自発的に参加する、充実したミーティングにするためのポイントとして、山川氏は「ミーティングの参加ルールを決めることをおすすめします」と言う。

 その1つが、「メモを取ること」。「意外と飲食店のスタッフには、メモをとる習慣がついていない人も少なくありません」(山川氏)。メモを上手に取るには、ミーティングでの発言や結論などを理解して要点を頭の中でまとめる必要があるため、自然と能動的にミーティングに参加するようになるというメリットがある。

 そのほかに、「足や腕を組まない」「背もたれに寄りかからない」といった、“ミーティングに臨む姿勢”に関するルールづけも、いい雰囲気でミーティングを進めるために効果的。さらに、「コミュニケーション」の項で紹介したノウハウも応用できる。例えば、「お客様を主語にして考える」というルールを設けることで、提案にしても反論にしても「お客様がどう感じるか」という目線での健全な意見交換ができる。「『聞き方』も、相手の意見を頭から否定しないルールを作れば、建設的な議論につながります」(山川氏)。店長が自分ばかり発言したり、知らず知らずのうちに“威圧するようなオーラ”を出していると、スタッフから意見が出なかったり、店長に気に入られるような発言しか出なくなってしまうので、気をつけたい。

2つの「あぶり出し」でチームの相互理解を深める

■価値観のあぶり出しワーク
【今、失いたくないものを3つ挙げるとしたら?】
(例) ①恋人 ②バンド活動 ③ペットの猫
>スタッフの価値観と自分の価値観の違いを知る

【これらを、店での仕事に活かせるかを話し合う】
(例)「バンドのライブ告知やお客さん獲得のためのアイデアは店の仕事にも通じそうだね」
「ペットを連れて飲みにいける店のメリットやデメリットを考えてみよう」
>自店で働く意義ややりがいを感じてもらえる

 新しいスタッフが入ってきて、チームづくりが初期段階のころに行うミーティングの題材として、山川氏がすすめるのが、“価値観”と“いい店の定義”についての「あぶり出しワーク」だ。

 「価値観のあぶり出しワーク」(上記参照)は、まず全員に「今、失いたくないもの」を3つ挙げてもらい、スタッフがそれぞれ何に価値を置いているのかについて、相互理解を深めるというもの。「さらに、それを店の業務で活かせるか、についても話し合えれば、スタッフが“自分の大切なもの”と“店で働く意義”を関連付けて考えられるようになるはず」(山川氏)。

 もう1つの「いい店の定義のあぶり出しワーク」は、それぞれが考える「いい店の条件」を自由に出し合うもの。それらをすべて兼ね備えた店を100点とするなら、自分たちの店は今、何点なのか、どこに弱点があって課題を解決するにはどんな方法があるかなどを話し合う。「実際に改善するのは業務でしかできませんが、改善点を見つけたり、プランを練ることはミーティングでしかできません」と山川氏。

 先述したように、飲食店で働く人は年齢も人生観も働く目的も異なる。それぞれが大切にしているものや、どんな店がいいと思っているのかをお互いが理解することは重要。店長にとっても、スタッフの考えていることを知ることは、マネジメントに活かせる材料を増やすことにもつながるのだ。

【会議やミーティングの上手な進め方とは?】
目的を明確化し、店の成長につなげる! 戦略的会議のススメ

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Lesson4「目標設定と評価」 小さな目標から始めて、段階的にレベルアップ。評価面談や表彰などで次の目標へ意欲を高める

6分野設計シートを使い、継続的に目標の意識付けを

 店やスタッフが成長するために、適切な目標を設定することは必要不可欠。店長には、スタッフが自分の目標を意識し、継続して努力できるように促すマネジメントが求められる。そこで、山川氏が推奨する目標設定ツールが「6分野設計シート」(上)だ。

 これは、スタッフがそれぞれ「仕事面・経済面」「考え方」「健康面・生活面」「教育・学び」「時間(タイムマネジメント)」「人間関係」の6つの項目について自分の課題を克服するための目標を設定するもの。まず、私生活も含めた目標を設定し、その目標を達成するメリットと達成の障害となるものを書き出し、それを踏まえた上で具体的なアクションを決める。この達成状況を毎月ミーティングで確認し、達成したら次の目標を設定していく。

 このシートを導入する際のポイントは、“できるだけ小さな目標から始めること”と“実情に合わせて目標を修正すること”の2つ。「春先など、チームづくりの初期は、スタッフが“やりたい”“できそう”と思える目標を設定したほうがよいです。また、何カ月も達成できない目標は、目標自体が実情と合わない証拠」と山川氏。この場合は、より実現可能な目標に切り替えることが肝心。目標は、7ページで紹介した“価値観のあぶり出しワーク”で出たものに関するものでもよいだろう。「最初は目標を忘れてしまったり、達成できないこともあると思います。“意識して忘れ、実行して忘れを7回くらい繰り返せば習慣になる”という、長い目で見る忍耐力が店長には必要」と、山川氏はアドバイス。まずは、目標の達成より、継続的な意識付けを念頭に置くほうがよいだろう。

評価基準は“店の方向性に合った貢献をしているか”

店の目標を基にスタッフの目標を決めるためのステップ
❶店の目標について意見を集める
❷目標達成のメリットを明確にする
❸目標達成するときのデメリット(課題)を明確にする
❹②と③を踏まえ個人のプランにつなげていく

 また、チーム全体が同じ方向を目指すための取り組みとして、店の目標をベースに個人の目標を考える方法もある。そのステップは上のとおり。まず、“いい店の定義のあぶり出しワーク”(前ページ参照)などで店の目標を決める。その目標に対するメリットと課題を上げ、スタッフごとの目標に落とし込むというものだ。

 「例えば、『もっとお客様に“ウェルカム感”を伝えられる店にする』という店の目標を立てたとしましょう。そのメリットとして、『お客様の満足度が上がってファンが増える』、課題として『笑顔が足りない』『出迎えの声が小さい』などが上がったら、笑顔を増やしたり、大きな声を出すために、スタッフが個人の目標を掲げる、という流れが理想的だ。

 こうした取り組みをしつつ、半年か1年に1回は各スタッフを評価する個人面談を設けることも重要。半年(1年)を振り返って自己評価をしてもらい、店長からも評価や今後の課題を示していく。「評価面談では、最初に『いつもありがとうございます』など、感謝の気持ちを伝えてから始めると、いい雰囲気で進められるでしょう」(山川氏)。店長がスタッフを評価する際のポイントは、目標の達成度のほか、「ミーティングで、お客様視点に立って店の課題を指摘した」「アンケートの“素敵だったスタッフ”に一番多く名前が書かれた」「ヒットメニューを考案した」など、“店が進みたい方向性に合った貢献をしているか”を基準にするとよい。

 これらの評価は昇給やボーナスというかたちで示すこともできるが、「表彰状とちょっとした賞品を用意して、全員の前で表彰するのもよいでしょう」と山川氏。アルバイトであれば、シフトへの協力度などを評価する「チームサポート賞」などを設けて表彰することで、意欲の向上につなげることができるはずだ。

【チーム作りがうまくいく評価制度の作り方とは?】
人材が定着する“いい店”になるために 評価制度を見直そう

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Lesson5「業務の委任」 丸投げせずに、小さな作業に分解して教える。イベントなどはバディをつけて託すと◎

スタッフに任せることで店長もステップアップ!

山川氏が提唱する「任せる」の定義
自分の作業や業務を仕組み化し、誰でもできるように計画的に指揮し、ほかの人にやってもらうこと

 日常的にうまくコミュニケーションを取りながら、いい雰囲気のミーティングを実践し、適切な目標設定と評価で、成長を促しつつ意欲を高めて人材を定着させる。これまで紹介した取り組みを粘り強く継続していければ、チームの中に店長の仕事を担える人材が育ってくるはず。その人に仕事を任せることで、店長にはこれまでできなかったことに着手する時間が生まれる。「勘違いをしてしまう店長がいますが、仕事を任せるのは、“楽をするため”ではなく“店長が次のステップに進むため”です」と山川氏。スキルアップや知見を広める時間に充てて店長が成長すれば、チーム力をさらに引き上げることにもつながる。一方、仕事を任せられたスタッフも、自分の成長を実感し、意欲も向上するはずだ。

 しかし、「店長の中には、“任せる”ということの定義(上)を正しく理解せず、“丸投げ”と思い違いをしている人も少なくありません」と山川氏は指摘する。また、プレイヤーとして優秀な店長ほど、自分が動いたほうが早くて正確なので、人に任せることに二の足を踏みがち。山川氏は、「仕事を任せることのメリットをよく理解するとともに、“任せ方”を学ぶことが必要」と力説する。

習慣化するまで粘り強く要求し続けることが重要

 店長が自分の仕事をスタッフに任せる場合、「自分の仕事を“作業”と“マネジメント”に分け、仕組み化しやすい作業から任せるとよいでしょう」と山川氏は語る。作業の仕組み化とは、一つの作業を小さい作業に分解して、それぞれの作業で満たすべき基準をできるだけ明確にすること。これを実践を交えて教え、習慣化するまで要求し、評価することが重要。「ポイントは一度教えて、そのままにせず、スタッフの習慣になるまで要求と評価を繰り返すことです」(山川氏)。

仕事を任せるうえでスタッフが・・・
●変えていいもの
接客トークや笑顔の示し方、出迎えやお見送りなど、サービス(接客)に関すること。
●変えてはいけないもの
商品管理や衛生管理など独断で変えると命に関わること。企業イメージを毀損することも。

 一方で、仕事を任せる以上は、店長のやり方を継続するだけでなく、スタッフが自分のやりやすい方法に変えたり、独自のアイデアやアレンジを加えることも歓迎すべき。「ただし、“変更してもいいもの”と、“変更してはいけないもの”があることを肝に銘じて、スタッフにも明示しなくてはいけません」(山川氏)。変えてはいけないものは、来店客の安心・安全に深くかかわるQSCのQ(商品)とC(クレンリネス)。具体的には、食材の管理やレシピといったもの。逆に、接客トークなどのS(サービス)に関することは、大いに創意工夫を凝らして積極的にアレンジし、日々進化させたい部分だ。

 こうした店長業務以外に、バーベキュー大会などの社内イベントを行う際も店長主導ではなく、スタッフに任せることで、自分の判断で仕事を進める経験を積ませることができる。「そのときは、必ずバディを組ませ、2人以上で協力して進める体制をとることをおすすめします」と山川氏。1人で担当させると、つまずいたときに気軽に相談できる相手がいなかったり、独断で動きすぎて計画どおりに進まなかったりするからだ。バディと協力すれば“誰かの力を借りて目標を達成する”という成功体験につながり、協力し合う文化の醸成や、チームの一員としての自覚を育むことにもつながる。

 もちろん、任せた仕事が必ず成功するとは限らない。むしろ失敗はつきものだ。「大事なことは、重大な失敗が起こらないようにフォローすること。軽微な失敗であれば、“負のノウハウ”として、スタッフの成長の糧になります」と山川氏は語る。

 トライ&エラーを繰り返しながらステップアップするという意味では、スタッフのスキルも店長のマネジメント能力も同じ。成果が出るまで忍耐強く継続して、人が育ち、定着するチームづくりを進めてほしい。


【コロナ禍を力に変える人材マネジメント】
【前編】~スタッフの意欲&店のQSCはこうして高める!~
【後編】~新人へのアプローチ&これからの飲食店の人材育成~

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