2016/09/13 特集

もう怖くない! クレーム対応術

年末の繁忙期を控え、ぜひとも取り組みたいのが「クレーム対策」。宴会シーズンはクレームも多く、対応に失敗するとトラブルになりかねない。そこで、クレーム対応術を人材教育コンサルタントに聞いた。

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年末の繁忙期を控え、ぜひとも取り組みたいことの1つに、「クレーム対策」がある。宴会シーズンは新規客が多く、リピーター獲得のチャンスだが、クレームも多く、対応に失敗すると大きなトラブルにもなりかねない。そこで、クレームへの有効な対応術を、人材教育コンサルタントの竹内幸子氏に聞いた。

株式会社 応対品質研究所 代表取締役 竹内幸子 氏
クレーム対応のスペシャリストであり、人材教育コンサルタント。会社員時代、電話応対の甲子園といわれる電話応対コンクール全国大会で優秀賞を受賞したのをきっかけに、銀行・損保・生保・クレジット・旅行など、様々な業界でのコールセンターの設立や再構築時の教育支援に携わる。2008年5月、応対品質研究所を設立。現在、一部上場企業を中心に年間100回以上の研修を行い、これまでの受講者は3万人以上。コールセンターでの支援のほか、企業向けCS 研修、新入社員研修、管理職研修など、幅広く活躍する。著書に「相手をイラつかせない 怒らせない話し方と聞き方のルール」(かんき出版)、「相手を逆上させる言い方、感謝される言い方」(宝島社)がある。

クレームとは?リピーター作り、サービス改善のチャンス。クレームの内容と原因を意識しよう

クレームというと、マイナスのイメージが強い。対応に手間と時間がかかるうえ、客の怒声や不機嫌な顔に、落ち込むスタッフも少なくないからだ。

しかし、クレームは必ず起こるもの。株式会社応対品質研究所の竹内幸子氏は、「起こったときに対応だけで終わらせず、次につなげることが大事」と語る。実際、「クレーム⇒再来店につなげるためには?」の図にあるように、商品・サービスのクレーム対応に満足した人の再購入率はかなり高い。飲食店にとってクレームは、リピーター作り、店舗力改善のチャンスなのだ。

では、そもそもクレームとは何なのか?「現実のサービスがお客様の期待値を下回ったときに、クレームが発生する原因になります」と竹内氏。ただし、その中には本来の意味のクレームだけでなく、苦情も含まれるとして、「『苦情』は客の主観に基づく訴え、『クレーム』は対価に見合うサービスではないことへの正当な訴え」と区別する(下記参照)。つまり、クレームとは「客の正当な権利の主張」ということだ。

だが、実際には苦情とクレームの境目が曖昧な場合もある。そこで、竹内氏はクレームの原因に目を向け、①会社の責任によるもの、②応対者の説明や態度によるもの、③お客様自身によるものと、3つに整理する。飲食店で言えば、①は注文と違う料理など、②は店員の不適切な態度、③は好みに合わない味付けなどとなる。「大切なのは、お客様が何を訴えているのか、その訴えの原因は何なのかに意識を向けること」と竹内氏。①②③を念頭に置けば、何が原因で怒り、どうしてほしいと訴えているのか、すなわち「クレームの正体」を捉えやすくなる。

同時に知っておきたいのが、「怒りの正体」だ。多くの場合、クレームを言う人は怒っているもの。だが、「そもそも『怒り』とは第2の感情と言われており、第1の感情である不安・心配・困惑・悔しさなどが、水面下から表に出たものなのです」と、竹内氏は説明する。つまり、自分の期待値を下回る商品やサービスに困惑したり、不満を感じているのであって、最初の段階では、「自分(応対者)に怒っている」わけではないという意識も必要なのだ。

一口にクレームと言っても、原因、現れ方は様々。それぞれのクレームを正確に捉えることが、まず必要になる。

苦情

「料理がおいしくない」など、客自身の感情や価値観に基づく訴え。基本的には店側に責任があるものではなく、賠償の義務は生じない。

クレーム

「オーダーした料理と違う」など、商品が対価に見合わないことへの訴え。客にすれば当然の権利の主張で、店に賠償責任

クレーム対応の基本まず初期消火。解決策を用意し、相手のタイプを意識

クレームが発生したら、「時・場所・人を変えることが有効です」と竹内氏。特に相手が怒っているときは、一呼吸おくことで、落ち着くことも多い。「電話であればかけ直す、店内なら奥の個室に案内する、応対する人間を上役に変える」といった対応も大切だ。

同時に、竹内氏は「初期対応の3ステップ」(上記参照)を提案する。まず、「ご注文したものと料理が違うということですね」と、クレームの内容を復唱。これは客の不満を理解していることを伝える効果がある。次に「不愉快なお気持ちにさせてしまい、申し訳ございません」などと、客の不快・不便・困惑・心配などの気持ちに対して詫び、共感していることを示す。ちなみにこのお詫びの言い方には、実は気持ちに対して謝っているだけという、謝罪の範囲を限定する意味もある。初期対応ではクレームの内容と正確な原因が不明なので、全面的な謝罪は妥当とは言えないからだ。最後は「すぐお調べいたします。ご注文の内容をもう一度教えていただけますか」と一次の対処に留め、解決に向けた話し合いへの準備をする。「この3ステップができれば、初期消火は成功」と竹内氏。「この段階では火種を大きくしないことがもっとも肝要です。ただ、新人スタッフは『お詫び』まででもOK。『一次の対処』以降を先輩に引き継ぐ体制ができていれば、より安心できるでしょう」と、説明する。

そして、この引き継ぎは「エスカレーション=責任者への引き継ぎ」というクレーム対応の重要な要素の1つ。ルール化して、あらかじめ引き継ぐ人間を決めておくことを勧めたい。

続いて、解決への話し合いは、どんなことに注意すべきか。竹内氏が掲げる話し合いの方向性は、競争・回避・順応・妥協・協調の5つ。相手の要望を拒否する場合が「競争」で、逆に要望をすべて受け入れるのは「順応」。「回避」は応対を別の人に代わることで、「妥協」は譲歩できる妥協点を探すこと。「協調」は双方で解決策を創造することだ。「相手や内容によって様々ですが、目標は『協調』です」と竹内氏。重要なのは解決策を用意し、着地点を相手とともに探すことだ。解決策はクレーム対応の武器であり、丸腰では戦えない。さらに竹内氏は、円滑な話し合いのためには、「相手のタイプを把握することも重要」と指摘し、「コミュニケーションの4類型」を示す(下記参照)。「『主導タイプ』は積極的に意見を述べ、議論をリードします。『感情タイプ』は感情表現が先行。『分析タイプ』は事態を正確に捉えようとし、『安定タイプ』は意見を言わず、静観します」(竹内氏)。主導と分析タイプは自己主張が強いので、彼らの言い分を尊重。感情と安定タイプは共感しながら聞き出すようにするなど、それぞれに適した接し方が、満足度の高いクレーム対応につながる。

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