地域連携の一環でジビエ活用に取り組む。シカ肉のバーガーは毎年恒例の人気商品に
Becker's(ベッカーズ)
カフェメニューで手応えを得て、バーガーの開発に着手
首都圏のJR駅構内などに店舗を展開する「ベッカーズ」の全店と、JR東京駅構内の「グランスタ東京」にある「THE BEAT DINER」では、7月15日~9月30日までの期間限定で「国産ジビエ 鹿肉バーガー」を販売している。
両ブランドを運営する株式会社JR東日本クロスステーションが、シカ肉を活用した商品開発に初めて取り組んだのは約10年前。長野県内でシカなどの野生鳥獣による農作物の被害が深刻化している現状を関係者から聞き、地域連携の活動に注力するJR東日本グループとして、状況改善に貢献したいと考えたことがきっかけだという。
捕獲された鳥獣肉の利活用率を高めることを目的に商品開発を進め、2011年、シカ肉を使ったカレーやパスタを駅構内のカフェで販売。用意した8,500食を売り切った。営業開発部 マーケ・販促グループ 部長の森大祐氏は当時を振り返り、「ジビエの知名度がまだ低く、最初は社内でも『本当に売れるのか』と懐疑的な見方が大半でした。しかし、ふたを開けてみればジビエメニューは予想以上に好評で、翌年以降の商品開発に弾みがつきました」と明かす。次のステップとして、基幹ブランド「ベッカーズ」のメニューにジビエを使うことで取り組みを加速させようと、シカ肉バーガーの開発がスタートした。
安定的な仕入れルートを10年がかりで確立
商品開発を進める上で直面したのが、シカ肉をいかに安定的に確保するかという課題だ。食肉卸売会社が扱う一般的な家畜の肉とは異なり、ジビエの場合、専門の解体処理施設を起点とした仕入れルートを新たに構築する必要があった。「仕入れた肉をパティへ加工する工程を引き受けてくれる会社を探すのにも苦労しました。何とか見つかったものの、小規模事業者で生産能力が限られている状態。そのため、シカ肉バーガーの販売初年度だった2013年は、メディアで大きく取り上げられて売れ行きが好調だった半面、パティの生産が追い付かず販売を一時休止した苦い経験もあります」と森氏は振り返る。
この反省から、翌年以降は早い段階から綿密な販売計画を立て、それに沿って捕獲や加工が計画的に進むように、処理施設や加工場と調整。また、地域や時期ごとに捕獲数にばらつきがあるジビエを安定的に仕入れられるよう、一般社団法人日本ジビエ振興協会と連携し、全国の処理施設をネットワーク化する取り組みに参画。1カ所の処理施設に他の施設からもジビエを集めることで、「ベッカーズ」の販売計画に応じた必要な量を仕入れられるようになった。
こうした約10年がかりの体制づくりを経て、現在は、各地の処理施設で解体処理されたシカ肉からパティに使用する部位を長野の信州富士見高原ファームに集約。同じく長野の株式会社大福食品工業でパティに加工し、株式会社JR東日本クロスステーションの倉庫を経て、「ベッカーズ」の各店舗へと運ぶルートが確立されている。信州富士見高原ファームやネットワークの処理施設はいずれも、安心安全なジビエ処理の認証制度「国産ジビエ認証」を取得。森氏は「認証をクリアした施設で適切に処理されたシカ肉を使用することで、安心して味わっていただけるジビエメニューを実現しています」と説明する。
「きっかけづくり」を重視し、味わいをマイルドに
今年で販売9年目となる「国産ジビエ 鹿肉バーガー」。主な購入層は、「ベッカーズ」店舗の客層と重なるビジネス層だが、新しい商品に敏感な若い世代の購入も一定数あり、SNSなどへの投稿を見て購入する人もいるという。昨年まででシリーズ累計販売数は13万食に上り、毎年楽しみにしているファンも多い。レシピを監修するのはジビエ料理に精通し、ジビエの普及活動に尽力する一般社団法人日本ジビエ振興協会の藤木徳彦氏。パティにはシカのウデやスネの肉を使用し、レストランなどで引き合いの強いロースや内モモ以外の部位の利活用率アップに大きく貢献している。「肉を余さず使うことで、資源の有効活用やハンターの利益向上に寄与でき、当社としても原価を抑えて手頃な価格で販売できます」(森氏)。バーガーはこのシカ肉のパティに、ソテーしたあわび茸と、シカのだしを加えたデミグラスソースを合わせている。
9年間でレシピも改良を重ね、当初の“シカ肉らしさ”を前面に出した味から、よりマイルドでクセのない味へとシフト。背景にあるのは、より多くの人にシカ肉を知ってもらいたいという思いだ。「まだ身近な食材とは言えないシカ肉が駅のハンバーガー店で気軽に食べられれば、『一度試してみよう』と思っていただきやすく、そのきっかけを提供するのがわれわれの役割だと考えています。そのためにも、おいしい商品をしっかりと作り上げてお届けするという基本を大切に、引き続き国産ジビエの利活用に注力していきます」と森氏。消費者がジビエの魅力を知る最初の入り口として、シカ肉バーガーは大きな役割を果たしている。
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