2026/04/07 コラボ企画

門前仲町「深川 すし三ツ木」さかな塾の挑戦。江戸前伝統の熟成技法を次世代へ

「サーモンがないのですか」「わさびが付いているのですね」門前仲町の路地裏に佇む「深川 すし三ツ木」では、回転ずしに慣れた来店客からこうした声が上がることがある。77歳の大将、三ツ木 新吉 氏は、こうした時代の変化を受け止めながらも、55年間にわたり一貫したスタイルを守り続けている。

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※スマイラー119号(2026年2月)より転載

今こそ見直したい江戸前伝統の熟成技法

現代においては稀少な存在となりつつある、江戸前ずし

回転ずしチェーンの普及により、多くの消費者は手頃な価格ですしを楽しむ機会を得た。サーモンやマグロを中心とした定番メニューやわさび抜きなど、現代のすし店が提供する利便性は確かに優れている。三ツ木大将自身も「あの価格帯で一定の品質を提供できることは評価に値する」と認めている。

しかしながら、こうした大衆化が進む一方で、江戸前ずし本来の技法や味わい方が一般に知られなくなっている現状がある。魚を一晩寝かせて甘みを引き出す熟成技法、口中でシャリが溶けて魚のうま味が残る握りの加減、職人が目の前で一貫ずつ丁寧に握る付け台の文化。これらは江戸時代から継承されてきた伝統技術であるが、現代においては稀少な存在となりつつある。

「板前であってもカンパチを食べて『これは何の魚ですか』と尋ねる方がいます。熟成させた魚を知らないのです」という大将の言葉は、専門家でさえこうした伝統技法に触れる機会が減少している実態を表している。

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SNSの評価より自分の舌を信じる。職人と対話する食の楽しみ

江戸前ずしの伝統を次世代へ。大将の三ツ木 新吉 氏(左)と店長の大竹 秀和 氏(右)

現代社会において、消費者はクチコミサイトの評価やSNSの情報を基に飲食店を選択することが一般的となっている。こうした情報へのアクセスは確かに利便性をもたらしているが、三ツ木大将は別の視点を提示する。

「甘味、辛味、塩味、酸味、それぞれに個人の嗜好があります。自身の好みを探求することにこそ、食の楽しみがあるのではないでしょうか」。

数値化された評価や他者の感想に依存するのではなく、実際に足を運び、カウンターに座し、職人と対話する。こうした直接的な体験を通じて初めて、真の味わいを理解することができる。大将の店では付け台の文化を知らず、そこに携帯電話を置く若年層の来店客もいるという。しかし大将は「そこから伝えていけばよい」と前向きに捉えている。

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初心者から学べる料理教室。江戸前の技を次世代へつなぐ「さかな塾」

毎月第4日曜日に完全予約制で開催される「さかな塾」

3年前より、三ツ木大将は料理教室「さかな塾」を開始した。当初は釣り仲間からの「魚の捌き方を教えてほしい」という要望が契機となったが、現在では女性客を中心に、魚の下処理から煮付け、卵焼き、手まりずしまで幅広い技術を指導している。

「私が習得した江戸前ずしの技術を、若い料理人に伝えたい。学びたい方がいらっしゃるのであれば、教えなければならない」と大将は語る。

毎月第4日曜日に完全予約制で開催される教室は、定員5名の少人数制である。この形式により、参加者一人ひとりに丁寧な技術指導が可能となっている。

なお、三ツ木大将は釣り竿職人としても「優秀技能者」の表彰を受けており、40年間にわたり竿作りを継続している。毎週深川の船宿から釣りに出かけ、自ら釣り上げたタチウオ、ハゼ、カワハギが店頭に並ぶこともある。すし、竿作り、釣り、料理教室。これらすべてに共通するのは、技術を次世代に残したいという強い意志である。

病を乗り越え守り抜く暖簾。大竹店長と二人三脚で歩む門前仲町の老舗

かつて門前仲町には多数のすし店が軒を連ねていた。「この通りだけでも何軒もありました」と大将は振り返る。しかし現在、「深川 すし三ツ木」は地域に残る数少ない伝統的なすし店となっている。街場のすし店は次々と姿を消しており、「私を可愛がってくださったお客様は、もう80歳を超えて亡くなられるか、来店できなくなりました」という現実がある。

15年前、癌により「余命1年から2年」と宣告された際、19歳から43年間一緒に働く大竹 秀和 店長が店に戻ってきてくれた。「引退する年齢ではありますが、秀さんが店長でいてくれるため、まだ続けることができています」と三ツ木大将。

ランチ限定!赤酢シャリとだしが香る、門前仲町名物「あさり丼」

ランチ限定の「あさり丼」。潮の香りとアサリのうま味が広がり、上品な味わいの「あさり丼」。ご飯には赤酢を用いてまろやかに仕上げている

かつて深川の名物として親しまれてきた「深川めし」の提供店が減少する中、地域からの要望に応える形で誕生したのが、ランチ限定の「あさり丼」である。

赤酢を用いてまろやかに仕上げたシャリの上には、ふっくらとしたアサリが贅沢に盛られている。口に運んだ瞬間、潮の香りとアサリのうま味が広がり、上品な味わいが感じられる。さらに途中から特製のだしをかけることで、赤酢シャリとだしの風味が重なり合い、驚くほど軽やかな後味へと変化する。

深川散策の合間に、この一杯は特別なランチ体験を提供する。ここでしか味わえない料理が、下町を訪れる価値を静かに、しかし確実に示してくれる。

五感で本物を体験する。私たちが伝統を未来へつなぐ第一歩

門前仲町の路地裏で、今日も三ツ木大将はすしを握り続けている。そして月に一度、「さかな塾」を通じて次世代へ技術を伝えている。

伝統文化の継承において、私たちができることは決して複雑ではない。その場所を実際に訪れること、自身の五感で本物を体験すること、そしてその経験を周囲に伝えること。こうした行動の積み重ねが、伝統を未来へつなぐ重要な役割を果たすのである。

文:TAKA
株式会社enn 取締役会長TAKAさん。コンサルタント会社経営を経て、BPO会社を共同設立。「秘書型広報コンシェルジュサービス」により、飲食店のSNS運用やMeta広告運用を支援している。
取材協力:深川 すし三ツ木
住所:東京都江東区富岡1-13-13
https://r.gnavi.co.jp/96a1dsnu0000/

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