※スマイラー120号(2026年3月)より転載
“劇場型”カウンターで味わう、産地の情景を映す一皿
Instagram上でお店の存在を知ってから気になっており、ついに年始に訪れる機会を得た。
まず、立地が不思議だ。最寄り駅から徒歩15分、個人店のほとんどない閑静なエリアにぽつんと看板がともる。温かな木の風合いが落ち着く店内は、オープンキッチンが目前に広がる”劇場型”カウンター。卓とフラットな高さの調理台で、シェフが火入れや仕上げをしていく様子に客席一同、思わず釘付けになってしまう。
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そして一皿ごとのプレゼンテーションにわくわくさせられる。「白子アカヤマドリダケの餡掛け」に「とろ鰆の炭火焼き」「穴熊のすき焼き仕立て」など時季の食材を味わう一皿が、どこでどんな人によって作られたかという、産地の情景とともに供される。まるで旅先の思い出を語るように楽しげな店主の料理愛が客席まで染み渡り、気持ちまで温かく満たされていくような食体験だった。
「何料理?って聞かれると困るんですよ」と笑いながらも、この料理に通底(つうてい)するのは“和の心”だと話すのは、料理人の當島 修弥(とうしま しゅうや)さん。パティシエールの津村 美稲(つむら みいな)さんととも共に2023年よりこの店を営んでいる。
山のジビエから海の珍味まで、日本各地から集めてくる力強い食材をメインに、炭火焼きやスモークなどバリエーション豊かな調理法と枠に捉われない自由な発想で、日本人の舌に合う味わいに見事にまとめ上げる。その腕の確かさは、一度食べれば年代を問わず誰にでも伝わるはずだ。
コースを締めくくるのは、津村さんの仕立てるデザート。瀬戸内産のレモンや長野県産の紫芋など、生産者の顔の見える食材を使った目にも麗しいスイーツは店内のショーケースにも並び、テイクアウトも可能。タイミングによりコーヒーとともに店内飲食もでき、特注のオーダーケーキも承(うけたまわ)る。
「コンセプトはこれです、と店側であえて言葉にしていなくて、お客様側がそれぞれに持っていてくれればいい」と話す當島さん。筆者が言い表してみるならここは「食べる人にも旅をさせてくれる」そんな料理屋だと思う。
日本各地の旬を求めて旅する独自の営業スタイル
営業スタイルも一風変わっている。木曜〜日曜の夜に店を開け、週の前半は定休日。メニューは現在、事前予約制のコース一本に絞っているが、空席があれば当日の問い合わせにも柔軟に対応する。
営業外の日はというと、彼らは仕入れの旅に出ている。北から南までその時期、その土地でしか出回らない味わいを求めて、ご縁のある生産者のもとへ飛び回る。店を持ったら張り付きになって気軽な移動が叶わなくなる、というイメージを勝手ながら持っていた。
しかし二人は全国を日常的に渡り歩きながら場所を持って料理屋を営み、ときには他の飲食店とのコラボイベントで地方遠征して料理する機会もある。そんな軽やかなスタイルに至った経緯を伺うと、二人の職人としてのキャリアの来歴に理由のすべてが詰まっていた。
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多彩な経験と“縁”が育む唯一無二の和の心
「ぼくらはご縁で動いてるんですよ」という同店の仕入れ先の一例は、北海道の養鶏場、長野県のきのこ採り名人、瀬戸内の柑橘農家など。尊敬する生産者や業者の元に赴き、育成や収穫まで師の教えを乞いながら、自ら手を動かして真摯(しんし)に学ぶ。そんな同店のパートナーの多くは、二人がこれまでに住み込みで働いたことのあるゆかりの土地や、かつてお世話になった恩人であったりする。
當島さんの料理経験は、お若いながらここに書ききれないほど多才だ。地元大阪で焼肉店に勤めたのち、オーストラリアに渡りミートファクトリーで精肉現場の修行。フレンチやアジアンフュージョンなど飲食店の門も果敢(かかん)に叩き、異国の地であらゆるジャンルの調理スキルを積んだ。
帰国後は「日本の食材をもっと知りたい」と石垣島、長野県など各地を移り住みながら市場に出回ることの少ない食材と出合いを重ね、北海道八雲町では漁師として帆立の養殖を手伝っていたこともある。そんな日々を通して生産者との人脈、信頼関係を培ってきた。
津村さんは製菓学校を卒業後、産地に関心を寄せて広島県の柑橘農家で働いた。しまなみ街道、生口島の飲食店での調理・製菓の修行の後に、北海道に移りレストランの立ち上げに携わり、そこで當島さんと出会う。津村さん曰く「あちこちで働いてきた中で、瀬戸内の海の夕景や、その土地土地で眺めてきた大自然、そういう忘れがたい光景が作るものに溶け込んでいると思います」。
和光市の地元愛から誕生。「応援される店」が拓く新たな勝機
そもそもなぜこの場所で? という問いに対して「和光市は私の地元で、ちょうど物件が空いたと聞いて、お店をやらない? と彼に提案してみたらトントン拍子で出店が決まりまして」と津村さん。
客層は主に食を愛するお客様で、口コミやSNSで気になり遠方からでも足を運んでくれることが多い。しかしそれだけでなく、地元のお客様も少なからず来店されることが、このお二人の醸し出す「感じの良さ」を体現していると思う。小さなお子様のいるファミリー客も喜んで出迎え、中にはなんと毎日いらっしゃる近所の80代の常連様もいるそうだ。
一般的なイメージからすれば、閑静な住宅街で1万円を超える客単価は強気に思える。しかしそもそも彼らは、そういった業界の定石からスタートしてはいなかった。各地での経験から立地による客層変化に実感を持つ當島さんだが「営業を始めてみて、この場所、コース料理もいけるなという手応えがありました」と言う。
営業スタイルも決め込まずに、お客様の反応を見ながらどんどん変えていき、オープン時は立ち飲みのブラッスリーからスタートして現在は着席のコース提供に落ち着いた。口コミで評判が広がる前からすでに、この住宅街の立地であってもおいしい料理を求めて訪れる地元客を惹き付けていたのだ。
こういう場所に単価の高いお客様が居るはずがない、と決めつけて諦めるのは簡単だ。しかし逆に捉えれば、店がないからニーズが顕在化していないだけという可能性もあり、個人店の少ないエリアで客層の発掘に成功したならば一人勝ちもあり得る。あくまで大切なのは「価格に見合った価値づくり」であり、それをどの価格帯でやるかだけ。”コース料理は都心で食べるもの”と誰が決めた? と問い返されているような気がした。
「おいしいものを出していたら、どこだってお客様さんは来てくれます」どんと構えた二人の笑顔は眩しい。當島さんはかつて、世界トップレベルのシェフに店づくりの極意を尋ねたことがあるという。返ってきたのは「応援されるレストランを作ることかな」という言葉だった。誰にも愛される店主の素朴な人柄と、食材への尽きぬ愛、そこに命を吹き込む技と表現の幅。「うちの食材も使ってくださいよ」と、仕入れ先の縁も営業を続ける中でいつしか広がってきた。作り手がなにより楽しそうであるその熱がお客様に伝播して、縁が縁を呼びまた店に帰ってくる。
「食堂かぶら」はそんな循環を生み出しながら“みんなに応援してもらえる店”として、これからもますますにぎわいを増してゆくのだろう。
住所:埼玉県和光市白子2-3-16
https://www.instagram.com/shokudou_cabura/
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