ベトナム発 ホーチミンに本格和食ブーム到来 後編

ベトナムのホーチミンでは日本の飲食店が続々と進出。本格的な日本の味に加え、コンセプトが明確な店が評判となっている。ベトナム人の中間層を取り込む、人気の和食店をご紹介する。

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Vol.48

日本の飲食店が続々と進出するベトナムのホーチミン。日本人が作る日本と変わらない本格的な味に加え、コンセプトが明確で、どのように店を楽しんでほしいかを客に伝えられる店が人気を呼んでいる。前編に引き続き、ホーチミンで話題の和食店、特に現地のベトナム人にうけている店をご紹介したい。

ベトナム人が普段通うローカルレストラン。和食店はベトナム人にとって値段が高く入りづらい印象だったが、手頃な値段で気軽な雰囲気の店が増え、和食が身近になってきた
ベトナム人にとって和食といえば「スシ」。マグロやイカなどの握り寿司や、彩りのきれいな巻き寿司も人気だ
ベトナムではラーメンも人気。自家製魚粉と豚骨の旨味がたっぷりのスープと太い平打ち麺のコンビ。写真は「ラーメン・バー すず木」の「魚介豚骨つけめん煮玉子入り」(173,000ドン=約810円)

和食の激戦区では、大衆路線と高級路線がしのぎを削る

2012年9月にホーチミンの中心部にオープンした「トーキョー・タウン」(Tokyo Town)は、2階建て250坪の広々としたスペースに、寿司、焼鳥、お好み焼き、うどん、ラーメンなど9つの店を集めた、日本の祭りの雰囲気が楽しめる屋台村だ。日本の外食業界関係者15人で共同出資し、ホーチミンのなかでも交通量の多い通りに面して350席の大型店を作った。

「トーキョー・タウン」の1階はオープンエアで屋台村の雰囲気、冷房を効かせた2階には寿司カウンターや個室を配置

特徴は、ターゲットを現地の日本人ではなく、ベトナム人に設定していることだ。なかでも急速に増えている年間所得5,000~35,000ドル(約50万~350万円)の中間層に照準を合わせている。「ホーチミン市内のほかの和食店より3割ほど安い価格設定で、一般的なベトナム人でも気軽に来店しやすくしています」と、出資者の一人で現地責任者の秀島耕太氏は話す。実際、来店客の8割はベトナム人だ。

夜になると家族連れや会社帰りの会社員、カップルたちで賑やかさを増す屋台村。一番人気は「寿司の舟盛り」(248,000ドン~=約1,170円~)で、寿司と刺身が全売上の3割を占める。次いで焼鳥、お好み焼きやたこ焼きも人気だ。味つけはベトナム人の好みに合わせて、甘さ、辛さ、酸っぱさを感じられるよう料理ごとに調整している。

店舗は間口を広く取り、外から店内を見渡せる造りで、高級で手の届かない和食のイメージを取り払った。内装を手がけたのは、前編で紹介した日本料理店「春夏冬」の設計も行った「ドリカムアジア」。ホーチミンを拠点に活動する日系の内装&設計デザイン会社だ。同社の小薗一也氏は、最近のホーチミンの和食店の傾向を「『トーキョー・タウン』のような座席数が多く現地の方も入りやすい価格帯の店と、『春夏冬』のような高級路線の店と、2通りに分かれています」と話す。

「トーキョー・タウン」のような店に行く中間層は、2010年にはベトナムの所得人口の26%を占めていたが、2020年には約50%となる見込み(ユーロモニター調べ)だ。この層を取り込むことが成功の秘訣とも言え、和食のファンを増やすためには、なじみやすい味で入りやすい店づくりが求められている。そのため、中価格帯の和食店は焼肉や鍋、ラーメンなどジャンルをはっきりさせ、気軽さを打ち出した専門店が多く、これが現地の人だけでなく、在住日本人にもうけている格好だ。

また、その一方で、日本企業の増加により、接待や商談の場として和食店を活用するニーズも高まっている。ベトナムでは、間仕切を置くだけの店が多く、会話が筒抜けということも多かった。そのため、「春夏冬」のような高級路線の店では完全個室を積極的に配置。中価格帯の店、高価格帯の店がそれぞれ個性を打ち出して、ベトナムで繁盛の道を歩んでいる。

好評のお好み焼きは55,000ドン(約260円)。ベトナム人は鍋料理が好きだが、日本の鍋もやはり人気だ
駐在員の利用も多い 「春夏冬」では完全個室を設置。座席は掘りごたつ、障子や照明カバーに和紙を使い、高級感を演出する
SHOP DATA
トーキョー・タウン(Tokyo Town)
188B Nam Ky Khoi Nghia Street, Ward 6, District 3, Ho Chi Minh City
http://www.tokyotown.vn
COMPANY DATA
ドリカムアジア(Dream Comes Asia Co.,Ltd.)
70 Truong Dinh Street, District 1, Ho Chi Minh City
http://www.dreamcomesasia.com/
※写真は同社が手掛けた日本食の鍋料理店「ドラゴン・ホットポット」の店内

くつろげる空間でラーメンを。確かな味でアジア展開を目指す

屋台村のようなカジュアルな和食店が増えるなか、日本発のラーメン店も出店している。ジャズが流れ、壁面のモザイクがアート空間を演出する、ソファを配置したおしゃれなラーメン店「ラーメン・バー すず木」(Ramen Bar Suzuki)。シンガポールで話題を集めている豚骨ラーメン店が、2013年3月にホーチミンに進出した。日本のラーメン屋の一般的なイメージとは異なる内装について、店長の清水正幸氏は「“ラーメン”と“くつろぐこと”は日本人には相反するものですが、海外では、食事をしてくつろぐのはごく自然なこと。ラーメンを食べた後もゆっくりしていただきたいんです」と話す。

ラーメン屋のイメージをくつがえす、「ラーメン・バー すず木」のモダンな店内。2階はソファ席が中心
photo by Hiroyuki Oki(DECON PHOTO STUDIO)

メニューはオーソドックスな豚骨スープの「純白」、ガーリック風味の「漆黒」、辛肉味噌風味の「真紅」など7種類の豚骨ラーメンだ。日本産小麦粉から作る滑らかな極細麺を使い、豚骨スープは現地の厳選した肉と野菜を長時間煮込んで作る。辛味と甘味と旨味を合わせた“秘伝ダレ”をスープに混ぜて食べるのが特徴。本格的な豚骨ラーメンの味を、日本人に限らず、ベトナムに暮らすあらゆる人に伝えるのが狙いだ。最近、現地英字情報誌でホーチミンのベストラーメン店に選ばれたばかりで、さらに認知が広がりそうだ。今後は、アジア各地での展開も視野に入れているという。

ホーチミンからアジアの主要各都市へは空路で数時間。日本屋台村の「トーキョー・タウン」もまた、ホーチミンでの実績を足がかりにアジア展開を目論む。経済活動が盛んになり、日本企業の進出もめざましいアジア各都市に、ホーチミンのような本格的な和食ブームが到来する日もそう遠くはないだろう。

一番人気の「純白豚骨ラーメン・煮玉子入り」。133,000ドン(約630円)。麺の硬さ、味の濃さ、油の濃さをリクエストできる
店長の清水氏。シンガポールの本店で修業後、ホーチミン店をオープニング時から任されている
photo by Hiroyuki Oki(DECON PHOTO STUDIO)
SHOP DATA
ラーメン・バー すず木 ホーチミン市店(Ramen Bar Suzuki HCMC)
8/5 Le Thanh Ton Street, District 1, Ho Chi Minh City
http://www.suzuki-hcmc.com

取材・文・写真/ナガオヤヨイ

企画・編集/料理通信社

※通貨レート 10000ベトナムドン=約47円

※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。