パリ発 地方のスイーツがパリっ子を魅了! 前編

パリでは地方の歴史ある名店が看板スイーツを引っさげて出店。既存のパティスリーも地方で生まれたスイーツを取り入れる店が増えている。前編ではパリ進出した地方の老舗パティスリーに注目。

URLコピー

Vol.83

常に流行の最先端を行く、食の都・パリ。パティスリーも例外ではなく、有名店はもとより、スターシェフも次々と新しい発想で店を展開し、話題を呼んでいる。そんななか、地方の歴史ある名店が看板スイーツを引っさげ、近年続々とパリに出店している。加えて、パリの既存のパティスリーでも地方で生まれたスイーツを取り入れるところが増えてきた。前編では、パリに進出した地方の老舗パティスリーに注目し、なかでも時代の流れに合ったオリジナリティあふれる戦略で勝負する店を紹介する。

南フランスの銘菓である「トロペジエンヌ」の名店がパリに上陸。本店の味を踏襲しつつ、新しい試みにも挑戦する
フランスの田舎町で生まれたアーモンド菓子「プラズリン」を販売する1903年創業の老舗店は、パリ店リニューアルに合わせてパリ店限定のパッケージ商品を販売
オーソドックスな味だけでなく、新しく開発した味を知ってもらおうと、パリでは珍しく店内に試食を並べている店も

ミニサイズから大人数まで、南仏生まれの定番おやつがパリっ子達の日常に

フランスの地中海沿岸コートダジュールにあるリゾート地、サン・トロぺ。フランスのアーティストたちがバカンスを過ごす街として知られるこの地に、1955年に「トロペジエンヌ」と呼ばれるスイーツがアレクサンドル・ミッカ氏の経営する菓子店から生まれた。同氏がポーランド人の祖母のレシピを再現して売り出したのが最初で、この店はのちにトロペジエンヌの店として「ラ・タルト・トロペジエンヌ」と名称を変え、サン・トロペの人々や観光客に知れ渡っていった。

ショーケースには大小様々な「トロペジエンヌ」が並ぶ。一番人気は「ベビートロペ」(一番手前)だが、週末は大きいサイズを求める家族連れが多い

<

トロペジエンヌは、あられ糖を散りばめたブリオッシュ生地で、特製のクリームをたっぷり挟んだシンプルなスイーツ。同年、映画のロケでサン・トロペを訪れていたフランス人女優のブリジット・バルドーがこの菓子をいたく気に入り、サン・トロペのタルト=タルト・トロペジエンヌと名付けたことから一躍有名になった。巷ではバタークリームとカスタードクリームを合わせた「ムースリーヌ」というクリームを使っていると思われがちだが、本家のトロペジエンヌクリームのレシピは門外不出、半世紀以上経つ今でも秘密を貫いている。

そこから半世紀以上を経て、「ラ・タルト・トロペジエンヌ」は2013年6月、トロペジエンヌ専門店としてパリで老舗のカフェや高級ブティックがひしめくエリア、サンジェルマン・デプレに上陸。エクレアやマカロンなど定番スイーツの専門店が増えており、南仏のお菓子として名高いトロペジエンヌ専門店ということで、パリっ子の間でも話題になっている。

従来は、大人数用(直径約20cm、23ユーロ=約3,080円)と1人用(直径約8cm、5.5ユーロ=約740円)のサイズしかなかったものを、誰でも手軽に楽しめるようにと一口サイズの「ベビートロペ」を販売。こちらは1つ1.7ユーロ(約230円)。2014年からは新フレーバーも登場し、年に2回フレーバーの入れ替えを行うなど、既存の概念にとらわれない店づくりにも精力的だ。バターたっぷりのブリオッシュにクリームという、フランス人の好きな要素に加え、かわいらしい見た目と手軽さから一気にパリっ子のお気に入りになった。

モダンで明るい店内はすっきりとまとめられ、壁には南仏の本店で作られたコンフィチュールが並び、ブリジット・バルドーが掲載された雑誌も飾られている。2階にはカフェスペースも併設し、ショッピングやパリ散歩で疲れた観光客にとっても格好の休憩スポットに。こういった工夫も、気軽にトロペジエンヌを楽しめるきっかけになっている。

壁には「トロペジエンヌ」の名付け親であるブリジット・バルドーの本や、南仏で作られたコンフィチュールなどが並ぶ
2階のカフェスペースはすっきりと落ち着いた空間。休日には多くの人で賑わう
SHOP DATA
ラ・タルト・トロペジエンヌ(La Tarte Tropezienne)
3 rue de Montfaucon 75006 Paris
http://www.latartetropezienne.fr/

アーモンド菓子「プラズリン」の名店のパリ店がリニューアル。伝統と未来が発展のカギ!

パリから南に120キロ、ガディネ地方のベニスと言われるブリアール運河沿いにある美しい街、モンタルジーで生まれ、ローストしたアーモンドにキャラメルがけした菓子が「プラズリン」。17世紀に誕生した菓子で、1903年にマゼ社の創業者がレシピを買い取り「マゼ」(Mazet)を開店。香ばしい糖衣に覆われたスイーツで素朴な味わいはどこか懐かしく、甘さとほろ苦さがあとを引くおいしさだ。

右側「伝統」のスペース。重厚な雰囲気の中に定番のプラズリンが並び、壁には昔のパッケージなどが展示されている

同店のパリへの初出店は1913年とかなり早いが、街の変遷や流行とともに移転を繰り返し、2012年にマレ地区で再オープンを果たした。内装は日本人建築家の米川淳氏が、「エリタージュ(伝統の継承)と未来」をテーマに手がけ、店内の右側は「伝統」、左側は「未来」を表現。伝統あるモンタルジー本店の造りをそのまま複製した「伝統」の右側の壁には、ショーケースが埋め込まれ、創業当時の缶などを展示。ところどころに店の歴史を感じる細工が施されており、創業当時から変わらぬ定番のプラズリンやショコラが並ぶ。本店が描かれたパッケージは、洗練された美しさだ。

一方、左側の「未来」のスペースは、白を基調とした明るくスタイリッシュな造り。現代風のかわいらしいデザインのパッケージがずらりと並び、さながら流行の最先端を行くパティスリーのよう。チョコレートでコーティングしたプラズリンなど、アレンジした新作やポップなデザインのスイーツが並んでいる。

看板商品であるプラズリンのレシピは17世紀から変わっておらず、昔を懐かしんで訪れる根強いファンが多い。有名になった今でも、職人による手作業で銅窯で作り上げられる。一方、流行に合わせ、パリ店限定でプラズリン風味のマカロンや焼き菓子も販売。またプラズリン自体も、最近欧米で話題の柚子や、塩キャラメル、はちみつなどバラエティに富んだフレーバーの開発にも意欲的で、パリでは珍しく、試食が至るところに置かれているのもうれしい。

昔ながらの味と伝統を守ると同時に、そこだけに固執せず、時代の流れに合わせ常に新しいものを生み出す姿勢が、世代を越えて愛され続ける秘訣なのかもしれない。

左側「未来」のスペースには、カラフルなデザインの商品が並び、見ているだけで楽しい
ミニサイズのプラズリン缶は1つ4ユーロ(約540円)。ちょっとしたお土産にもちょうどいい
SHOP DATA
マゼ(Mazet)
37 rue des archives 75004 Paris
http://www.mazetconfiseur.com/

取材・文/平賀 友里恵

※通貨レート 1ユーロ=約134円

※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。