スペイン発 スターシェフの豪華ストリートフード 後編

スペイン・バルセロナでは、スターシェフたちがストリートフードを提供する店を出店。後編では地元で採れた食材を使う店、忘れられつつある郷土料理をモダンにアレンジした専門店を店を紹介。

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Vol.96

スペイン・バルセロナでは、スターシェフたちがストリートフードを提供する店を続々と出店。前編では豪華なストリートフードブームの先駆け的な存在であるサンドウィッチやハンバーガーにこだわった2店を紹介したが、後編では、「地元」にこだわりながらストリートフードを提供するミシュランガイドで星を獲得したスターシェフたちの店にスポットを当てる。地元で採れた食材を使う店、忘れられつつある郷土料理をモダンにアレンジした専門店を紹介する。

郊外にあるミシュラン1つ星を獲得した店が、その地で採れた野菜や肉をふんだんに使ったサンドウィッチの店をバルセロナに出店
本店では60ユーロ(約8280円)するコース料理を提供するが、出店したストリートフードの店では手軽に楽しめるおつまみを豊富に用意
バルセロナに古くからあるピザ「コカ」を、スターシェフがモダンにアレンジしたコカ専門店も登場

地産地消にこだわった郊外の星付きレストランが、特製サンドウィッチを提供

スペイン・バルセロナから車で約2時間半のサガスという山間の小さな村に「エルス・カサルス」(Els Casals)という、ミシュランガイドで1つ星を獲得したレストランがある。レストランの敷地内の畑で採れた新鮮な野菜を使い、レストランのほど近くにはオーナーシェフ、オリオール・ロビラ氏の実家が経営する養豚場と精肉工場があり、そこで生産される肉やソーセージなどを使用。ほぼすべての食材をレストラン周辺で調達するという、こだわりの店だ。そのロビラ氏が2011年11月にバルセロナの大手レストラングループ「サガルディ」と組んでバルセロナ市内にオープンした店が「サガス」(Sagàs)だ。

パルメザンチーズとシシトウのようなミニピーマンをのせた、「牛肉のタルタルサンド」(12ユーロ=約1,670円)。くさみはほとんどくなく、食べやすい

のどかな田園地帯にある「エルス・カサルス」とは異なり、「サガス」はバルやカフェ、小さなショップが建ち並び、人通りが多いボルン地区にある。ここではブティファラ(ハーブやスパイスを練りこんだ粗引きソーセージ)や生ハムだけでなく、野菜やパンまですべて「エルス・カサルス」で使用しているものと同じものを、サガス村から毎日取り寄せている。

人気は「ポルケッタのサンドウィッチ」(12ユーロ=約1,670円)。ポルケッタとはハーブなどに漬けた子豚の丸焼き。「エルス・カサルス」で自家養豚場の生後2カ月の子豚を低温でじっくり焼き、「サガス」に直送している。そのほか、上質な肉を細かく切ったものにパルメザンチーズなどを加えた「牛肉のタルタルサンド」(12ユーロ=約1,670円)も、精肉工場を持つ同店ならではの自信作だ。また米国のニューヨークや中国、ベトナムなどの料理をイメージした「世界の味」シリーズの8種のサンドウィッチも人気。価格はもっともシンプルな「サルチチョン」と呼ばれるパプリカ漬けの薄切りハムのサンドウィッチが8ユーロ(約1,100円)で、そのほかのシリーズはすべて12ユーロ(約1,670円)だ。

パンはバンズ、コカ(バルセロナ風のピザの呼び名でもあるが、同店では地元・サガス村の伝統的なパンを指す)、蒸しパンと3種あり、商品によって使い分けられている。どれもミシュラン星付きレストランが作るものだけに、パンだけでも十分においしい。また店内ではロビラ氏の実家の精肉工場で生産される約9種の豚の燻製やソーセージも販売されており、人気を呼んでいる。

バルセロナからわざわざ約2時間半かけてサガス村にある本店に赴き、コース料理(60ユーロ~=約8,280円~)を頼まなくても、手軽においしい燻製とロビラ氏のアイデアが詰まったサンドウィッチが食べられるとあって、市内に暮らす若者や家族連れを中心に好評を博している。店側にとっても本店の宣伝にもなり、かつ燻製などテイクアウト商品の販売拠点となるなどメリットは大きい。また、大手レストラングループとの共同経営であるため、開業資金や店舗の賃貸料などが抑えられ、こだわりの商品をリーズナブルに提供できるのが、ヒットしている最大の理由ともなっている。

燻製は全てシェフの実家の精肉工場で作られたもので、保管庫の様子が客席からも見える。白カビで覆われたフエット(豚肉の腸詰)が人気。量り売りもされている
テーブル席もあるが、メインはカウンター席と、店内突き当りにあるシェアして利用する大テーブル。客同士で話がはずむこともあるというカジュアルな雰囲気
SHOP DATA
サガス(Sagàs)
Pla de Palau 13 Barcelona
http://www.sagaspagesosicuiners.com

懐かしのバルセロナ風ピザ「コカ」を主役にした専門店

バルセロナにあるミシュラン1つ星レストラン「アルキミア」(Alkimia)は、調理や演出に液体窒素をふんだんに利用するなど、モダンスパニッシュの代表として知られる名店。同店のシェフ、ジョルディ・ビラ氏もまた、シンプルなストリートフードの店を2014年11月にオープンしている。それがバルセロナのカテドラル(大聖堂)近く、迷路のような小道が入り組む観光散策スポットに立地する「ハム・オン・ウィールス」(Ham on wheels)だ。

1番人気の「エル・メホール」(12.90ユーロ=1,780円)は、最高級の生ハムを専用機械で切ってのせたもの。地元産のクラフトビールとの相性も抜群だ

店内には天井から生ハム風のランプがぶら下がり、ファッショナブルな印象。テーブルはなく、壁にカウンターがあるのみという簡素で小さい店構えが特徴だ。コンセプトは「モダンなコカ」。コカとは、バルセロナ名産のピザのようなものだが、形は長細くトマトソースは使わない。大抵はパン屋の隅に1、2種あるくらいで、近頃では日の当たらない存在だった。そんなコカを有名シェフであるビラ氏が手がけ、専門店として出店した理由は、コカをベースに新たな地元のストリートフードを作りたかったからだ。

同店のコカは全29種類。おすすめは最高峰の生ハムを専用の手動式切断機で毎朝カットして作る「エル・メホール」(12.90ユーロ=約1,780円)で、ユニークなものでは「ペキン・イ・ポコン」(「ペキン」は中国・北京と語呂合わせ。17.50ユーロ=約2,420円)。たっぷりの油で炒め煮した鴨にホイシンソース(海鮮醤)をかけ、きゅうり、ネギを散らしてマヨネーズをかけた中国風で、具材の濃い風味がコカとよく調和している。また、味噌と醤油とマヨネーズを加えた特製ソースにフレッシュチーズに見立てた豆腐とナスをのせた「日本」(6.50ユーロ=約900円)もおもしろい。なすの田楽をパンと食べているような、意外な組み合わせが絶妙だ。前述3品は冷たいコカだが、具材の上にチーズをかけてトーストするタイプもある。

本店の「アルキミア」では、5皿のコースで約70ユーロ(約9,660円)。1皿の量も控えめなのに対して、「ハム・オン・ウィールス」のコカは成人男性でも1つ食べれば十分満足できるサイズだ。客層は20~60代と幅広く、観光地にあるためテイクアウトする客がイートインする客より2割くらい多い。また、テイクアウトで売上が確保できるので、店内の諸経費が抑えられるというメリットもある。

スターシェフの手でアレンジされた伝統料理のコカと、最高峰の生ハムが食べられるということで、オープン時にはメディアに取り上げられ、その後は口コミで評判に。すでにコンセプトも評判も確立された本店では思い切った新機軸が打ち出しにくいため、ストリートフードへの進出は新たな話題づくりという意味でも店へのメリットは大きいそうだ。

味噌、醤油、マヨネーズのソースにオーブンで焼いたナスを敷き詰め、豆腐などをのせた「日本」(6.50ユーロ=約900円)。ヘルシーな一品だ
店内の内装は自転車メーカーが協賛していることから、座席がサドルになっていたり、自転車のモチーフが所々に散りばめられている
SHOP DATA
ハム・オン・ウィールス(Ham on wheels)
Plaça Sant Josep Oriol 6 Barcelona
https://www.facebook.com/hamonwheelsbcn

取材・文/MAKIKO HATA

※通貨レート 1ユーロ=約138円

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