フランス発 おいしさを追求したグルテンフリー 前編

フランスでは「グルテンフリー」のパンや料理に注目が集っており、米粉やそば粉などを使ったベーカリーやレストランが登場。前編ではグルテンフリーで評判のベーカリーやパティスリーを紹介。

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Vol.97

フランス人の食生活に欠かせない小麦を使ったパンやケーキ、その姿が今大きく変わろうとしている。小麦や大麦、ライ麦などに含まれるタンパク質の一種「グルテン」、これを除いた、すなわち小麦などを使わない「グルテンフリー」のパンや料理が今、注目を集めている。もともとはアレルギーの人のための代替食として知られていたが、近年、グルテンを含まない米粉やそば粉などを使ったベーカリーやレストランがパリに登場し、小麦とは違う新しいおいしさに魅了される人が増えている。前編では、グルテンフリーで評判のベーカリーやパティスリーを紹介する。

米粉やそば粉を使っておいしさを追求したパティスリーが人気。気軽に食べられるよう、マフィンやカヌレなどの焼き菓子の種類も充実している
米粉やそば粉のパンの新しい魅力を伝えたいと、その風味を活かしたパン屋が人気。パンだけでなく、菓子なども好評だ
米粉とそば粉ならではのもっちりとした弾力を堪能できる平形のパン。噛むほどに味わい深い。買い求めやすいよう、4分の1サイズより販売

定番フランス菓子を、グルテンフリーの新しいおいしさで提供

最近話題のグルテンフリーのパティスリー「ヘルムート・ニューケーキ」(Helmut Newcake)は、インテリアショップやスポーツショップが建ち並び、活気のあるパリのレピュブリック広場から歩いて10分ほどのところにある。経営者であるフランソワ・タリアフェロ氏と、妻でありパティシエのマリー氏が夫婦で切り盛りしている。

グルテンフリーとは思えない華やかなケーキがずらり(3.5~5ユーロ=約480~680円)。小麦粉では出せない香りや食感を活かし、ケーキの特徴に合わせた粉を、日々研究している

マリー氏はもともとパティシエとして修業していたが、自身が20歳のときにグルテン不耐症(グルテンを消化できない病気)を発症。小麦を受け付けない体では、小麦を常に扱うパティシエを続けられないと一度は諦めかけた。だが、ロンドンに訪れた際に見たグルテンフリーの店がパリには見あたらないことに気づき、夫のフランソワ氏とともにグルテンフリーのパティスリーを開く決心をし、同店を2011年のクリスマスにオープンした。

パティシエとしても、またフランス人としても日常であった小麦のある生活を断念せざるを得なかったマリー氏。だが目標にしたのは単なる「小麦を使わない代用食品」ではない。パティシエとしての誇りをかけて「従来品にはない、新しいおいしさ」を目指した。

伝統的なフランス菓子であればあるほど、味に保守的になる客が多い。そうした人たちを唸らせるには伝統を越えるおいしさが必要となる。例えば大小のシューを重ねた「ルリジューズ」(3.9ユーロ=約530円)は、米粉で焼き上げた柔らかいシューにコーンスターチで作ったカスタードクリームをたっぷり詰め、小麦粉でできたものより軽い口当たりに仕上げた。

焼き菓子も充実させ、フィナンシェやカヌレ、マフィンなど、なじみのあるものが並ぶ。フィナンシェ(2ユーロ=約270円)は、通常、小麦粉とアーモンドの粉を用いる焼き菓子だが、同店のフィナンシェはアーモンドの香りが際立ち、小麦を使ったものよりもリッチな味わいだ。ちなみに、粉の配合は企業秘密だという。

開店当初はグルテンフリーという言葉自体が世間にあまり知られていなかったが、メディアや口コミを通じて、あっという間に人気店に。オーガニック素材と新鮮なフルーツにもこだわっているため、「本当に質のよいものを食べたい」というパリジェンヌやマダム達に支持を得た。人気の高まりから、2014年には、高級ブティックや劇場が建ち並ぶマドレーヌ地区にテイクアウトのみの2号店をオープン。グルテンフリーをアレルギー対策やダイエットといった一部の人のための代用食ではなく、万人に愛される味わいに昇華させたことが、成功のポイントと言えそうだ。

一番人気の「タルトシトロン」は4ユーロ(約540円)。タルト生地は、小麦のものより控えめな香りで、酸味あるクリームとメレンゲのやさしい甘さを引き立たせる
本店にはカフェスペースも併設。北欧風のかわいらしい店内で、オーガニックの紅茶(3.5ユーロ=約473円)とともにケーキをゆっくりと楽しむことができる
SHOP DATA
ヘルムート・ニューケーキ(Helmut Newcake)
本店(写真)36 rue Bichat 75010 Paris
マドレーヌ2号店28 rue Vignon 75009 Paris
http://www.helmutnewcake.com/

グルテンフリーは結果論。おいしさを追求したベーカリー

閑静な住宅が建ち並び、骨董店街として有名なポパンクール地区。そんなエリアで話題を集めているのが、異色の経歴を持つ2人が経営するグルテンフリーのベーカリー「シャンベラン」(Chambelland)だ。

「普段使いのベーカリー」がモットー。米粉独特のもっちりしっとりした食感が、小麦を使ったものに比べて食べ応えがあり、後を引くおいしさ。パンのほか、米粉を使ったケーキや焼き菓子も人気だ

広告会社に勤めていたナタニエル・ドゥボワン氏は、あるとき2年間、世界を放浪。そこで得た新しい発想や知識をもとに、フランスで新しいビジネスの立ち上げを模索していた。そんな折、生物学者を経てパン職人に転身したトマ・テフリ=シャンベラン氏と出会い、小麦を使わない新しいパン屋の出店計画に着手。2013年の暮れ、フランス南部に専用の製粉所を建設し、翌年の5月、パリに同店をオープンした。米粉やそば粉のパンの新しい魅力を伝えたいという思いで店を始めたため、グルテンフリーになったのは結果論とのこと。「従来の小麦粉との香り、味、食感の違いを感じてもらい、米・そば粉のおいしさを知ってほしい」と語るナタニエル氏。

米粉・そば粉のパンといっても、種類は豊富だ。長方形のパン「ルヴァン」は、米粉とそば粉の両方を配合。プレーンのほかに、五穀入りやドライフルーツ入りがある(4.3~5.3ユーロ=約580~720円)。店名を冠したスティックタイプのパン「シャンベリンヌ」(1.3~1.5ユーロ=約180~200円)も、米粉とそば粉を使用。プレーン、チョコ、シリアル入りの3種で、手軽なサイズで気軽に楽しめる。生地は小麦のパンよりきめが細かく、米粉のもっちりした弾力と甘みにそば粉が香り、噛むほどに味わい深い。

甘い「パン・デュ・シュクル」(2~2.5ユーロ=約270~338円)は米粉のみを使用。米粉独特のもちもちした食感が後を引く。同じく米粉のみの「フォカッチャ」(3~4.7ユーロ=約410~640円)は、ゴマ入りやオリーブ入りなど5種類を用意。小麦のパンと比べ、粉の香りが邪魔をせず、素材の味をストレートに味わえる。そのほか、米粉を使ったケーキや焼き菓子、クッキーなども豊富だ。

工房は地下にあり、店内は豊かな香りが漂い、食欲をそそる。9時の開店に合わせ、朝食を楽しもうと、朝から近所の人でテラス席は賑わっている。この味に惚れ込んだシェフや有名ホテルからの注文も多く、近所に住む人からプロの料理人までファンは着実に増えている。

アレルギー対策やダイエット目的では「代用食」の域を出なかったかもしれない。最初から「おいしさ」にこだわったからこそ、同店は美食の都パリで万人に認められるようになったのだ。

一番人気は「パン・オ・サンク・グラン(五穀のパン)」5.3ユーロ(約720円)。米粉とそば粉を合わせた食感に五穀のプチプチ感がたまらない
店内の一角には、自社の製粉所で製粉した米粉やオーガニックのジャム、グルテンフリーのレシピ本なども並び、自宅でグルテンフリーを楽しむきっかけに
SHOP DATA
シャンベラン(Chambelland)
14 rue ternaux 75011 Paris
http://chambelland.com/

取材・文/平賀 友里恵

※通貨レート 1ユーロ=約136円

※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。