台湾発 台湾でとんかつがアツい! 後編

台湾で人気となっている日本食「とんかつ」。後編では、「麻婆豆腐×とんかつ」「イタリアン×とんかつ」など、新しいアイデアを加え新たな進化を遂げた「ニューウェイブとんかつ」を取材

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Vol.108

台湾で人気の日本食「とんかつ」。日本から台湾へ進出した専門店による王道のとんかつが好評だが、新しいアイデアを加えたメニューも台湾人に受けている。日本におけるとんかつの概念を覆すような斬新な逸品も続々と登場しており、ますます目が離せない。

後編では「麻婆豆腐×とんかつ」「イタリアン×とんかつ」など、台湾で新たな進化を遂げた「ニューウェイブとんかつ」に迫る。

台湾の夜市の屋台では、揚げた豚肉や鶏肉の料理が人気。サクサクと食感がよく、ボリュームのある揚げ物は台湾の食文化には欠かせない。これが台湾でとんかつが人気になった背景
台湾にある日本料理店の「かつ丼」。旨みを閉じ込めたサクサクのとんかつを卵でとじた王道メニュー。「とんかつを活かしたニューウェイブ丼」のベースになっている
ボリュームが物足りないと感じそうなメニューにとんかつを合わせることで、味だけでなく満腹感にもこだわる台湾人に人気が出ている

麻婆豆腐ととんかつ! 台湾ならではのコラボレーション

オフィスが建ち並ぶ台北のメインストリートの1つである南京東路沿いに、2011年11月オープンした台湾の丼専門店「鮮五丼(シェンウードン)」南京店がある。平日のランチタイムや夕食時には、近くで働くビジネスマンやOLで賑わう丼専門のファーストフード店だ。

「麻婆雪花豬排丼」はとんかつにスパイシーな麻婆豆腐を合わせた一品。スパイシーな麻婆豆腐がとんかつによく合いご飯が進む

同店では、とんかつを使った様々な丼ものが看板メニューに掲げられるほど人気。さらに、サイドメニューとして別途オーダーできるほど、とんかつは欠かすことのできないメニューとなっている。

「麻婆雪花豬排丼」(139元=約482円)は、とんかつと麻婆豆腐を合わせた丼で、台湾ではスパイシーな料理も好まれることから、辛いものが好きな人を取り込むためのメニューとして作られた。この斬新なアイデアは定期的に行う新メニューの試食会にて、満場一致で発売が決定したという。肉厚でサクサクした食感のとんかつに、山椒や生姜をきかせた本格的な辛みのある麻婆豆腐がよくあう一品だ。一般的に麻婆豆腐には豚の挽き肉が入っているが、それをとんかつにすることによって、とんかつの衣に麻婆豆腐のタレがしみこみ、一体感が生まれる。新しいものを好む若い層に人気があるという。それにしても、とんかつに麻婆ソースを合わせるとは! 日本人にはなかなか思い浮かばない台湾人ならではの発想だ。

人気ナンバーワンメニュー「咖哩雪花豬排丼」(129元=約448円)は、まろやかな甘みのカレーにとんかつをプラスした一品で、食べやすさから老若男女問わず支持されている。カレーだけでは物足りないというニーズに合わせて、とんかつを加えてボリュームを出したメニューだ。とんかつをカレーに浸さないことでサクサク感を残すのも特徴だ。

中国発祥のラーメンやインド起源のカレーライスが日本の国民食になり、今や海外でも大評判なように、食は異文化と出合って進化する。日本発のとんかつが台湾で中華料理と巡り合い生まれた「麻婆カツ丼」が、いつしか世界のスタンダードになる日が来るかもしれない。

「咖哩雪花豬排丼」はカレー丼にとんかつをプラスした店の人気ナンバーワンメニュー。台湾でも人気のある日本風のカレーととんかつの組み合わせが人気なのもうなずける
店長の巫昆錡氏。「とんかつを取り入れたメニューは男女問わず人気があるので欠かせない。今後も新しいソースと合わせて新メニューを作っていきたい」と語る
鮮五丼 南京店(シェンウードン ナンジンティエン)
台北市中山區南京東路三段115號
http://www.donmono.com.tw/index.aspx

日本食の枠組みを超えイタリアンと融合したとんかつ

台北の隣町で首都に次ぐ経済の中心地として近年著しい発展を見せる新北市の板橋エリア。オフィスや学校なども多いこの地に「Is Pasta(イズパスタ)」がある。部活帰りにお腹を空かせた学生のほか、休日はファミリーを中心にいつも満員の人気イタリアンレストランだ。

人気メニュー「咖哩豬排義大利麵」は、カレーソースのスパゲティにとんかつをのせた一品。ボリューム感を重視する若い層に人気だという

1990年にオープンした当時は日本食のレストランだったが、若者の増加など街の移り変わりに合わせてイタリアンレストランに業態を変更した。ただ、日本食時代の日本人料理長からレシピを教わったとんかつはいまでも人気。業態を変えた後もとんかつを取り入れたメニューを目玉にし、他店との差別化を図ったそうだ。とんかつはイタリアンには少ないカリカリとした食感を与えてくれるので、一般的なイタリアンに飽きた人やボリュームを求める若者に受けがいいという。

人気メニュー「咖哩豬排義大利麵」(158元=約548円) はカレーソースのスパゲティにとんかつをトッピングしたボリューム感あふれる一品。男性や学生に特に人気がある。とんかつの作り方にはイタリアンならではの工夫を加え、衣に全卵ではなく卵白の部分だけを使っている。こうすることで歯ごたえがさらに良くなり、よりサクサクとした衣に仕上がる。スパゲティにとんかつの衣のサクサク感が加わり、舌だけでなく食感でも満足感を高めている。

「米蘭起司捲蕃茄燉飯」(168元=約583円)はチーズ入りのとんかつとトマトリゾットを合わせたメニュー。薄切りの豚肉でモッツァレラチーズとベーコンを巻いて揚げた変り種とんかつの上には、なんと韓国風味付けもみ海苔をトッピング。トマトの酸味とチーズのまろやかさに、香りのよい海苔が絶妙なアクセントとなっている。チーズのとろ~り感ととんかつのサクサクの歯ごたえ、リゾットのしっとりとした口あたり。一見ばらばらに感じる様々な食感が見事なハーモニーを奏でている。日本やイタリア、韓国などの味が融合した、まさに“一皿の上に世界がある”一品だ。

豚肉の旨みを衣で閉じ込めたとんかつは、麻婆ソースやカレー、チーズなど様々な組み合わせが可能な料理だ。日本料理という概念にとらわれない発想がとんかつをますます進化させている。台湾で、そして世界で、次にどんなとんかつ料理が生まれるのか。これからも楽しみだ。

「米蘭起司捲蕃茄燉飯」は、チーズやベーコンを捲いた豚肉を揚げたアレンジとんかつを、トマトリゾットにトッピングしたメニュー。サクサクのとんかつがリゾットにひと味違う食感を加えてくれる
シェフの呉政坤氏。斬新なメニューはオーナーらと何度も試食を繰り返して作り出すという。とんかつは日本食だが、衣がソースを吸ってどんな料理にも合うので万能だと語る
Is pasta 義大利麵(イズパスタ イダリーミェン)
新北市板橋區文化路一段321號2F
https://www.facebook.com/IsPasta/

取材・文/石井三紀子(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1ニュー台湾ドル=約3.47円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。