シアトル発 ラーメンブームに迫る 前編

現在、アメリカで人気なのが日本のラーメン。特にシアトルでは、日本からラーメン店が数多く進出している。前編では、ラーメンが現地で「おしゃれな高級料理」として認識された理由に迫る

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Vol.109

メキシコ料理のタコスやベトナム料理のフォーのほか、ポップコーンやパンケーキなど、これまで気軽に食べていたものを、よりオシャレに楽しむのが最近のアメリカのトレンド。そして今人気沸騰中なのが日本のラーメンだ。かつては袋入りのインスタントばかりだったが、「ラーメンはオシャレ」と認知され始めたことで、日本のように回転率重視ではなく、客単価が高い業態としてのビジネスモデルができあがった。特に、ニューヨークやロサンゼルスと並ぶ「トレンド発信基地」であるシアトルでは、日本のラーメン店が数多く進出。ラーメンブームを象徴する都市の1つとなっている。

前編では日本から進出して「本場の味」を再現しているラーメンが、「高級料理」と認識されている理由に迫る。

現地で圧倒的な人気を誇るのは、とんこつベースのスープを使ったラーメン。濃厚でスパイシーな味付けなら、なおさらヒット間違いなし!
ラーメン店の主な客層である20~40代やファミリーから好感を得るためには、オシャレな内装は欠かせない。広々として、ゆったりとくつろげる雰囲気も重要
ラーメンにプラスして、たこ焼きなど日本の居酒屋メニューを充実させるのが、繁盛する秘訣

「私の一品」をクリエイトできる特別感で、高単価でも行列ができる店に

マイクロソフトやアマゾン・ドット・コムなど、IT分野をはじめとする世界的企業が数多くあるシアトル。その衛星都市・ベルビュー市の高級住宅街に近いケルシークリーク地区の一角に、東京に本拠を置くラーメンチェーンの「空海(KUKAI)」が、2012年12月オープン。地元ワシントン大学出身のオーナー3名によるフランチャイズでアメリカ初出店を果たした(現在は店名を「輝月(KIZUKI)」に変更)。

すべての新メニューは、日本側と協力して開発。その1つ「ゆず塩ラーメン」(12ドル=約1,344円)は和の趣とさわやかな後味が高評価で、日本の店舗に逆輸入されたほど

もっとも人気の高いメニューは「限定特濃ニンニクとんこつ醤油ラーメン」と「とんこつラーメン」(各12ドル=約1,344円)。現地で調達する食材だけでは日本の味を忠実に再現できないことから、長期にわたるFDA(アメリカ食品医薬品局)の認可手続きを経て、ほぼすべての材料を日本から空輸している。フランス料理の出汁の一種、フォンの作り方と同様に、ローストした骨を10時間以上煮込んだスープは繊細かつリッチな味わいに仕上がり、地元客の舌を楽しませている。

税金とチップ(合わせて30%)を入れると日本よりかなり高めの価格。それでも行列ができるのは味もさることながら、麺やトッピングで「自分だけの一品」をつくる楽しさがあるからだ。麺は細麺、縮れ麺、太麺の3種類。トッピングは14種類から選べる。さらに、減塩スープのオプションも用意。日本の人にとっては普通に感じるが、ここまで客の細かなリクエストを聞いてくれる店が現地にはほかにないことも、人気の理由の1つだ。

また、「居酒屋メニュー」として16種類ものサイドメニューを用意。店のオペレーションの都合よりも客の満足度を重視するの姿勢が、合理的な運営やサービスに傾きがちなアメリカでは新鮮に映り、地元客の心をつかんでいる。

アメリカ3号店となるシアトルのキャピトルヒル店では、店のあるエリアが単身者の多いナイトタウンであることから、カクテルも作れる本格的なバーを設けた。焼酎をクランベリージュースやカルピスで割った人気の「ハローキティ」など、カクテルも6~9ドル(約672~1,008円)で提供。1号店の客層はファミリーが中心だが、こちらはシアトル市内でダウンタウンに近い場所柄、ビジネス層が仕事帰りのオシャレな飲み会スポットとして利用している。

ササッと食事を済ます場所ではなく、客を最高にもてなしてくれる贅沢な空間。そう認識されることで、ラーメン店は一大トレンドとなった。

ラーメンと一緒に居酒屋メニューを楽しむのがお約束。一番人気は特製だれに漬け込む「唐揚げ」で、ごま風味の「唐揚げ丼」や手羽を使った「チキンウィング」などのバリエーションも
味だけでなく空間演出にもこだわる。アジアで著名なインテリア・デザイナーが全店舗を設計。器もまた、和のテイストを意識したデザインに
KIZUKI(輝月)
14845 Main Street, Bellevue, WA 98007
http://www.kizuki.com/

まず前菜、次にラーメン。現地の食習慣に溶け込む努力

北海道・旭川発祥で今や日本全国、そしてアジア各国にも店舗を持つ「山頭火」(Santouka)は、北米各地でも店舗を展開。シアトルでの1号店は、IT企業のオフィスやショッピングモールが集まり、再開発が進むベルビュー市のダウンタウンに2014年4月オープン。

北海道のものと硬さが似ているというシアトルの水を使い、日本と同じ製法で煮込んだスープが自慢の「しおらーめん」

ラーメンメニューの中で最も人気が高いのは、日本と同様に「山頭火」の代名詞である「しおらーめん」(レギュラーサイズ10.96ドル=約1,315円)。日本で修業したスタッフが手仕込む豚骨スープは、30分置きにコンディションをチェックしながら20時間煮込むことで、白濁のやさしい味に。最後の一滴まで楽しめる塩分控えめの本格スープが、地元客を中心に評判になっている。

ただし、ラーメンだけにこだわればいいわけではない。成功の鍵は「アメリカ人の食事方法」への理解と対応だ。アメリカ人は大人数で来店して、最初に複数のサイドメニューを前菜のようにみんなでシェアする人が多い。それが済んでからメイン料理であるラーメンに移る。つまり、ラーメン店でもフレンチやイタリアンのコース料理と同様、順番に時間をかけて楽しむ。そこでラーメンだけでなく、たこ焼き、唐揚げ、餃子などのサイドメニュー(各2~6.8ドル=約224~761円)も充実させた。デザートも日本らしさを意識したもちアイス、大学いも、おはぎ(各2.8~4ドル=約313~448円)を用意。滞在時間は増えるので回転数は落ちるが、その分、客単価は上がるのだ。

また、忙しくて店内でゆっくり味わう時間がないビジネス層が多いため、つけ麺(レギュラーサイズ11.96ドル=約1,339円)や、まぜ麺(レギュラーサイズ11.50ドル=約1,288円)を含むテイクアウトメニューも用意。さらに、ピザ以外にもサンドウィッチやフライドチキンなど、ありとあらゆるものがネットやスマートフォンのアプリを使って注文できる「デリバリー大国」アメリカの実情に合わせ、同店でも出前サービスを実施している。

料理の味は日本と同じ。だが提供の仕方は現地に合わせる。ある意味で「和魂洋才」が海外進出の鍵といえるのかもしれない。

スパイシーな味を求めるアメリカ人向けに、「ねぎなんばん」(レギュラーサイズ11.50ドル=約1,288円)を激辛にアレンジして提供。ハラペーニョ(青唐辛子)の辛さが口の中でさく裂!
チャーシューやきくらげなどが入ったまぜ麺に、人気の唐揚げと味玉、枝豆をプラスした「弁当」(11.50ドル=約1,288円)。イベント向けに考案したところ好評だったため、昨夏からテイクアウト販売を開始
SANTOUKA(山頭火)
103 Bellevue Way NE, Suite 3, Bellevue, WA 98004
http://www.santouka-usa.com/

取材・文/ハントシンガー典子(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1ドル=約112円
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